114_ボス猫登場
結局、現れた猫ちゃんたちは30匹以上で、途中で数えるのを諦めた。
「ミシェル!この二日でこんなにもお友達ができたの!?すごいわね!やっぱりあなたはとっても可愛いから、他の猫ちゃんたちも放っておかないんだわ」
「え、えへへ……あたちが可愛いのは当然なのよう!って、うみゃっ!そうじゃなーい!」
驚いて褒めた私に一瞬照れ笑いしたミシェルは、なぜだか両手をぶんぶん振りながら怒り始めた。
「あたちは遊んでいたわけじゃないのよう!とっても頑張っておちごとしてたんだから!」
「お仕事……?」
一体どういうことかしら?
不思議に思いながら並んだ猫ちゃんたちを眺めていると、ふとあることに気が付いた。
この猫ちゃんたち全員が、1匹につきひとつずつ体のどこかに大きな毛玉をつけている。
一見ただの毛玉だけれど、とんでもない既視感……。
「もしかしてこの子達、全員妖精を連れているの……?」
そう、猫ちゃんたちがくっつけているのは、今はフェリクス様にくっついているあの毛玉妖精にそっくりなのである。
「あたち、とっても頑張って、やーっと分かるようになったのよう!ルシル、褒めて!」
ぎゅうっと抱き着いてくるミシェルの頭を撫でながら。
「分かるようになったって、一体何を?」
「この毛玉たちの言葉なの!ふんふん!」
「ええっ!?」
驚きの声を上げる私の膝の上に、「オレにもかまえ!」とマオウルドットがもそもそ潜り込んでくる。
「ルシル、何をそんなに驚いてんだよ。このチビはこいつら3匹の中でも特に魔力が強いし、精霊化が進んでるからな。もともと妖精との相性がいいんだろ。だから、妖精の特別な魔力に長く触れてれば言葉が分かるようになったってなんも不思議じゃない!そんなの全然すごくない!」
「ちょっと~!チビってあたちのこと!?シャーッ!」
ミシェルはポンッと猫姿に戻ると、大人げなくもオレの方がすごい!とふんぞり返るマオウルドットに向かって猫パンチを繰り出している。
……そういえば、スランに向かう途中の馬車でも、ミシェルはじっと毛玉妖精を見つめて側にいた。あれは妖精の魔力を体に馴染ませていたっていうことなのかしら?
その後、たっぷり撫でてあげると満足したミシェルは妖精たちに聞いた事情を教えてくれた。
「ち(死)にそうだから、猫といっしょにいることでなんとかいのちをつないでいるんだって~」
──整理すると。
つまり、妖精たちの力がどんどん弱まり、この地で生きていくことがとても難しい状態になってしまったそう。
もちろん、本来妖精たちが暮らす妖精界でならば生きられる。そのためほとんどの妖精たちはこのスランを後にしているらしいのだけれど、ここにいる妖精たちは猫とともにいることでその魔力と繋がり、こうしてスランで命を繋いでいるのだとか。
……自分の魔力以上に猫ちゃんの魔力を取り込んでいるせいで、その影響を受けて、毛玉のような姿になったということらしい。
「だから私の知る妖精とは姿がこんなにも違っているし、話をすることもできなくなっていたのね……」
これで毛玉妖精の謎も解けた。
そして、思った以上にスランと妖精たちの状況が深刻なのだということも理解できてしまった。
今目の前にいる妖精たちはそれぞれ力を借りている猫ちゃんと一緒にくっついていなければ形を保っていることすら難しい状況らしい。どうやって遠い道のりを乗り越えてきたのかは分からないけれど、たった一人でレーウェンフックにやってきたあの毛玉妖精は彼らの中でも力の強い妖精だったのかもしれない。
「みゃーん!」
「ええっ!ジャックとマーズも私のためにお仕事してくれていたの?」
「うみゃんっ」
ごろんと転がり、「褒めて褒めて」と喉を鳴らすジャック。
マーズはしゃがんだ私の足元や背中に体をすりすりと擦りつけて甘えている。
どうやらミシェルだけではなく、この2匹もスランの街中を確認したり、スランに住む猫ちゃんたちと顔を合わせたりと忙しくしていたらしい。
てっきり初めて訪れた見知らぬ国に胸をときめかせて楽しく遊んでいるのかと思っていたのに。私の可愛い猫ちゃんたちはなんて真面目で優秀なのかしら!
感激にニコニコとしていると、どこからか低い唸り声が聞こえてきた。
ウウウゥッ!とまるで威嚇しているかのような──
おや?と思った次の瞬間、ミシェルが連れてきたたくさんの猫ちゃんたちが急に身を引くように左右に別れ、道ができる。私、こういうの知っているわ。確か、そう、モーゼのなんちゃらってやつよ!いつだったか海神の住む異国の海で海の水が割れた時に、ヒナコがそんなことを言っていたのを覚えている。
そんな、まるでモーゼのなんちゃらのように猫ちゃんたちが道を作った先をよく見ると……
「ううううっ、うなーお……!」
とんでもなく怒っている1匹の猫ちゃんがいた。
ああ、どこかジャックに似ている黒猫ちゃんだわ。少し離れているから、暗闇に紛れてお顔がよく見えないわね。
「このおれの縄張りで好き勝手やるとは、良い度胸してるじゃねえか……!」
私はとんでもなくびっくりした。
なぜなら、そんな風に人間の言葉で怒りを吐き出したのが、間違いなくこちらを睨みつけている黒猫だったのだから。
私は猫だった前世を持つから、猫の言葉を理解できる。だから問題なく猫ちゃんたちと会話することができるわけだけれど。
私が猫語を聞き取るのではなく、人の言葉を話す猫ちゃんなんて、初めてだわ。




