19話
「さぁ、こんなチャンスは無いわよ。ここで学ぶ全てがあるといっても過言ではないわ。ここでのすべてをあなたに捧げてあげるからね。ハク。御使い様があえてこの時におこしになられた理由もあるのでしょう。すべての事象を我らは御使い様に捧げます。」
ボーとしている赤子の僕は聖女がなぜハクと共に聖女リナエスが伝えようとしたのかをすぐに理解した。
戦闘を桟敷席という間近で見ているだけで僕のスキルを確実に増やしていくのだ。
思わず脳がオーバーヒートを起こしそうになるほどのスキルの数。聖女の横に立つ戦闘メイドのマリルが僕の口に飴をいれてくれた。そして優しく労わりながら大きな胸で抱きしめてくれた。
「御使い様も既に見るだけでスキルが増えていくのですね。筋肉の躍動そして呼吸、所作に武器の扱い方。表情や目の動き、そして連携の動作を観察するだけでスキルを得られるようになったのも脳内思考の発達の向上がみられるせいですよ。普段からのモノマネや反芻する思考が観察眼により得難い他人のスキルをコピーしたかのように自分のモノになる感覚はかなり脳にも負担がかかりますが口に含ませた丹薬が癒してくれます。」
マリルの横に立ち金縛りになっているハクも僕よりも見ている世界がまた違うようであるときは口ずさみ、ある時は体からオーラを放ちながらも新たなスキルを取得しているように見えた。
時折。聖女リナエルは軍師の如く亡者たちに指示するがごとく激を飛ばす。
「この世界は理不尽だ。お前たちの意志でここに来たのか。天界に直ぐにいけないのはお前のせいなのか!地の底に引きずり困れなかっただけまだましだ!ここでお前たちの全てをこの時にかけてみろ!どうせ輪廻の輪から出れんとおもうなら煉獄に落ちてしまうぞ!もし、私の声に耳を傾けるなら力を貸そう。救いの道を示すことはできるからな。しかし、示すだけだぞ。最後に救えるのはお前たち自身だからな!」
その声が届いた亡者は存在変化するがごとく、ある亡者はオークに、ある亡者は巨人にと次々に姿や大きさ、叫び声も変わっていアル
戦争で理不尽に死んでいった、野心のあった若者、人生の絶頂期だった商人、さまざま魂の輝きにあわせた変化が姿に現れる。どす黒い心の闇が魂を浸食するがごとく魔物や妖怪、悪魔のような様々な種族に生まれ変わっていった。それは、戦争で死んだ無念を晴らすかの如くおぞましい程の肉体の変化をもたらしたのだ。
しかし、中には天使に生まれ変わるかの如く後光を輝かせる聖者も出てきていた。
だが、ここは賽の河原の河川敷。赤子でさえ慈悲を与えられない場所。聖者であろうが天使であろうが力を示さなければ天にも昇れない場所。そう悪役令嬢だった過去がある聖女でもすぐには天に昇れずここにくるしかなかったような場所だ。
無慈悲な戦闘が起きれば力を示さなければ生き残れない。それを理不尽に蹂躙する者がいる。幽世で
聖女の旦那となったジオである。
聖女に出会う前は地に落ちた・・・いや、利用されハメられて鬼となった勇者だった。しかし、親より早く亡くなっただけの無垢な子供に石積させ、石塔を壊すだけの鬼たちと同じにはなりたくなかった鬼勇者ジオは聖女リナエルの導きにより賽の河原によるシステムを崩壊させたのだ。
だからこそ、戦争で理不尽になくなり、亡者となった者達を振り分けるために天界と煉獄を巻き込んだイベントを作り上げたのだ。
そして、魔物の軍団となった者達を蹂躙していく鬼勇者のジオ。幽世という娯楽に飢えた者たちはここぞとばかり掛け金や賞金を釣り上げて楽しむ。
それを傍らで観察しながらスキルを得ていく者達。
ある意味カオスと化す賽の河原の河川敷だが、やがて徐々に賑わいは失せてゆく。光と共に・・・それは天に昇る光の柱が輪廻の輪から外れる聖者達を示し。蛍の光のように消え失せていく無数の光は輪廻の輪に戻るも人達。そして、塵や泥のように河川敷に溶け行く魔物ども。
妖達は和気あいあいと懐をあっためて幽世の各地に戻り始める。
そして、大戦で亡くなった人々の罪をこんな短期間ではかる術は見事であると聖女と勇者は天界と煉獄の者からお礼を言われるのであった。
本来のイレギュラーなチュートリアルであるならばこの鬼勇者に叩きのめされるというような負けイベント確定なんだろうけど、運営側に入っている僕はイレギュラー以上のチュートリアルをこなしているようだった。
この時の戦や戦闘、武術大会のような死合い以外のイベント風景もこのピクニック気分で連れられた僕にとっても貴重なスキルアップにも間違いなくなっていたのである。
そして、この経験を積ませた聖女の思惑はこのコールドスリープを利用したMMORPGにおける仮想世界の実験的な試みを行っていると悟らされた一因となったのだ。
でも、僕は忘れない。この世界で幼女の心を救うことを!




