119_予知夢の未来を辿る理由の最初の一つ
オレリア殿下の言葉について考えてみる。
すごく、歌が下手。
それは確かに、ローゼリアの子孫としては意外かも?ローゼリアはとっても歌が上手くて、歌姫としても活躍していたから。
だけど、それがどうしたって言うんだろう?
たしかに下手なよりはうまい方がいいかもしれないけれど、たとえ下手……音痴だったとしても、別に、それが王族としての庇護には決してならないのに──
「ああっ!」
雷に打たれたような感覚。私は重大なことを思いだしていた。
『その、『約束』とは、スランの女王が代々妖精女王と絆を結ぶために果たさなければならない約束のことだろうか』
『予知夢でエドガー殿下に聞いたが、歌を捧げるらしい』
そうだわ。たしかにフェリクス様はそう言っていた。
約束は、歌を捧げることだって。
オレリア殿下が音痴で、とてもじゃないけれどその歌を妖精女王に捧げることなどできないのだとしたら……。
(そのせいで、約束が果たせなくて、スランは滅びるってこと……!?)
な、な、なんてことなの!?
スランにとってそれほど歌が大きな意味を持つことを踏まえれば、オレリア殿下がこれほど泣いて絶望するのも無理はないことなのかもしれない。
(そうか、オレリア殿下が歌を捧げられないから、妹君のシェリア殿下が次期女王に選ばれたっていうこと?)
基本的には長子が王位を継ぐスラン王国だけれど、一番重要なのは妖精との絆を繋ぐこと。その約束を果たせない女王では意味がない。そういうことなのだろう。
約束通り、歌を捧げるためにシェリア殿下が次期女王として儀式を行って、だけど、やっぱり本来その役割を担うはずだったオレリア殿下でなければだめだった……。
そう考えると辻褄があうわね。
私は泣き崩れてしまったオレリア殿下の背中をさすりながら考える。
……そういうことなら、やりようはあると思う。
だけど、まずは大事なことを確認しなくちゃいけないわよね。
「オレリア殿下は、王位に就いて妖精との絆をご自分が繋ぐことを望みますか?」
「当然よ!」
間髪入れずに返されたオレリア殿下の言葉には、一切迷いがなかった。
「だけど、現実には私では歌がうまく歌えなくて、約束を果たせないの!女王の一番重要な仕事は妖精との約束を果たすこと。それができないなら王位継承権は得られないの。……妹のシェリアが王位を継ぐ話が現実的に進み始めているわ」
どうやら私の推測は当たっていそうね。
少し落ち着いてきたオレリア殿下はぐすぐすと鼻をすすりながらも続ける。
「私、小さな頃は騎士になりたかったの」
「まあ、そうだったんですか?」
「だから女王になんか興味がなくて……それで歌うことを拒絶していた。本当は、教育の最初に歌うことを学ぶのがこの国の王族としての義務だったのに。だから、だから、こんな風になっちゃったんだわ。やっと歌と向き合った時、はじめて自分の歌が人に披露できるようなものじゃないと知ったの。それからは、また歌から逃げたわ。せめてそれからすぐに訓練していればまだマシだったかもしれないのに。やっと女王になりたいと心から思うように鳴った時には、もうどうにもならなくなっていた」
その時のことを思い出したのか、ぶるりと肩を震わせるオレリア殿下。
心なしか顔色も悪い。
「今思い出しても恐ろしい……あの頃の私は自分が音痴だなんて知らなかった。あれはそう、お母様の誕生日を祝う夜会で、祝いとして捧げるためにこの国で一番古い歌を参加した貴族達皆で歌ったの」
ちょ、ちょっと待って?私は今、夜に幽霊が出た恐ろしい話を聞いているのかしら?
オレリア殿下のあまりの迫力に、どんどん背筋が寒くなって来たのだけれど。
相槌を打つことすら憚られて、ごくりと息を呑む。
「心を入れ替えたばかりだった私は真面目に歌ったわ。心を込めて、歌と向き合ってね。そうしたら何が起こったと思う?ふと気づいたとき、周囲にいた貴族達が!全員!信じられないものを見るような目で私を見ていたの!賞賛の目じゃないわよ。あれは本気で引いていたわ。何を言われたわけでもないのにあの瞬間悟ったの。私の歌、ひどいんだって」
「そ、それは、たしかに恐ろしいですね」
しっかり想像して、思わずゾッとしてしまった。
「あ、だめ、思い出しただけで死にそう」
随分トラウマになってしまっているらしいオレリア殿下は、空虚を見つめるような顔で呟いた。
「オレリア殿下!しっかり!大丈夫です、私と一緒に特訓しましょう!」
「……あれからちょっとは練習したの。それでもうまくなる気がしなくて、歌おうとすると身体が震えて……」
あああ、だめだめ!オレリア殿下、戻って来て!
油断すると今にも現実世界から消え去ってしまいそうなオレリア殿下の手を慌てて掴む。
「し、しっかり!なんとかなります!そのために私がこうしてお側にいるんですから!」
「……本当に、なんとかなると思う?」
「もちろんです!」
というか、なんとかしなければこの国も、多分世界も滅ぶので!




