↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/85

第70話:締結

 

 ……ここだ。

 何か付け入る隙があるとすれば、ここしかない。

 条件付きとはいえ、奴はカサンドラを見逃すと……そう言った。


 一万年……保ち続けた殺意を捨てる。

 要するに、それだけフィオナって子が大事なんだ。

 何を捨てでも……殺意も、目的も、己の命すらも。

 彼女の救出が最優先……そういうことだろう。


「まず一つ……頼みたいのはあくまで捜索だ。居場所が判明し次第、俺に合図を送ってくれ」


「合図?」


「ああ。実は、帝都に一人……協力者がいる」


「なッ……」


 て、帝都に……こいつの協力者が!?

 バカな……帝都への侵入は容易じゃない。


 特に今は戦時中だ……警戒レベルは最大にまで引き上げられている。

 あの結界術をバレずに突破するなんて……いや、絶対に不可能だ。


 あれは……そんなやわな代物じゃない。

 いったいどうやって入り込ん……いや、ひょっとして最初から住んでいた誰かを?


 どうにかして潜り込んだとしても、こいつクラスの化け物が街に入れば、あの人らのうちの誰かが気づく。

 どう懐柔したかは知らないが、おそらく外で……そうに違いない。


「そのうち、あんた宛に手紙が届くようにする。やり方はそいつと決めてくれ。それから、少なくとも週に一度、必ず進捗を報告しろ。当然、帝都を離れる際も報告だ。で、もし遠征先でフィオナを発見したら帝都へと戻り、協力者に合図を送る……いいな?」


「……分かった」


「それから、協力者を探ろうとすることも禁止だ」


 ちッ……まぁ、そりゃそうか。


「ああ、分かってるよ」


「当然、虚偽の報告もなし……分かったな?」


「……了解だ」


 抜け道を探すしかない。

 ルールに抵触しない範囲で、こいつの裏をかく。


「じゃ、これが最後だ。適当にやられても困るんでな……三ヶ月やる。それでフィオナを見つけ出せ。もし出来なければ……ローザを殺す」


「うッ……!」


 お、恐れていたことが……!


「そ、そんなの……あんまりでありますッ!」


「何があんまりなんだ? 今日失っていた筈の命がそれだけ伸びるんだ。それに、見つけられれば命は助かる……十分に優しいと思うぞ?」


「な、なんでローザちゃんなんだ! 俺にすりゃあいいだろうが……!」


「消去法だよ。俺はあんたを見込んで契約をしている。そして、ターニャの鼻は捜索に欠かせない。だったら、ローザになるのは当然じゃないか」


「だからって───」


「構いません。ジェスターさん、受けてください」


「ロ、ローザちゃん……でもッ……!」


「見つけ出せばいいだけですよ。今死ぬよりはずっといい……それに、罪のない民間人の命も守れますし、カサンドラさんも助かるんです。そして、非道な目にあった……いや、きっと今も苦しんでいるその子を救える……言うことなしじゃないですか」


「ローザちゃん……」


「フッ……バエル、俺からは以上だ」


「うむ。では、ジェスター側はどうか?」


 ……やるしかねぇ。

 ローザちゃんと、カサンドラの為にも。

 そして、ローザちゃんの言う通り、助けられるなら……そうしてあげるべきだ。


「…………問題ない。お前の幼馴染は、俺たちが見つけてやるよ」


「フッ……いいね。期待してるよ」


「……では、双方同意とみなす」


「ッ!?」


 突然地面が赤い光を放ち、そこに六芒星の魔術陣のようなものが再び浮かび上がる。


「これはッ……!」


「我が名……" 法の遵守を求める者(バエル)"の名において、今ここに……契約締結を宣言する」


「うぉぉッ!?」


 赤い光が俺の身体に吸い込まれていく。

 そして、それは奴も同じだった。

 やがてそれが収まると、魔術陣が消え、辺りに暗闇が戻っていった。


「……これにて契約は為された。ゆめ忘れるな。法は常にそなたらを見ている。破りし者には……死、あるのみ。では、さらばだ」


 そう言い残し、バエルは地面に吸い込まれるように消えていった。


「……あっ?」


 な、なんだ?

 頭の中に文字が───


「見えたか?」


「これは……契約の内容か」


 さっき決めたことが、頭の中で一枚の紙になって表示されていた。

 これは確かに便利だが……。


「消えろと念じれば消えるぞ。で、出したい時はそう思えばいい。ちなみに、見えるのは主契約者であるお前だけだ。だが、当然ローザやターニャにも法は適用される。気をつけろよ」


「あ、ああ……分かってる」


 あ、本当だ。

 出たり消えたり……ん?

 こ、これは───


「そうか……これが、お前の名か」


 契約者の条項に、それはあった。

 "軍人殺し"。

 そう呼ばれた……復讐者の本当の名前が。


「……そうだ。じゃあ、改めて自己紹介といこうか。俺の名はアスト……アスト=グリモワールだ。よろしくな……ジェスター=エバンス」


 そう言って、奴は手を差し出す。

 少し躊躇った後、俺は奴の手を掴んだ。

 それは間違いなく……人間の手だった。


「……一つ聞きたい。何故、俺を選んだ?」


 手を離し、俺は奴にそう問いかけた。

 奴は少し考えた後───


「まぁ、リリアナさんの仲間だからだろうな……一番は」


「リリアナさんの?」


「ああ。こんなことを俺が言うのはおかしいだろうし、頭にもくるだろうが……俺は彼女を尊敬している」


「……意外だな。だが、理解は出来る」


「フッ……あの時は、俺の考えがまだまとまっていなくてな。だから、ただ降り注ぐ火の粉を払いのけるだけになっちまったが、あの人と話す中で……少し考えが変わってね」


 あの人らしいな。

 良くも悪くも、人を惹きつけ、変えちまう。

 なぁ、リリアナさん……あんた本当に……死んじまったのかよ?


「いずれまた、特務課が現れるとは思っていた。まぁ、こんなに早いとは思わなかったが……とにかく、次に来た特務課がまともに考えられる奴だったら、ちょいと協力をお願いしようと思っていたのさ。俺もフィオナを探してはいるが……取っ掛かりすら掴めていなくてね。正直、どうしたもんかと考えていたんだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。