外堀?ここに堀なんてあったのですか?
Act.9
魔王様が私の外堀埋めまくり始めて早三か月。その間、父が屋敷に帰って来たのは二日だけだった。その内、一日は母の誕生日だったのでごねて帰って来たらしいが、顔はげっそりとしていた。まあ、何をしているのかは話してくれなかったが、大変な様だった。
で、父の帰宅から一週間後。某子爵家が取り潰しになった。なんでも領民を奴隷として不当売買していたらしい。新聞で読んだ時の私の感想は『あれ、ここ、革新派の中でも強硬派な家じゃなかったっけ?』である。
そのまた一週間後。今度は伯爵家が取り潰しになった。こちらは重課税を課していたらしく、通常課税の約三倍とかなり不当なものだった。このお家もまた革新派のお家であった。
そんな感じで、二か月で革新派の強硬派と呼ばれた家門が八家も潰れた。
この辺りで少し察してしまった。
次の標的は某侯爵家では?と思っていたら、来ました、最後の大取!!某侯爵家!!
まあ、第三王子殿下を強烈に推しており、息子がその第三王子殿下の側近だったこともあり、強硬派の筆頭となっていた。その侯爵家は取り潰しとなり、第三王子殿下の側近はそのまま側近として残るが、家を再興させるためには彼が頑張らないとならないらしい。
あ、親がアレでも、息子まともなのね。
と、勝手に思っていた。
ここで焦り出した革新派の家門は、罰せられるぐらいなら先に自首しよう、にシフトチェンジしたらしく、革新派の家門は代替わりとなった。明日は我が身だからね。家族の為に自分を差し出した家門がほとんどだった。この事件で色んな貴族の家の家格が暴落した。公爵家が二つ、伯爵家まで降下したし。
わー……革新派の家門無くなった~。
その瞬間、何故かぞわっとした悪寒が背中を走った。まあ、気のせいだと思って、新聞を読み進めて、『ソネット王国の次期国王は、名実ともにレイア・ソネット殿下になった。』と締めくくられていた。
ちょっと突っ込みたいけど、なんで第一王子と第三王子で争って第二王子はスルーなのよ!と密かに怒ったがまあ、誰も気にしない。
そして三か月で二回目の帰宅。お父様は「あと一か月で何とかなる」とお母様を存分に堪能(意味深)していった。まあ、夫婦で何しようと子供には関係ない。うん。興味はあるけど。
まあ、三か月で革新派と呼ばれた第三王子殿下を推していた家はことごとく無くなり、国内の内政は一気に安定した。まあ、良いことだよな、と暢気に思っていた。
暢気に本を読んでいたら、目の前に現れたのは魔王様でした。
「やはり、デーは本を読んでいる顔が一番綺麗ですね?」
魔王様、貴方の方がよっぽど綺麗な顔をしていますよ?
「……何故いらっしゃるのですか、オセロ殿下?」
「つれないですね?昔のように呼んでください、『私のデー』?」
昔と変わらない期待に満ちた紫の瞳で見つめられるとどうも私は弱いらしい。
「オセロ様、何故、我が家の図書室に我が物顔でいらっしゃるのですか?」
読みかけの本に栞を挟んで閉じて、そして机越しに見つめ合う。すると、彼はニコッと笑った。
「ここは私の最初の『先生』と会った場所ですよ?思い出がたくさん眠っています。」
そう言って、彼は椅子から立ち上がり、そして棚から『拷問全書 完全版』が取り出された。それは『あの時』と同じ本で、表紙は少し……いやかなり傷だらけになっていた。
「この本と『先生』と出会ったおかげで、私は非力でも生き残る術を学びました。」
そう言いながらオセロ様はパラパラと本をめくった。
「例えば、髪の毛も艶やかであれば、ロープ代わりになる。いざという時はこれで相手の……命を絶つことも可能です。」
ああ、だから彼の髪は長いし、艶やかなのかと驚いた。生きるために、多くを努力したのだろう。
「私は強くありません。ですが、知識は己を守る武器となっています。」
スッと差し出された手。エスコートするための手だと理解し、手を重ねて立ち上がった。手入れされた手だが、傷が幾つもついていた。
「兄上を守るために、何度か手で止めました。痛かったですが、意外と手は命にはかかわりませんからね。」
そう言いながらオセロ様は本棚の一段上がった場所へ私をエスコートした。ここはオセロ様を守るために教えてしまった我が家の隠し通路がある。壁は綺麗になっているが、通路はそのままなのだ。
その場で彼は片膝をついた。そしてエスコートをしていた手を取りながら彼は笑った。
「デモーナ・キプロス侯爵令嬢。私、オセロ・ソネットは貴女以外の伴侶は考えられません。その為に、いくつか潰しましたので、安心して私を選んでください。」
ニコッと。魔王様の笑顔が。待って、待って、待って、プロポーズなのだけど何だろう、この逃げられない感。
おかしい、その言葉にときめいている自分がおかしい。
「デー、返事を貰えますか?さもないと逃げられないように、もっと外堀を埋めますが?」
「いや、もう埋める堀がないでしょう。」
ははは、と小さく笑った。反対にオセロ様はもう、どこまで誰を落すのですか!と言うレベルで色気満載の笑顔を浮かべてくる。
ああ、もう、幽霊と幼児から釣り合う男女になれたのだ。悩む必要はないだろう。それに、オセロ様なら他に障害があっても片っ端から全て片付けてしまいそうだ。
「私、デモーナ・キプロスはオセロ第二王子殿下にキプロス侯爵家を継いでいただくことを望みます。ご存じの通り、私は令嬢らしくありません。それでも構わないならオセロ様と共に生きたいです。」
その言葉に更に色気が増した。違う意味で堕ちそうだ、本当に。でも、その笑顔が幸せそうだから私も笑った。私よりも遥かに大きくなったオセロ様の抱擁は、ちょっときつかった。




