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神を殺した魔導王は、花を咲かせる少女を拾った  作者: 名前はまだない
【第一章】名もなき少女

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第8段階:生への渇望と、理性を超えた本能

フェイが生まれたばかりの瑞々しい葉っぱを見て、無邪気に笑った。



「葉っぱ! よかったね!」



もう一度、彼女が愛おしそうに幹を撫でる。

すると、その手のひらから伝わる温もりに呼応するように、さらに新しい葉っぱが次々とふわりと芽吹いた。


その時だった。


生命の樹の奥深く


ドクン……。


何百年もの間、静かに止まりかけていた星の心臓の鼓動が、ただ一度だけ、力強く鳴った。

その微かな、しかし決定的な振動に、ルシウスだけが気付いた。



「……!」



巨大な黒い幹に、淡い緑色の光が脈を打つように走る。

固く干からびていた樹皮が、ブルブルと震え始めた。


次の瞬間。

無数の細い蔓が、生命の樹から弾けるように飛び出し、フェイへ向かって一斉に伸びた。


それは、決して攻撃ではなかった。

ただ、抱き締めるように

すがりつくように

温かい光を包み込むように。


しかし、それは神話の時代から蓄積された、星そのものの純度を持った魔力。

普通の人間であれば、触れた瞬間にその莫大な魔力量に耐えきれず即死してしまうほどの、圧倒的な奔流だった。


フェイ自身も、突然の出来事に目を丸くする。



「え?」



蔓の動きは、まるで「生きたい」と泣き叫んでいるように見えた。

何百年も死を待つだけだった樹が、フェイに触れたことで初めて「生きたい」という渇望を思い出したのだ。


――その圧倒的な光景を前に。

ルシウスは、考えるより早く動いていた。


(現象の解析)

(魔力の計算)

(最善手の選択)


常にそれらを瞬時にこなしてきた冷徹な頭脳を完全に置き去りにして、ルシウスは剣を抜いた。


空間転移。


一瞬でフェイの目の前へ跳躍し、その小さな身体を力強く抱き寄せる。

フェイを庇うように反転したルシウスの腕を、空を切った蔓の先端が掠めた。



バキッ!!



神すら弾き返すはずの不可視の魔力障壁が、不気味な音を立てて軋み、砕け散る。

その異常事態に、カシアンの絶叫が灰の森に響き渡った。



「閣下!!」



空を掴んだ生命の樹の蔓が、行き場を失って宙を彷徨う。

それはまるで、差し伸べた手を振り払われ、声を上げて泣いている子供のようだった。


ルシウスの腕の中で、フェイが静かに言った。



「違うよ。この子、怖がってる」



フェイは、自分を庇うルシウスの胸からそっと顔を出し、振り返って生命の樹を見つめた。

そして、泣きじゃくる蔓たちへ向けて

優しく、語りかけるように言った。



「ごめんね。今はまだ無理」



たった、その一言。

その声を聞いた蔓たちは、ピタリと動きを止め

――やがて、しょんぼりと肩を落とすように、寂しそうに幹の中へと静かに戻っていった。


圧倒的な静寂が、再び森を包み込む。


蔓が幹の中へ消え、静寂が戻った直後。

フェイの小さな身体が、糸が切れたようにふらりと揺れた。



「フェイ!」



ルシウスは一瞬で距離を詰め、倒れ込む彼女の身体をしっかりと抱き留めた。

その顔には、彼自身も気付いていない焦燥が張り付いている。



「魔力が吸われたのか」


「生命力を奪われた可能性があります」



カシアンも血相を変え、即座にフェイへ向けて高度な解析魔法を展開した。


(生命反応、確認)

(魔力濃度、異常なし)

(精神状態、異常なし)


すべての数値が正常を示す中、ルシウスの腕の中で目を閉じていたフェイが、小さく、か細い声で呟いた。



「……お腹すいた」



灰の森が、完全に静まり返った。



「…………」


「…………」


「…………」


――ぐぎゅるるるる。



緊迫感の欠片もない音が、フェイのお腹から盛大に鳴り響いた。

フェイは自分のお腹を両手で押さえながら、ルシウスを見上げて申し訳なさそうに言った。



「いっぱい葉っぱ出したからかな」



カシアンは、深々とため息をつきながら思わず自分の額を押さえた。



「……どうやら生命力ではなく、ただ空腹のようでございます」



ルシウスは、腕の中のフェイを数秒だけじっと見つめた。


そして

カシアンにも、フェイにも気付かれないほど僅かに。その無機質な口元が、ふっと柔らかく緩んだ。



「帰ろう」



大きくて冷たいはずの彼の手が、フェイの頭を不器用だが優しく撫でる。



「少し早いが、食事にしよう」


「うん!」

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