表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を殺した魔導王は、花を咲かせる少女を拾った  作者: 名前はまだない
【第三章】世界が見つけた少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/71

第39段階:黒猫の公開処刑

柔らかな日差しが降り注ぐ中庭の温室。

フェイは、花壇のそばで三匹の子猫たちと無邪気に遊んでいた。


「あははっ、くすぐったい!」


その微笑ましい光景を、ルシウスは数歩離れた場所から静かに見守っている。

後ろにはカシアン、エマ、そして花の世話をしていた庭師が控えていた。


ふと、花壇の奥から一匹の黒猫が姿を現した。

フェイが命を削って救った母猫、ノアだった。



「あ、ノア!」


フェイが嬉しそうに手を振る。


しかし。

ノアはフェイの方へは向かわず、一直線にルシウスの方へと歩み寄り、その足元でピタリと止まった。

そして、ルシウスを見上げて小さく鳴いた。


「にゃ」


――すると。

その一鳴きを合図にしたかのように、温室中の至る所でくつろいでいた野良猫たちが、ぞろぞろと集まってきた。


ルシウスは眉を僅かに動かす。


「……?」


十匹近い猫たちが、ぐるりと円を描くようにルシウスを取り囲んだ。

フェイは目を輝かせて両手を叩く。


「わぁ! ルシ、人気者!」


しかし、猫たちの様子は「懐いている」というより、どこか物々しかった。

全員が、しっぽをピンと立てたまま。


じーーーーーーー。


一切の瞬きもせず、一斉にルシウスを凝視している。

ノアが、代表者のようにルシウスのブーツの先まで歩み寄った。


クンクン。

鼻を寄せ、匂いを嗅ぐ。


それに倣うように、他の猫たちもルシウスの足元へ擦り寄り始めた。


クンクン。

クンクン。

クンクン。


ルシウスは、身動き一つせず、ただ黙って見下ろしていた。


「……」


フェイが小首を傾げる。


「どうしたの?」


ノアが、再びルシウスの顔を見上げた。

知性を宿した黄金の瞳。その眼差しは、さながら厳格な「審査員」のようだった。


すると。突然。

ノアが軽やかに跳躍し、ルシウスの漆黒のマントへ飛び乗った。


「!!」


周囲の人間たちが息を呑む。


ノアはそのまま器用にマントをよじ登り、ルシウスの広い肩の上へと陣取った。そして、世界最強の魔導王の頬へ顔を近付け、さらに念入りに匂いの確認を始める。


ルシウスは、肩の上の黒猫を一瞥し、短く言った。


「……好きにしろ」


その途端、足元を取り囲んでいた猫たちが『ざわ…』と不思議な気配を揺らした。


神々すら平伏する絶対的な力を持つ魔導王。

普段であれば、強大すぎる魔力の威圧感に恐れをなし、どんな獣も決して近寄ろうとはしない。

なのに、猫だけが彼をキャットタワーか何かのように扱い、肩に乗っている。


そのあまりにもシュールな光景に、後ろで控えていた者たちは必死に表情筋と戦っていた。


カシアン。

(閣下が……猫の検査を受けておられる……)


エマ。

(ふふっ、可愛らしいですわ……)


庭師。

(だめだ、吹きそう……)


やがて、気の済むまで匂いを確認したノアは。

最後に、ルシウスの頭の上へ、ぽんっ、と柔らかい前足を乗せた。


ルシウスは目を細める。


「……?」


ノアは、ひどく満足そうに喉を鳴らした。


「にゃ」


――瞬間。

周囲を囲んでいた猫たちが、堰を切ったように一斉にルシウスの足元へすり寄り始めた。

にゃあにゃあと甘えた声を出しながら、黒いブーツやコートの裾へ、これでもかと「スリスリ」の猛攻撃を開始する。


それを見たフェイが、満面の笑みでバンザイをした。


「ルシ!合格した!」


ルシウスは、足元を猫まみれにされながら淡々と聞き返す。


「……何にだ」


「猫さん会議!」


そのフェイの元気な一言に、後ろで耐えていたカシアンたちもついに堪えきれず、温室にどっと温かな笑い声が弾けた。


カシアンが手帳で口元を隠し、肩を震わせながら言う。


「どうやら。お嬢様の『お世話係』として、猫たちに認められたようでございますね」


庭師も、涙目になりながら笑って同意する。


「閣下。猫の世界にも、厳しい採用試験があるんですな」


ルシウスは、肩の上のノアと足元の猫たちを見下ろし、深いため息を吐いた。


「意味が分からん」


フェイは小走りで駆け寄り、ルシウスの腕にぎゅっとしがみついて、ひまわりのような笑顔を向けた。


「ルシ! 猫さんたちも、ルシのことが好きだって!」


その屈託のない笑顔と、温かな体温。

ルシウスは、言葉とは裏腹に、全く猫たちを追い払おうとはしなかった。

ほんの少しだけ、その美しい口元が柔らかく緩む。


「……そうか」


平和な笑い声に包まれる温室。

しかし、その中で。

ルシウスの肩に乗ったノアだけが、嬉しそうに笑うフェイの姿をじっと見つめ。


そして、ルシウスの横顔を見た。

フェイを守る、この強大な力を持つ男の横顔を。


ノアは、誰にも気付かれないくらい小さく。

一度だけ、確かにこくりと頷いた。


(……あ。

 ノア、今、何かを確認してた)


それは、言葉を持たない獣と、世界最強の男の間で交わされた、極秘の「合格通知」。

フェイの命の欠片を宿した黒猫が、ルシウスを「彼女を守るに足る存在」として正式に認めた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ