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第69話:法の取り決め

 

「法を……定める?」


「バエルは魔界の法律家兼執政官でね。まぁ、今回定められる法とは、魔界のものでもなければ、当然この世界のものでもない。俺とあんた、二人の中だけで取り交わす契約……まぁ、約束みたいなもんだ。で、バエルはその定めた約束に対し、強制力を与えるという力を持っている」


「……強制力?」


「あんたが俺を信用出来ないのはもっともだ。だが、それは俺とて同じこと……俺が律儀に約束を守っても、あんたらに探しているフリをされる可能性だってある。当然、逆も然りだが……バエルの力なら、それを出来ないようにする制約を付与出来る。要するに、二人でルールを作り、もし仮にそれを破れば……罰を与えられるように出来るってことだ」


 罰を……なるほど。

 それなら確かに、口約束にはならないかもしれないが……。


「話は分かった……だが、結局このバエルとやらも、お前の力の一つなんじゃないのか? お前に都合のいいように───」


「それはないな」


「……何故そう言い切れる」


「こいつらは別に、俺の為に動いている訳じゃないからだ。悪魔たちは、俺とルシファーが交わした契約の中だけの関係性で、今回は今あんたが見たように、この薬指という代償の為だけに働いているに過ぎない。だから、当然ルールを破れば、俺も罰を受けることになる」


 バエルはそれに深く頷くと、じっと俺を見つめながら口を開いた。


「まず、吾輩は嘘がつけない。これは、吾輩の性格の話ではなく、吾輩が吾輩自身に付与した制約であり、破れば吾輩は死ぬ」


「死ぬ……それが、罰ってことか?」


「然り。法を遵守しなかった者への罰は死……それ以上でもそれ以下でもない」


 ルールを破れば死……情状酌量の余地はなしか。


「吾輩は法の僕《しもべ》だ。定められし法こそが全てであり、そこに感傷は踏み入れぬ。不公平こそ、吾輩が最も憎むべき言葉である。悪魔であろうが人であろうが、友であろうが敵であろうが……吾輩には関係ない。法を定め、遵守する……それのみが我が信条。信に足るかは分からぬが、吾輩にはそれしか言葉がない」


 ……嘘を言っている感じはしない。

 まぁ、どちらにせよこうなった以上……受け入れる以外に選択肢はないか。


「……分かった。で、どうすればいい?」


「バエル、話は聞いていたな?」


「うむ。ここまでの話は理解している。では、条件提示から参ろうか。まず、契約者側からは、フィオナ嬢の捜索をジェスター側に要求し、その見返りとして、契約者がアレクサンドリアの民間人を殺害しないこと、そしてカサンドラ嬢の命を保証すること……この二点を提示している。また、この二点に関しては期間を設けず、フィオナ嬢の救出が完了したとしても、その効力を失わないものとする。双方、ここまではよろしいか?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。いくつか確認をしたい」


「無論だ。今のはあくまで骨子……これから肉付けを行うのだ。条件の追加も可能……双方が受け入れればな。では、まずはジェスター側から発言を」


「……仮に俺たちが死んだ場合、契約はどうなる?」


「契約は破棄され、なかったことになるな」


 ちッ……それじゃ意味がない。

 フィオナって子の捜索が完了した後、奴に殺されるだけだ。

 仮にそうなってもせめて……楔は残したい。

 通るかは分からんが───


「なら、条件追加だ。"この契約は俺たちの死後も効力を発揮する"……いいか?」


「ん、構わない。バエル、追加しておいてくれ」


「む……本当によいのか? 仮にジェスター側がフィオナ嬢発見前に全員死亡した場合、契約者の目的は果たされぬまま、枷となる条件のみが残ることとなるが……」


「構わないよ。それは想定済みだ」


「心得た」


 ……想定済みときたか。

 それにしても、やけにすんなりと受け入れたな……何か裏があるのか?


「ちなみに言っておくが、あんたらから俺に仕掛けてこない限り、俺はあんたらを殺すつもりはない。まぁ、この話を受けないなら……話は別だがな」


「……だったら、俺たちを殺さないって条件を───」


「それをしちまうと、あんたらから一方的に攻撃されちまうから却下だ。まぁ、殺さずに拘束でもすればいいんだろうが……なんにせよ面倒だからな」


「ちッ……」


 そこまで甘くはないか……まぁいい。


「じゃあ次だ。この条件だと、"お前が(・)民間人を殺さない"となっているが、これには悪魔も含まれるという解釈でいいんだな?」


「当然だ」


 こいつ……。


「なら、悪魔を含むお前はもちろん、お前が誰かを煽動したり、指示をしたりすることで民間人を殺させるのも禁じてもらいたい。どうだ?」


「いいだろう。バエル、それも追加だ」


 平然と……やっぱり、最初からその気なんかなかったんだ。

 だが、なんにせよ民間人と……カサンドラの命が守れるならそれでいい。


 それに、ローザちゃんや、ターニャちゃんの命も守れる……殺されていてもおかしくなかったこの状況なら、今はこれだけでも十分だと───


「じゃあ、今度は俺からも条件を追加させてもらおう」


「ッ! ああ……」


 ここか……何を言ってくるつもりだ?


「まず一つ。この契約内容、及び今日開示した俺に関する全ての情報は、ジェスター、ローザ、ターニャ、カサンドラのみで共有するものとする。伝える為に何かをしようとした段階で、あんたら全員には罰を受けてもらう……意味は分かるな?」


 ちッ……やっぱりそうきたか。

 しかし、受けなければ殺されるだけ……この時点で既に不利なんだが仕方ない。


 とはいえ、情報共有が出来ないのは、さっきあいつが開示した内容だけ……それはつまり、これから先に得たものなら問題ないってことだ。

 おそらく、それは奴も分かって言っている。


「分かった……受けよう」


「よし……では次に、民間人の定義とは、これまで一度も軍事に関わったことのない者を指すこととする」


 ちッ……駄目か。

 さすがに、そう上手くはいかないって訳だ。


「また、それに付随して、あんたらの指示を受けた者、あるいはそう仕向けられた者……例えば、今俺は賞金首になってると思うが、それによって俺が襲われた場合、その者が軍事に関わったことがなくとも、自衛の為に排除することは契約違反に当たらない……問題ないか?」


「……ああ」


 傭兵も駄目……まぁ、当然だな。

 あいつならって思ったんだが……いや、可能性が多少あるだけで、単独じゃどっちにしろ無理か。


「それからもう一つ……まぁ、あんたらはそんなことなどしないだろうが、これは念の為に言っておく。仮にあんたらが軍隊で俺に攻撃をしてきたとして、俺が何かしらの範囲攻撃魔術を放ったとしよう……その軍隊の中に民間人を忍び込ませていて、そいつが死んだとしても罰は適用されない……いいな?」


「あ、当たり前だ! する訳ねぇだろ……」


「フッ……分かってるさ。あくまで念の為だと言ったろ? さて、それじゃあ最後に……フィオナの捜索について話そうか」


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