115_まさかの再会に驚きです
ふと見ると、道をあけた猫ちゃんたちがぴしりと固まり、縮こまっているようにみえる。
ははーん、なるほど!この猫ちゃんはここら辺一帯を縄張りにしているボス猫ちゃんだったのね!
ミシェルが自分に許可なく自分の縄張りの他の猫たちをこうして連れてきてしまったから気に食わないというところかしら?
うんうん、それは怒るのも無理はない。
でもミシェルはまだ小さい子猫だし、私のために一生懸命お仕事をしてくれただけで、悪気はないのよね。
「ちょっとー!ひょっとしてあんた、ルシルに怒っているの~!?そんなのあたちが許さないのよう!」
あらら、このボス猫ちゃんにとっては恐らく一番の元凶ともいえるであろうミシェルがぷりぷり怒って喧嘩を売り出してしまったわ!
これは一触即発なのでは?と思い、ボス猫ちゃんの反応をうかがってみたけれど……怒りがさらに湧きあがるかと思いきや、ギョッと驚いているように見える。まあ、暗くて目しか見えないんだけれど。
「な、なんだお前!?人間……じゃないな!?猫……なのか……?いや、妖精に近い存在……?」
さすが人語を話せる猫ちゃん!人化した姿のミシェルだけれど、その正体が普通の人間ではないと見抜いているわよ。それどころか猫であることも、半精霊であることも気づいているじゃあないの。
ただし、なんとなく正解にはたどり着けないでいるようで、すごく混乱しているみたいだ。それはそうよね、だってミシェルもマーズもジャックも、かなり特別な存在なのだから。
……そんな特殊なミシェルの正体について、どうしてそこまで近い推測をすることができるのかしら?
はて?と疑問に思っているうちに、周囲の猫ちゃんたちが控えめに声を上げる。
「みゃおー……」
「うにゃーん……」
「は?何言ってるんだ?こいつらが救世主かもしれないなんて、そんなわけないだろう!」
「みゃみゃ……」
「ふみゃ……」
「いや、そんなわけ……まさか……」
うーん、ボス猫ちゃんの声はまだしも、他の子達の声は小さくてなんて言っているか聞こえないわね。
そんなボス猫ちゃんも段々困惑しているような声になってきたわ。どんな相談をしているのかしら?
それにしても、スランにいる間にしなければならないことは多いし。無用な争いは避けたい。
このまま猫ちゃんたちがボス猫ちゃんを説得して、なんとか穏便に協力してもらえればいいのだけれど……。
だって、毛玉みたいになっちゃった妖精たちにとっては、とても他人ごとではないのだ。きっとこの子達も出来ることはしたいはずだし、私もこの子達の力を借りたい場面がきっとくるような気がするのよね。
そんなことを思いながら猫たちが話し合っているのを待っていると、なんだかボス猫ちゃんが荒ぶりだした。
「おい!騙されるな!そんなことができるのは……リリーベルかあいつの過去の飼い主ぐらいなんだよっ!!!」
「ええっ!?」
ハッ!いけない!驚きすぎて大声が出ちゃったわ。この場にいる全員がびくりとしてしまったのが気配で分かった。
いや、でも、仕方ないわよ。だって今、リリーベルって言ったわよね?
……待って。そんなわけがないと思っていたから、考えもしなかったけれど。
人語を操る特別な猫、この勇ましい声、闇夜に溶け込む黒い毛並み、光る瞳の力強さ、こんなに多くの猫ちゃんたちをまとめあげて従えているカリスマ性……。
私、とっても覚えがある。
「あーやだやだ、ほんっとに許せねえんだけど。せっかく気づかない振りしたのに……こういうの何回目?もう勘弁しろよー」
うんざりしているようなマオウルドットの声を背に、私はボス猫ちゃんのもとまで走り寄る!
そのままひょいっと黒くて艶やかな体を抱き上げた。やっと、その姿がはっきり見える。
「やっぱりー!」
「な、なんだっ!?」
ボス猫ちゃんは戸惑っているけれど、そんなこと気にしていられない。
だって……
「あ、あ、あなた!エリオットじゃないのー!!!」
「は……?」
そう、ボス猫ちゃんの正体は、私がリリーベルだった頃にときめいてやまなかったあの黒猫、エリオットだったのだ。
◆◇◆◇
「まさか、あなたがあれからずっとそのまま生き続けていただなんて本当にびっくりだわ」
「おれはまさかリリーベルが人間になっているなんてまだ信じられねえよ……」
そう、エリオットは転生するわけでもなく、私がよく知るエリオットのままでずっと生きていたのだ。それこそ、同じようにずっと生きていたエリオスよりも長い時間……。
そうして長い長い猫生を続けるうちに、たくさんの出会いと別れを繰り返し、いつの間にか人語まで話せるようになったと。
「猫っていつの間にか人語を話せるようになるものなの?」
スーパースペシャルな猫ちゃんだったリリーベルだった頃でもそんなことできると思ったこともないのに?
「というか、エリオットは前からとんでもなくカッコよくはあったけれど、普通の猫だったわよね?どうしてこんなに長く生き続けられているの?」
どうしよう、次々と疑問が湧いてくるわね。
「普通は無理だろ。人語を話せるようになるのも、ずっと生き続けるのも。だけどおれはリリーベルに気に入られてたからな」
「ええっと……私に気に入られていたことが何の関係があるの?」
すると、エリオットはぷいっとそっぽを向いた。
「リリーベルに気に入られたことで、アリスにも会えたんだよ!お前はアリスに可愛がられていたから知らなかったかもしれないけど、アリスは生きているものをあまり自分に近づけなかったからな」
「ええっ!そうなの?」
意外な事実!と思ったけれど、そういえば確かにアリス様は私だけを可愛がってくれていて、他の猫ちゃんや違う動物を側においていたことはなかったかもしれない。
「それで、アリスに魔力をほんの少しだけ分けてもらったことがあったんだ。多分、それだけじゃちょっと特別な、頑張れば少しだけ魔法が使えるかもしれないくらいの猫だっただけだけど、おれは……おれは……結構頑張ってしまった」
「がんばってしまった」
……何を?




