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神を殺した魔導王は、花を咲かせる少女を拾った  作者: 名前はまだない
【第二章】世界を学ぶ少女

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第22段階:命を呼ぶ光

猛吹雪の音が鳴り響く白銀の森の中。

絶望に染まるフェイを見下ろし、ルシウスは静かに、しかし絶対の確信を持って告げた。


「一つだけ、方法がある」


フェイは、涙で濡れた顔をハッと上げる。


「え?」


「光属性だ」


「でも私……まだ使えない」



風、火、水、雷、土。五大属性の基礎をやっと覚えたばかりだ。回復魔法など、一度も教わっていない。


「ああ。……だから、今から覚える」


フェイは信じられないものを見るように、大きな目を丸くした。


「今!?」


「今だ」


ルシウスの声は、どこまでも静かで、揺るぎなかった。


「よく聞け。光魔法は、火や水のように外へ放つものではない。

 ただ傷を塞ぐだけの便利な『治す魔法』でもない。

 ……生命活動そのものを補助する魔法だ」


フェイは、零れる涙を乱暴に拭いながら、必死にこくりと頷いた。


「君は今、猫の身体の中を想像できるか」


言われて、フェイは血に染まった母猫の身体へそっと手を置く。

目を閉じ、意識を集中させる。

しかし、獣の身体の構造など、森で生きてきた彼女にも到底わからない。


「……できない」


「なら、触れろ。鼓動を感じろ。呼吸を感じろ」


ルシウスの導きに従い、フェイは震える両手を母猫の胸元へと滑らせた。

冷たくなっていく毛皮の下。

微かに、本当に微かに。途切れそうに弱々しい鼓動が、指先へ伝わってくる。


「……感じる」


「その鼓動を止めるな。止まりそうなら、押し返せ。

 血が流れている場所を探せ。

 そこへ、君の命の力を送り込め」


「命……?」


「そうだ。傷を治そうとするな。身体そのものが持つ『治ろうとする力』を助けろ」


フェイは目を開け、混乱したようにルシウスを見た。


「わからない……」


どうやって押し返せばいいのか。

どうやって力を送ればいいのか。

感覚が掴めない。

焦るフェイに対し、ルシウスは自身の大きな手で、母猫に触れるフェイの小さな両手を外側からそっと包み込んだ。

ひんやりとした彼の手の温度が、フェイの焦りを静めていく。


「大丈夫だ。完璧でなくていい」


ルシウスは、彼女の目を真っ直ぐに見つめて言った。


「君は今まで、花を育て、木を芽吹かせ、生命を増やしてきた。……やることは同じだ」


「生命を信じろ。身体は、まだ生きようとしている。その背中を、押してやれ」


ルシウスの言葉が、すとんと胸の奥に落ちる。

フェイは深く深呼吸をして、静かに頷いた。


「……うん」


再び目を閉じる。

ルシウスの手に包まれたまま、母猫へ意識を集中させる。


鼓動。

呼吸。

肉体を巡り、こぼれ落ちていく血。

弱っていく、命の熱。


(頑張って)


フェイは心の中で、強く、強く祈った。


(まだ、子どもたちがいるよ)

(帰って。……帰ってきて!)


――その瞬間だった。


フェイの両手と、それを包むルシウスの手の隙間から。

今まで誰も見たことのない、淡く透き通るような水色の光が溢れ始めた。


「……!」


間近でその光を見たルシウスの紫水晶の瞳が、驚愕に大きく見開かれる。

光属性の魔力は、通常であれば黄金や純白の輝きを放つ。しかし、彼女の掌から生み出されたのは、あまりにも純度が高く、生命の源泉そのものを思わせるような、澄み切った水色の光だった。


少し離れた場所で見守っていたカシアンも、その神聖な光景に息を呑み、言葉を失う。


雪に覆われた森の奥。

立ち去ろうとしていた漆黒の狼の王だけが、その美しく温かな光の波動を感じ取り、誇り高き首を深く垂れて静かに呟いた。


『それが……生命の樹の娘、か』

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