第72話:オークション
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五月十四日午後十一時五十分、南方司令部総統室───
「ジャバー閣下。ゲストの入場、完了しました」
「ご苦労……予定通り始めろ。すぐに私も行く」
「はっ」
直属の部下が部屋を後にした直後、ジャバーは一つ、大きなため息をついた。
「なんとか……間に合わせたか」
人攫い稼業のビッガルノは、ジャバーの補佐官であるシャナリーゼが起こした騒乱に乗じ、宣言通り十人以上を捕獲。
そのおかげで、上客ばかりが集うこの日のオークションを見事成立させるだけの人数を確保していた。
ようやく肩の荷も下り一安心したジャバーは葉巻に火をつけると、背もたれへと体重を預け、ポゥと煙を燻らせる。
「……しかし、シャナリーゼの奴が少々気掛かりだな。どこか様子もおかしかったし、連れて行った兵士たちに後始末をさせていると言っていたが……まぁ、あいつは時折やり過ぎてしまうきらいがあるからな。たまには休みでも取らせるか……」
吐き出した煙が天井へと昇る様を見つめながら、ジャバーはふと、頭に浮かんだ言葉を一人口にする。
「まぁ、なんにせよ……よくやってくれた。今日の取り引きだけは、しくじる訳にはいかなかったからな。ひとまずバルバロス閣下にも……フー……これでご満足いただけるだろう」
葉巻を消し、ジャバーは椅子から立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。
向かうのは城の地下。
そこに、人の抱える闇をそっくりそのまま具現化したような、そんな場所があった。
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「閣下、お疲れ様です」
「ああ、ご苦労。首尾はどうかね?」
ジャバーを含め、一部の者しか知り得ないその城の地下には、かつて王族とその関係者のみが入ることを許された劇場が存在する。
ペルシアがまだ健在であった頃は、そこで舞台劇や歌唱、踊りに演奏会など、様々な催し物が行われ、地下とは思えない程に大きなその舞台は、毎回のように豪華絢爛、美しさと華やかさで満ち溢れていた。
「次が六品目ですね。今回も質がよいと、皆様そう口々に話されているようです」
「そうか……それは何よりだ」
だが、今は違う。
壇上に上がるのは、豪華な衣装を見に纏った俳優でもなければ、優雅に舞う踊り子でもない。
「続きましての商品は……こちらぁッ!」
進行役の声に合わせ、屈強な男が二本の鎖を手に壇上へと現れる。
そして、その鎖の先は、二人の若い男女の首輪へと繋がれていた。
「うぅ……」
「ちくしょう……ちくしょうっ……」
二人は何も身につけておらず、その手は背中で縛られ、足には鎖付きの枷が付いていた。
「あうっ……!」
首輪についた鎖を引っ張られるたびに、彼らの身体がグンッと前に出る。
客たちはその様子を肴に、酒の入ったグラスを傾けながらニヤニヤと笑っていた。
「縮図だな……本当にここは」
ジャバーは、主催者専用となっている劇場の二階席からその光景をじっと見つめ、そう呟いた。
「縮図……ですか?」
「ああ。この劇場が世界だとすると、司会が中級階級の労働者で、観客席にいるのがそのまま富裕層……そして、鎖に繋がれた彼らが、この世界を支える哀れな貧乏人という訳だ」
「なるほど……では、ジャバー閣下は?」
「そうさな……まぁ、少々驕りが過ぎるやもしれんが……やはり神、ということになるのだろうね」
ニヤリと笑うジャバーに、部下もまた笑みを浮かべた。
「いえいえ、まさしくその通りかと。であれば、差し詰め私などは神の使い……ということになりますか」
「フッ……貴様はいいように捉え過ぎだ」
「ははっ……これは失礼いたしました」
そんな談笑をする二人の視線の先では、若い裸の男女が壇上の中央に並んで立たされ、客たちがそれを食い入るように見つめていた。
「さて! こちら前回もご好評いただきました……つがいでのセット販売となっておりますッ! つがいならではのお楽しみ方が可能なこの商品ッ! 前回ご購入いただいたお客様からは、夫の目の前で、嫌がりながらも乱れ狂う妻……調教していく中で生まれ出る、愛憎と快楽のコントラストがもう堪らないッ! また、意外と狂っていく夫を見るのも乙な物で、妻が完全に堕ちてからは、そればかり見ていたよ……とのお言葉を頂戴しておりますッ!!」
"おお"と、観客席から声が漏れる。
「ご覧いただいております通り、今回も美男美女のつがいをご用意いたしましたッ! ペルシア人特有の黒く艶やかな長い髪に、切れ長の目ッ! プロポーションも申し分ございませんッ! 夫の方も端正な顔立ちで、身体もしっかりと鍛えられておりますッ! これなら逆にマダムがお買い求めいただいたとしても、存分にお楽しみいただけること間違いなしッ! しかも若いッ! 夫は二十二! 妻はまだ二十歳でございますッ! もちろん!? 後でお客様同士でお取引いただいても問題ございま───」
「ゲスどもがッ……全員地獄に落ちろッ!!」
男の怒号が響き渡り、会場がしんと静まり返る。
だが、当然それは怒りからでも、ましてや恐怖からでもない。
この後に起きる、出来事に期待してのことである。




