↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腹ペコ転生者〜前世で太っていた俺がカロリーで世界を救う〜  作者: 日向
第一章 腹ペコ冒険者、はじめました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/41

二十食目 食費を稼ぐための試食

 そこからさらに道を進んだ、二日後の朝。


 サルナの門をくぐり、商隊と荷を清算した。ミナに教わった市場近くの宿へ部屋を取り、泊まる荷物を置いてから、朝の市場へ向かう。


 最初の店で、俺は足を止めた。


「これなら、肉を買った方がいいのでは」


「塩を買いに来たんじゃなかったか?」


 オルンの指摘が、朝の市場でよく響いた。


 塩の花は、指で摘めるほどの包みに入っていた。


 肉は大きな塊だ。


 同じ値段で並べられると、どうしても塊の方へ目が行く。


「塩を採るなら、道具もいる。それに、いい花ばかり採れるとは限らない」


 オルンが言った。


 宿代を払い、帰り道の保存食にも硬貨を分けておいた。狼の素材と旅の報酬を合わせても、塩へ使える分は思ったより少ない。


 安い岩塩なら買える。


 でも、あの軽く割れる一粒を、もう一度食べたかった。


「じゃあ、食費を少し稼ごうか」


 横で、ミナが屋台の布を外した。


「ここ、知り合いから借りられるの。夕方までなら」


 通り脇の空いた区画へ屋台を入れ、車輪を木片で止めた。焼き台の中へ薪を足し、上の鉄板を温める。


 俺は鞄を下ろした。


「何をすればいいですか」


「まず、食べて。通りから、焼けた所が見えるようにね」


 俺が味見をして、足を止めた人へミナが売る。仕込みと店番も手伝う代わりに、賃をもらう話になった。


 最初の仕事は、一番得意な注文だった。


     *


 鉄板へ、薄い端肉が落ちる。


 じゅっ、と短く鳴った。


 ミナが返し、酸果(さんか)を一滴。端が縮んだところを木の串へ刺し、俺へ渡す。


 熱い。


 ふうと吹いて、噛んだ。


 小さい肉なのに、焼き目が舌へはっきり残った。噛むほど味が出て、最後に酸味が口を軽くする。


「うまい」


「うん。それは、もう知ってる」


 ミナは店の前を示した。


 通りを歩く人たちは、俺ではなく、空になった串を見ていた。


「早かった?」


「見てた人も、一緒に食べ終わった気分だよ」


 それは困る。


 次を貰い、今度は少し高く持った。


「ここ、端が焼けてるんです」


 焦げた縁を指す。


「薄いから、中まで硬いかと思ったら」


 一口、齧る。


 切れたところから、細い湯気が上がった。


 言葉が止まる。


「どうなの?」


 通りの女が、俺の代わりに続きを聞いた。


「柔らかいです。脂が、ちゃんと残ってて」


 俺が切り口を見せると、その人は店の中へ首を伸ばした。


「二つ、焼いてもらえる?」


 最初の客だった。


 待つ間、その人は串の先へ目を寄せた。


「あら、そこを包んでくれるの」


 麦餅へ肉を置き、端を折るミナの手を見る。


「汁が落ちるので。歩くなら、底を二重にします」


「家まで持って帰るの。息子が起きてたら、半分取られるわね」


「じゃあ、切って包みます?」


「だめ。私の分を、小さく見せたくないから」


 ミナが笑い、女も笑った。


 受け取った包みへ鼻を寄せ、その人は一口だけ食べてから通りへ戻った。足がさっきよりゆっくりになっている。


 俺は空の串を見た。


「俺も、あのくらいで歩くべきでしたか」


「レンは座って食べた方がいい。通りのご飯が全てがなくなる」


 次の客が聞いて笑った。


 その人は隣の魚屋の主人だった。店番の妻へ持っていく分を頼まれ、焼き上がりを並べる浅い皿を貸してくれた。


 皿が増えると、並べ方を変えられた。


 通りの人が足を止める所へ焼けた物を置き、まだ生の物は奥へ寄せる。俺が食べる位置も、最初のど真ん中から端へ移った。


 仕事というより、店が少しずつ形を変えていくみたいだった。


 遠くで市場の鐘が鳴った。ミナが顔を上げ、俺へ新しい肉を渡す。


「今度は、三口で」


「難しい注文ですね」


「おいしいところは、長くてもいいの」


 俺は言われた通り、まず焦げた縁だけを齧った。


 客の視線が、ちゃんとそこへ集まった。


     *


 昼前には、串より皿がよく出た。


 端肉を麦餅で包み、切った玉菜(たまな)を添える。肉の脂で甘くなった鉄板へ麦餅を一瞬当てると、白い表面へ茶色の筋が付いた。


 ミナは焼く。


 俺は包みを渡し、空いた器を下げる。


 急ぐほど手を増やしたくなる仕事だった。包むのも、釣り銭を渡すのも、同じ二本の手しかない。


 《消費配分》(しょうひはいぶん)で腕と脚、思考へ合計5 kcal/分を回した。動きは早まったが、今度はミナの肘へぶつかりかけた。


「ここ、私が返す場所」


 彼女が鉄板の横を叩く。


 俺は皿を反対へ寄せた。


 マルタの台所と同じだった。人が速くなっても、皿の場所は広がらない。


 注文を聞いてから包まず、先に紙を折る。焼けた皿は同じ所へ置いてもらう。少しずつ、互いの手を探さずに動けるようになった。


「もう食べないの?」


 小さな客に訊かれた。


「食べる分を、今稼いでる」


「さっき、いっぱい食べてた」


「その次の分」


 子供が、隣の親を見上げた。


「僕も次の分」


「あなたは今のを食べてから」


 俺まで背筋が伸びた。


 少し向こうで、セラが薬種店から出てくるのが見えた。小さい袋を持ち、店の列へ並ぶ。


「一皿。焦げた方、残ってる?」


「残します」


「普通の一皿でね」


 俺はミナに確認してから、ちゃんと普通の皿へ乗せた。


 渡すとき、セラが鉄板の向こうを見て笑った。


「二人とも、いい顔してる」


 顔は見えないが、頬が熱いのは分かった。


     *


 売り切れの札を出すと、ミナは椅子へ座った。


 俺も座ろうとして、まず鉄板の火を落とした。


「よかった。危うく燃やしたまま喜ぶところだった」


 ミナが笑う。


 残った肉を包み、借りた場所を掃く。片付けを終えてから紙を広げると、ミナの指が、売り上げとは別の欄を追った。


 仕入れ。場所代。薪。


 俺が食べた分も、隅へ書いてあった。


「食べながら働く人って、帳面が難しい」


「俺の欄、別にした方が」


「もうした」


 素早かった。


 約束した手伝いの賃を受け取り、ミナの分にも利益が残った。


 塩の包みを山ほど買えるほどではない。でも、明日の宿と食事の心配が軽くなる。それだけで、市場の景色まで広く見えた。


 オルンが戻ってきて、塩を採る洞窟と、そこの素材を見る店を教えてくれた。


「買う前に、自分で採ってみるのも手だ」


 ミナは取り分をしまう前に、薄い紙をもう一枚出した。


「明日、同じことをやるなら、玉菜はこっちで買う。酸果は朝の店」


 店の名前を書き足していく。


 俺も、水を貰った場所と、洗い桶を借りた相手を添えた。塩へ辿り着く前に、サルナで挨拶する場所が増えていた。


 俺は空いた肉の箱を見る。


 うまい物のために働いて、働いたところでまたうまい物を知る。


 この回り方は、かなり好きだった。


 夕飯は、残しておいた端肉の汁だった。


 客に出した肉より小さい欠片が、椀の中でほろほろほどける。立ったまま匂いだけ嗅いでいた昼より、座って食べる一口の方が、ずっと熱く感じた。


 ミナも同じ汁を飲み、今度は勘定を気にせず息をついた。


「明日は、何を食べる?」


「まず、塩を採る方法を」


「その前の朝ご飯は?」


 大事な順番を忘れていた。


 夕飯の皿を片付け、ミナと宿へ戻った。明日の朝飯を相談しながら、市場裏の解体場の横を通る。


 戸が開き、男たちが荷台を押してくる。


 毛布の下で、何かが動いた。


 細い脚。大きすぎる腹。


 まだ息をしている獣の背に、黒い棘が一本、突き出ていた。


「待ってください。レドでも、あれに似た棘を見たんです」


 俺が声をかけると、荷台を押していた男が振り向いた。名と泊まっている宿を告げ、明朝、絵を持って来ると約束した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。