第94話:認定
「そう……それにしても、あの子のお仲間って変わった子ばかり……あ、まずは自己紹介をしないとね? 私の名前はヘンリエッタ=エルドラージュ……魔法使いよ」
「ッ!? ま、魔法使いッ!?」
「せ、先導者様がおっしゃられていた通り……きやがったのか……!」
「ぬぅぅッ……」
背後にいるペルシア人たちが騒めき始める中、サブナックただ一人だけは表情を変えず、じっと彼女を見つめ続けていた。
その様子に、ヘンリエッタは再び笑みを浮かべる。
「ふふっ! それで、にゃんこちゃん……あなたのお名前は?」
「うむっ! 某は、誉れ高き獅子三兄弟が末弟……"蛆虫"のサブナックと申す! 階級は騎士だ! 以後、宜しく頼むっ!」
焦茶色の立派なたてがみを靡かせ、獅子の騎士は胸を張ってそう答えた。
「蛆虫……随分な異名ね」
「はっはっはっ! 事実故、仕方あるまいっ!」
「んー……なんで蛆虫なの? 獅子っていうと、もっと高貴な印象なのだけれど……」
「ほう! この世界にも獅子がおるのか!?」
「……この世界? まぁいいわ……そりゃいるわよぉ? でも、獅子という呼び方はあまりしないわねぇ……」
「む? では、なんと?」
「一般的には、ライオネルって呼ぶことが多いかしら。人を襲う獣の中でも、厄介な部類に入るわよ」
「ライオネル……うむ! 良い響きだ! 気に入った! そうかそうか……一度、相まみえたいものだ!」
「ふふっ……それにしても、本当に酷い匂いねぇ……」
鼻を押さえたまま、ヘンリエッタは辺りを見渡す。
そうしてよく見ると、折り重なるようにして死んでいる兵士たちは、皆苦悶の表情を浮かべており、中には既に腐り始めている者たちもいた。
「ああ、すまないっ! まだ問いに答えていなかった! まぁ、この状況そのものが答えなのだが……名前の由来も、この匂いも、某の能力によるものだ! 彼らは勇敢にも、某の前に立ちはだかったのでな……力を使い、排除させてもらった! なに、戦場で死ねたのだ! 彼らも本望だったろう!」
爽やかに笑いながら、彼はそう言ってうんうんと頷く。
「……とてもそうは見えないけれど。んー……それじゃ、あなたも本望よねぇ? ……戦場で死ねるんだから」
「ほう? これは異なことを……まるで、決まっているかのように……語るではないか」
瞬間、空気が変わる。
サブナックの手が腰にぶら下げた剣へと伸び、ヘンリエッタはその手を彼へと伸ばしていく。
周りにいたペルシア人たちが少しずつ後退する中、両者は笑みを浮かべながら───
「むっ!?」
「あらぁ……ふふっ! やぁっぱり……来てくれたみたいね?」
互いに動こうとした瞬間、辺りに突如、濃い霧が立ち込めていく。
それはあっという間に彼らの視界を遮り、数メートル先すら見えないその状況に、その場にいた全員が困惑し始めた。
『サブナック』
「むおっ!? あっ! あれか!」
突然頭の中で響いたアストの声に、サブナックは慌ててこめかみに指を置いた。
『こ、こちらサブナック! アスト殿!? 聞こえておりますかな!?』
『ああ……うるさいくらいにな。そんなことよりサブナック……そいつとは俺がやる。当初の予定通り、お前は全員を連れて城へ迎え』
『それは構いませんが……こう視界が悪くては……』
『心配するな。お前たちの霧はすぐに晴れる。早くその場を離れるんだ……ヘンリエッタは、並じゃない』
『ほう! あなた程の男にそう言わせるとは……分かりました! では、ご武運を!』
『ああ……お前もな』
念話が切れると、サブナックたちの周りだけ、スッと霧が晴れていく。
彼はすぐさま手信号で合図を出し、混乱するペルシア人たちを先導して城へと向かい始めた。
その様子を見ていたアストとケルベロスは、彼らとは反対側から、ヘンリエッタを囲う霧へと少しずつ近づいていく。
そうしてある程度近づいた段階で、隠遁魔術を解除した。
「……あら、サービスがいいのねぇ?」
それと同時に、深い霧の中から、ヘンリエッタの嬉しそうな声が聞こえてくる。
そして次の瞬間、霧を一瞬で吹き飛ばした彼女は、建物の屋上に立つ彼へと向け、満面の笑みを見せた。
「自ら姿を現してくれるだなんて……そんなにあの子たちが大事?」
「いいや? ただ単に……あんたを殺す算段がついただけさ」
ピクリと、ヘンリエッタの眉が動く。
当然これは嘘。
ヘンリエッタの意識を自らへと向ける為のはったりである。
「……おもしろいことを言うのね。ふふっ! 冗談まで上手いだなんて……ますますあなたが欲しくなったわ」
「冗談を言ったつもりはないんだがな。事実として、あんたの境界魔法には……欠陥がある」
「あははっ! 残念だけれど……そんなものないわよぉ? あなたは知らないでしょうけれど、魔法には"認定の儀"というものがあるの。魔法と呼べるかもしれない代物が発見されると、専門の調査機関が設立されて、何ヶ月もかけてそれを精査するのよ。そうして、私のこれは魔法と認定された……ちなみに、その調査員の中には、現役の魔法使いが複数人いたわ。ねぇ、それがどういうことか分かるかしら? ……私の魔法は、彼らの魔法より上ってことよ」
「そりゃ、あんたが上手く隠したからさ。そもそも、仲間内で構成された調査機関に意味なんかないだろ。それっぽいのが見つかれば、魔法と認定しちまえばいい……そうすれば、魔法使いの頭数を増やせるんだからな」
「馬鹿ね……その逆よ」




