第81話:打ち合い
「よぉ、なんか用か……小僧」
この時、既にパーシアンは察していた。
目の前にいるその男が、只者ではないということを。
「パーシアン旅団長……あんたの相手は俺がしよう」
「ハッ……なるほど?」
見た目の割に、妙に落ち着いたその佇まい。
そして、隠しきれない強者の匂い。
それらにより、パーシアンは確信する。
「こいつはおめぇが───」
『パーシアンッ!』
「うおッ!?」
突然、頭の中にジャバーの声が響き、パーシアンは慌ててこめかみに指を添えた。
『そいつだッ……そいつが首謀者だッ! そいつを殺───』
『分かってますよジャバー少将……なんで、邪魔しねぇでもらっていいですかい? 今、いいところなんで』
こめかみから指を離して念話を切り、パーシアンは体内で魔力を練り上げる。
そして、大剣を握るその手に魔力を込めた。
「フッ……ジャバーから念話で何か言われたか?」
「ご明察だ……おめぇを殺せとよ。なんでも、この騒ぎの首謀者らしいじゃねぇか。若いのに大したもんだ」
「いや、若くは───」
応えながら、アストが魔力を纏わせ始めたその時、パーシアンは大地を蹴る。
直後、彼の背後で爆発音が鳴り響いた。
「しィッ!」
その爆風を推進力に変え、パーシアンは右肩に担いでいた大剣の柄に左手を添えると、そのまま一気に距離を詰め、彼の頭目掛けてそれを振り下ろした。
「ッ!」
完全に虚を突いたパーシアンが、その大剣を振り下ろしたその瞬間まで、アストは無手のまま、構えすらとれていない状態であった。
だが、鋼が鋼を穿つ音が高々と鳴り響いたことで、パーシアンは思わずその目を見開く。
「おいおい……!」
地面まで叩き割るつもりで放ったその一撃。
そんな彼の大剣による強烈な右の袈裟斬りを、アストは黒い剣を斜めに構え、自身の頭上で受け止めていたのである。
「どっから出しやがった……!」
「さすがは旅団長……重いな」
上から押し込もうとするパーシアンと、下から押し除けようとするアスト。
互いの剣がせめぎ合い、ギリギリという不穏な音が奏でられる中、パーシアンは先程と同様、大剣へと一気に魔力を注いだ。
「ちぃッ!?」
大剣が赫灼を帯びようとしたその刹那、アストは柄から左手を離し、右手の力を抜いてパーシアンの剣を受け流すと、そのまま左へと移動。
右手首をくるりと返し、剣を上段に構えると、そのまま縦に振り下ろした。
「……!」
「ハッ……舐めるなよッ!」
深く入ったその縦振りは、体勢的にかわすことは不可能であり、間違いなく斬ったと、そうアストが思った直後、刃から柄へと流れた感触は、硬く痺れる手応えであった。
「柄で……!」
「ぬぅらぁッ!!」
刃で受けることを諦めたパーシアンは、そのまま腕を引き、柄を握る右手と左手の間でアストの斬撃を受け止めた後、両手首を返して足を開くと、アストから見て右から左へと流れる横薙ぎの一閃を放つ。
間一髪、それを屈んで回避したアストは、身体を押し上げながら右へ抜けると、今度はガラ空きになったパーシアンの左脇腹へと刺突を繰り出した。
「"猛き炎の鎧"ッ!」
当たる直前、パーシアンの身体は激しい炎に包まれ、そうして纏った炎の鎧が黒剣を弾き返し、さらにアストの皮膚までをも焦がし始めた。
「……ちッ」
アストは剣を引き、そのまま後方へと跳んで距離を取る。
痛みを感じないアストは、細かいダメージに気づけないことが多く、今のように目視で確認出来た際は、可能な限り間を空けることを意識するようにしていた。
対するパーシアンもまた、右肩に大剣を担ぎ一息ついた後、アストを見つめながらニヤリと笑って見せる。
「……すげぇな。俺と斬り合える奴はなかなかいねぇ。しかも、この体格差で、そんな細身の剣なのによぉ……そいつぁ相当な業物だな。ところでよぉ、おめぇいったい……何もんだ?」
「そうだな……まぁ、いいか。俺はあんたらに……"軍人殺し"と、そう呼ばれている者だよ」
「なッ!? ぐ、軍人殺しッ……おめぇがッ……!?」
驚きはしたものの、パーシアンは即座に納得し始めていた。
南部での出来事であった為、彼もまた"軍人殺し"の事件については興味があり、報告書には全て目を通している。
「いや……なるほどな……」
達人級の剣技と、練度の高い複数の魔術を操り、実力者である特務課のリリアナを返り討ちにしたという連続殺人鬼。
今回の件に関しても、人智を超えた力がなければ到底不可能な現象ばかりであり、それを引き起こしたのが軍人殺しならばむしろ合点が行くと、パーシアンは単純にそう思ったのである。
「目的は復讐か……よっぽどの恨みが、アレクサンドリアにはあるみたいだな」
「まぁな……安っぽく聞こえるだろうが、アレクサンドリアは滅ぼすつもりだ。だからこれは……始まりに過ぎない」
「そうかい……なら、ここで止めねぇとなァッ!!」
そうして再び交わり始めた二人の剣戟を、城最上部の屋根の上から、バティンが微かに笑みを浮かべながら眺めていた。
「ふぅん……あの人間もなかなかやりますの。かなりハンデがあるとはいえ、あのアスト様とまともにやり合えるだけ……優秀ですわね」




