第79話:対処
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「状況はッ!?」
「か、閣下!」
二階通信室までやってきたジャバーは、部屋に入るなりそう声を荒げた。
「お、お待ちしておりましたッ……現在一階中央階段以外、二階へと続く経路は全て魔術にて物理的に封鎖……中央階段から上がろうとする奴らに全力で対処しておりますッ……!」
「……持ち堪えられそうなのか?」
「な、なんとか……奴らは武器も持たず、魔術も使用せずにただ闇雲に襲いかかってくるだけですので、遠距離から魔術を使用すれば、対処は比較的容易ではあります……ですが、このままですと兵士たちの魔力が持ちません。交代でやりくりはしておりますが、既に複数名が魔力切れに……民間人の避難に回っていた部隊が城へと向かってはおりますが、城の敷地が奴らによって埋め尽くされておりますので、合流にはまだ時間がかかるかと……」
「ちッ……兵舎に現れた女は?」
「け、健在です……現在は距離をとって足止めに注力している為、損耗は抑えられておりますが、未だ有効な攻撃手段がない状態で……また、裏門方向から侵攻する廃墟街のペルシア人約一万に対しては、既にパーシアン旅団長の指示で三個連隊を派遣し、進行を食い止めてはおりますが、奴らを率いているのが……その……」
「な、なんだ!? さっさと言えッ!」
「あ、青い馬に乗った……頭が獅子の形をした男でしてッ! こちらも相当な手練れで苦戦をッ……!」
「し、獅子ぃ? な、なんなんだどいつもこいつもッ……意味の分からんものばかりッ……!」
地下に現れた謎の男と骸骨に、兵舎を襲った無敵の女。
さらに、メインストリートを闊歩する巨大な犬に加え、今度現れたのは獅子頭の男ともなれば、彼がそう怒鳴りたくなるのも無理はない。
どれもこれもが初めて目にするものばかりであり、それが何の前触れもなく、しかも複数同時に押し寄せてくるという現状に対し、完璧な答えを出せと言う方がそもそも無理な話であった。
「で、ですがッ……旅団長がすぐに動ける部隊を編成し直し、兵舎がある東門方向から約一万でこちらへと向かっております! また、先程申し上げた民の避難誘導に割いていた人員も吸収しながらという話でしたので、ひとまず城は持つかと……!」
「よ、よし……あ、いやっ! 貴様ら正門方向を確認したのか!? 報告にあった巨大な三つ首の犬が迫って───」
「そ、それなんですがッ……現在、何者かがあれと交戦中なのを確認しておりますッ!」
「なッ……だ、誰があんな化け物───」
そう言いかけたところで、ジャバーははたと気づく。
この南方司令部において、仮にあれとまともにやり合えるとすれば、旅団長であるパーシアンくらいしか考えられない。
だが、パーシアンでないことは間違いなく、そうなれば必然的に、それは外部から現れたということになる。
現状、そんなことが可能な人物は、たった一人しかいないと、彼はそう結論づけた。
「……ヘンリエッタだ」
「あっ……"流転"の魔法使いであるあの方なら……確かに!」
「ああ。単独で、さらにこれだけの距離を転移出来るのは奴しかいない。おそらく、こちらのゲートが破壊されたことを本国が察知したのだ。加えて通信も不能となれば……事態を把握する為に、奴が派遣されたに違いない」
「お、おお……魔法使い殿なら……!」
「まさに救世主だ……助かるかもしれんぞ!」
「よし……やろう! 部隊の再編成を急がせろ!」
「中央階段の奴らに伝えてやれ! 耐えれば活路があると!」
沸き上がる兵士たちの中で、ジャバーは一人複雑な心境を抱えていた。
既に、異常が発生していること自体は本国へと露見しており、仮に事が収まったとしても、その後に行われる事後処理の中で、責任者である自身への追求は免れない。
よくて更迭、悪くすればそれに加えて降格もあり得る。
さらに、被害状況や本国の受け止め方によっては、それ以上の処罰を受ける可能性もあった。
「いや、まだ……被害を最小限に抑えれば……」
彼はポツリと、誰にも聞こえない程の声でそう呟いた。
彼の後ろには、バルバロスがいる。
大戦時から数えて、もう三十年来の付き合いであり、苦楽を共にした、まさに戦友という言葉が相応しい存在であった。
「どちらにせよ露見は時間の問題だった……ヘンリエッタが来てくれたのはむしろ僥倖……奴を上手く抱き込めれば……うむ……バルバロス閣下も私を見捨ては……」
「閣下ッ!」
「な、なんだッ!?」
「今し方パーシアン旅団長からッ……城の東門に到着したとの報告が!」
「お、おお! さすがはパーシアンッ……! 頼りになる男よ! すぐに東門付近の映像を出せッ!」
「はっ! おい! 使い魔をすぐに東門へ送れ!」
「了解!」
離れた場所の状況を写すという技術は、念話魔術と同様、一つの塊から採れた魔石を砕き、その共振作用を利用することで確立された。
離れた位置にいる使い魔や、斥候の人間が見たものを魔力に変換して飛ばし、魔石を加工して作製される薄いガラス板のようなものへと流すことで、それらの視界を通じて全く同じものを見ることを可能とする。
これは、ここ数十年で作られた比較的新しい魔術であり、そしてその発案者は、あのバルバロスであった。
「映像接続急げッ!」
「もう出来てる! 出すぞ!」
「ッ!? こ、これは……!」
そうして映し出されたのは、兵士の一人が召喚したカラスの使い魔が見ている、東門から敷地内を通り、城内部へと続く一本の道がある筈の場所であった。




