第73話:乱入者
「……おやぁ? 商品が何か申しておりますねぇ……これはいけませんッ! 大変失礼いたしましたッ! ここは一つ、我々の方で一度……"調教"を行いたいと思うのですが、いかがでしょうか皆様ッ!?」
途端に拍手と歓声が起こり、会場中が異様な熱気に包まれていく。
すると、舞台袖から、また別の男が姿を現した。
「な、なんだ……何をする気───ぐぁッ!?」
「あ、あなたぁッ!」
首輪についた鎖をグンッと引かれ、男は地面に叩きつけられる。
そのまま上から押さえつけられた男は、完全に身動きが取れなくなった。
「は、離…………おい……お前らまさかッ……!」
新たに現れた男が、おもむろに服を全て脱ぎ捨てる。
露わになった局部を見て、観客たちの興奮は最高潮へと達した。
「い、いやっ……いやぁッ!?」
そうして、全裸になった男は女の背後に立つと、そのまま彼女を抱きしめ、その頬にゆっくりと舌を這わせた。
「おッ……おぁぁあぁぁッ! ざけッ……離せぐらぁぁだあぁぁぁあッ!!!」
「さぁ! 今からお目にかけますのは、衆目に晒されッ! 初めて夫の目の前で快楽に乱れ狂う女の姿でありますッ!」
「ぎッ……ふざげ離せぁぁぁぁああッ!!!」
「ただし! 時間も限られておりますので、ショーをご覧になりながらのオークションとなりますことをご了承くださいッ! それでは最低落札価格ぅ……!」
司会が男へと目配せする。
頷いた彼は、そそり立つ己のそれを、女の局部へと押し当てた。
「ひっ……いやぁ……いやぁッ!!」
「や、やめッ……やめろぉぉああぁぁぉぁぁぁぁぁぁあッ!!!」
「一千万からスタートでずごぼはぁッ!?」
突如、司会の男が宙を舞う。
ぐるんぐるんと、何度も空中で回転しながら血飛沫を撒き散らす彼に、その場にいた全員の目が釘付けとなっていた。
そうして彼は、舞台の端から端まで綺麗な放物線を描いた後、そのまま激しい衝突音とともに床へと叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。
「なッ……」
全員の目が、動かなくなった彼へと向かう中、二階席から壇上を見ていたジャバーは、誰よりも早くそれに気づいていた。
先刻まで司会がいた場所に立つ、黒い装備に身を包んだその男の存在に。
「……どうやら倫理観ってのは、持ってる金と地位に比例して腐っていくもんらしいな。所詮人間ってのは、法という縛りの中でしか生きられない……獣に過ぎねぇって訳だ」
今度は全員の目が、その男───アストへと集中する。
無論、そんなものなど意にも介さず、彼は縛られた女の背後に立つ男へと視線を向けた。
「おいデカブツ。お前は軍の関係者か?」
「……えっ……あ、いや俺はちぷぎゅッ!?」
今度はその男が、見えない何かによって顔面を叩き潰され、司会と同じように高々と宙を舞うと、やはりけたたましい音を立てながら、床へと叩きつけられる。
男は口から血のあぶくを吐き出しながら、やはりそのまま動かなくなった。
「ああ……別に聞く必要なかったわ。仕切ってんのはジャバーなんだし、お前ら全員関係者ってことで……法には触れない」
「え───ぶゅッ!?」
「ま、どっちにしろ……あんま関係ねぇんだけどな」
夫の方を床へと押さえつけていた男の首が、また何かによって跳ね上がり、そのまま仰向けに倒れ込む。
あらぬ方向へと折れ曲がったそれを見て、人買いの客たちは皆、声すら出せぬまま、ただ呆然と座っていることしか出来ずにいた。
「あ、あなたは……」
「動くなよ」
アストが指で何かを斬る動作をすると、二人を拘束していた手枷や首輪が次々と外れていく。
「あっ……ああっ……!」
「おお……や、やはりあなたは……指導者様なのですね!?」
「あー……まぁ、お前らが勝手にそう呼んでるだけだがな。バティン」
「はいはいですの」
名を呼ばれ、バティンが壇上に姿を現す。
彼女はそのまま、二人に手を向けた。
「お二方、今からお仲間のところへ飛ばしますので、そちらで保護してもらってくださいな。では、いってらっしゃいですの」
瞬間、二人が消え、壇上にはアストとバティンだけが残った。
「さて───」
客たちがそれに驚いたのも束の間、静まり返った劇場に、アストの低い声が響いた。
「楽しかったか?」
誰を見るでもなく、誰に問うでもなく、彼は笑顔でそう言った。
「……あ…………」
ここにいる客たちは、皆それぞれがある一定の成功を収め、金などそれこそ掃いて捨てる程に持っている。
欲しいものは望むがままに手に入り、およそこの世界にある娯楽は全てやり尽くしたが、それでもまだ何かあるのではないかと、そうして探し求めた末に辿り着いた場所がこの場所であった。
つまるところ、彼らは優秀なのだ。
故に、彼が何を言いたいのか、そしてこれから何が行われようとしているのか、それらをつい察してしまう。
「物事には、揺り戻しってもんがある。つまり、今日がその日だったってことだ……代償を捧げる。来い……"死霊を貪る者"」




