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第80話:旅団長

 

「な、なんて数だ……」


 映像を見た全員が愕然とする。

 魔石板に映し出されていたのは、東の城門から城まで、約五百メートル程の敷地内全てを埋め尽くす、おびただしい量の屍人の群れであった。


「き、気持ちわりぃ……」


 そのあまりにも悍ましい光景に、全員の表情がだんだんと、驚愕から嫌悪へと変わっていく。


「道どころか……ほとんど地面すら見えないぞ……」


「ど、どんだけいやがるんだこいつら?」


 続々と地下から湧いてくる屍人の群れは、兵士たちに抑え込まれて二階に上がれず、押し出される形で外へと広がっていった。


 その結果、行き場を失った屍人の群れは、"城の敷地内から出るな"というキマリスの命令にも逆らえない為、どんどんと外に溜まっていたのである。


「ぬぅ……」


 ジャバーもまた腕を組み、思わず眉間に皺を寄せる。

 これが城の一階から敷地内まで全て同じような状態だとすれば、その数は一万や二万では決して収まらないと、ジャバーは頭を抱えた。


「やはり……そういうことかッ……」


 あの場に居合わせたジャバーは、この屍人たちが如何なる存在であるかを既に理解しており、その数がさらに増えるであろうこともある程度は予想していた。

 しかし、まさかここまで早いとは思っていなかったのである。


「こいつら……いったいなんなんだ?」


「……ペルシア人の亡霊だ。おそらくな」


「ぼ、亡霊……ですか?」


「奴らをよく見てみろ。ほとんどが裸だが、時折鎧を着ている奴がいるだろう。あれは、間違いなくかつてのペルシア軍のものだ」


「……た、確かに! ボロボロで気づきませんでした」


「死者を呼び出す能力……おそらく、そんなところだろう。しかし……だとすると、非常にまずいことになる」


「と、言いますと……?」


「この地で死んだペルシア人が……いったい何人いたと思っている?」


「……あ」


「少なくとも二十万人以上……それが、あの大戦を終わらせたのだ」


「で、では……まだまだ増えると……?」


「術者の力量次第だが……甘い考えは捨てねばなるまい。発生源を潰すのも不可能だろう。なんせ、奴らはそこから湧いているのだからな……今の我々に、あれを押し返す力はない」


 無論、ジャバーはそれがこの城の地下にあることを知っている。

 だが、それを敢えて言わず、ただ"不可能である"と言うだけに留めた。


 そこには、地下の存在を公にしたくないという考えも当然あったが、今彼が言った通り、現状では地下に辿り着くことなど到底出来ず、そんなことに時間も、そして人員も、無駄に割いている余裕などないからである。


「か、閣下……上階へと移動されますか? 少しでも上にいた方が時間を……」


「……それこそ時間と労力の無駄だ。中央階段は開(ひら)けているからこそ、遠距離攻撃が有効に働いている。三階や四階では対応出来ん……どちらにせよ、あそこを抜かれたら終わりなのだよ。最悪の場合、ここを放棄することも考え───」


「か、閣下! 来ましたッ! パーシアン旅団長の部隊がッ!」


「おお! 来たかッ……音声も出せッ!」


「はっ!」


 そうして全員の視線が一気に魔石板へと向かう中、やがて東の城門が、ゆっくりと開いていった。



 ──────────────────



 南方司令部直轄軍旅団長、パーシアン=デルマニック。


 歳は四十五。

 日焼けした浅黒い肌に、毛量の多い癖のある黒い長髪が特徴的で、さらに身体や顔などには無数の傷が走り、その人相は極めて悪い。


 また、口周りに蓄えた立派な黒髭や、二メートル近い巨躯も相まって、強者であることをその風貌だけで相手に分からせる彼は、まさに歴戦の勇士というに相応しい存在であった。


「な、なんじゃいこりゃあ……?」


 そんな彼が、口をポカンと開け、思わずそう呟く。

 城の敷地内を占領する、動く死体の群れ。

 そんな意味不明な存在が、門を開け放った彼をじっと見つめているのだから、それも致し方ないことではある。


「……ハッ」


 だが、そんな表情から一転、彼はすぐさま背負っていた大剣の柄《つか》に手をかけると、鋭い視線を屍人の群れへと向けた。


「こっちを見ちゃいるが襲ってこねぇな。術の範囲外ってとこか……ま、なんにせよ都合がいい。てめぇらぁッ!」


「「「「「はっ!!」」」」」


「俺が道を開くッ! 一気に押し通るぞッ!!」


「「「「「了解ッ!」」」」」


 彼が引き連れていたのは、南方軍の中でも選りすぐりの精鋭たち。

 その多くは彼が育て上げた、経験豊富な実力者ばかりである。

 故に、この状況にも一切怯むことなく、全身から闘志と魔力を迸らせていた。


「ぬぅんッ……!」


 引き抜いた幅広の大剣を上段に構えたパーシアンは、背後にいる彼らにも見せつけるが如く、その魔力を一気に大剣へと注いだ。

 直後、鋼鉄の大剣が赫灼の光を纏う。


「いくぜッ……"赤き衝撃(フレイムブラスト)"ッ!!」


 そうして大剣が振り下ろされた瞬間、放たれた灼熱の閃光が、屍人の群れを瞬く間に飲み込み、巨大な炎の渦となって一気に燃え広がっていく。


「オッ……オオォォオォッ……───」


 炎に焼かれた屍人たちの身体が、土屑のようにポロポロと崩れ落ちていくのを見て、パーシアンは再度剣《つるぎ》に魔力を込めると、それを地面に突き刺した。


「もう一度、土に還りなッ……はぁぁぁぁあッ!!」


 次の瞬間、敷地内の中央で渦巻いていた炎が弾け飛び、巨大な爆発が巻き起こる。

 その衝撃で、数百体の屍人が吹き飛ばされ、やがて炎が消える頃には、城門から城への道が出来上がっていた。


「デリック! エンリケ!」


「はっ!」


「オスっ!」


「俺は城の中を掃除するッ! てめぇらは五千ずつ率いて左右に展開ッ! 城外の奴らを片付けろッ! いけぇッ!」


「「了解ッ!」」


 二人の連隊長が部隊を引き連れて左右に走り出す中、パーシアンは更地になった城への道をゆっくりと歩き始めた。


 しかし、その足がすぐにピタリと止まる。

 目の前に突然現れた、黒い装備の男を目にして。


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