20話
「目覚めの時が近い。さぁ覚醒せよ。愛しき天の使い人よ。・・・」
最近、僕は聖女リナエルの祈りによって起こされていた。しかし、今日は珍しく覚醒前から孫のハクも来ていたらしく、母のマリルに頭をはたかれながらもせこせこと朝から僕の部屋の掃除をしていたらしく少し騒がしかった。
「おばあ様もアースはもう起きてますから。嘘寝をやめて起きるんだ。」
「ウフフ。わかってますよハク。でも、これは神聖なお祈りですからね。それにしても修行の成果かしらね。もうハクもスキル鑑定も使えるようになったんだね。しかし、勝手に鑑定したことを御使い様に知られることは嫌われますよ。」
笑みを浮かべている聖女リナエルの横でハクにアイアンクローをかましているマリルはどうやらハクに口の利き方や作法を教えているらしい。実にスパルタだ。
「助けてください。御使い様。アース様。ヘルプです。何とかお母さまに言ってください。お願いします。」
どうやらハクにも赤子の僕がもうすでに喋れることがばれたらしい。はぁ~この赤子の体もどうやら成長も早いらしい。寝返り。お座りからの立ち上がり、そしてよちよち歩きと順調に成長している僕。
食事がわりの丹薬のおかげか、聖女の祈りのせいか、それとも睡眠学習からのイメトレと瞑想からの深い探求思慮による次々と獲得するスキル。このまま悟りの境地に達する勢いだ。
もちろん、すでにあらゆる種族や古来の言葉まで全世界の言語を理解し話すこともできるようになっていた。
でもあえて。これまでは赤子が出す「あああ~、ううう~。」しか声に出していなかった。もちろん聖女リナエルの前でも。どうしてと言われたら、ハクの躾を見ていたからだ。そう、口は禍の元だと悟ったからだ。
でも、ハクからは赤子の僕にいろいろな教訓を教えてくれる存在だから腹をくくって助けることを決めた。ハクにも教訓のお返しではないが僕のつたないで伝わるかわからないが言葉かける。
「ハクは素敵なレディになりたくないの。言葉遣いの一つで世界に愛されるのにね。」
「エッ、イケオジハーレムも夢じゃない・・・・痛たたた。死ぬー。」
そういうとこだぞハク。アイアンクローしているマリルの爪がめり込み顔面から血が出てるぞ。
「幸福は口福とも言われるぞ。反対に不幸は負口ともいうからな。だからこそ、聖女リナエルから受けた幸福を母のマリルはハクに伝えたいんだぞ。母の愛を感じられないハクは親不幸だぞ。親怖口、親負口からまずは近親者の母や祖母に対して親孝口してみろ。そうすればすぐに評判の親孝行娘として世間が認め嫁の貰い手が引く手あまたになるような素敵なレディになるからねハク。」
そんなたわいもない言葉を送っている途中で、ハクはずるりと地べたに座り込むようにおろされた。ハクをアイアンクローで持ち上げていたマリルも肩を揺らしながら涙をこぼしながら嗚咽しながらしゃがみこんでしまった。
そんな子供のように泣きじゃくるマリルを優しく抱きしめる聖女リナエルは右手でハクの頭を優しくなでる。
「ハクは誰に対しても物怖じしないところが長所だけど。でも、この世界は無慈悲なのよ。だからこそどんな力にも屈しない力や強い心が必要なのよ。マリルはこの世で一番ハクを愛しているからこそ、身分相応な作法や躾をしているのよ。もし、生まれた世界が無常で奴隷以下の存在であったとしたら、口ひとつ態度一つで既に母より先に死ぬことが運命づけられてしまうこともあるのよ。」
聖女リナエルをハクは少しの間見つめていたがすぐに立ち上がり、90度に腰から上半身を曲げて
マリルに礼をした。
「お母様、お婆様、ありがとう。私も愛してます。そして御使い様には感謝します。それにどうか私を従者にしてください。」
ハクはやはりマリルの娘である。母親の姿をしっかりと見ていたのだ。聖女の従者になった母のことを。
そしてわかっていたのだ。この幽世の賽の河原というチュートリアルからハク自身も終えなければいけないことを。
僕は身体強化のバフと浮遊術式を自らにかけてハク達親子を見下ろすように宙に浮かんだ。浮かんでいる僕の背には窓から差し込む朝日が神々しく見えたのか聖女リナエルは祈りだした。
「ありがたき御使い様。幽世の賽の河原にて私は自らの正義でこの幽世の理を改変してしまいました。間違っているとは思いません。だからこそ、この地を守り抜くと決めたのです。マリル、ジオ、ダンそしてこの地に生きとし生けるものたちは皆同じ運命を背負います。ですが、ハクはまだまだ未熟で現世にも降臨したことも転生さえしたこともありません。もし、御使い様がご降臨の際はどうか従者として我が孫ハクをお連れしてください。」
「聖女様には赤子の僕の救い主です。それに僕はまだまだ未熟な者でしかありません。ハク同様にまだまだこの世とあの世の理を知らなければなりません。そして叶うなら僕にしかなしえない使命があります。だからこそ、ハクの申し出には心から感謝しかありません。どうか、聖女様親子の愛でもうしばし僕にご指導願います。」
そして、僕はリナエルとマリルの偉大な胸に飛び込んだのだ。




