第66話:逆
「悪魔の力を……手に入れる?」
「そう……奴はその為に世界中を巡り、俺の村を含め、半年間で六回……同じことを繰り返している」
「お、お前がされたようなことを六回も……?」
「今回だけでな。俺の読みじゃ、それ以前にもやってる筈だ」
「なんでそんなことを……」
「それが、悪魔と契約する為の儀式だからだよ」
「儀式……?」
「悪魔の力は強大だ。使役するには、契約の儀式が必要となる。そして、それは正しい手順を踏み、正しく代償を支払わなければならない。その契約の儀式こそ、俺が受けたあれだったのさ。バルバロスは悪魔の存在と、契約の儀式についてある程度は知っていたが、その完璧な手順までは知らなかった。だから何度も試したんだ。で、俺の時にたまたま……」
「当たりを引いた……って訳か」
アストはこくりと頷く。
そして、直後ニヤリと笑みを浮かべた。
「だが、奴は根本から間違っていてな。あれは儀式を行った者ではなく、行われた者が悪魔と契約する仕組みになっている。つまり、今回の場合、あらゆる犠牲を払った俺が……悪魔との契約者になったって訳だ」
「……なるほど。代償ってのは、そういう意味か」
「そう……まぁとにかく、バルバロスは悪魔と契約をしようとしていた。いや、正確に言えば……アレクサンドリア王が、だな」
「へ、陛下が?」
「ああ。俺が殺してきた奴ら全員から聞いている。部隊の顔合わせの際、バルバロスが"これは上意である"と、そう言ったのをな」
ここで、ジェスターにある疑問が浮かぶ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……悪魔の力が強大なのは分かる。だが、アレクサンドリアがわざわざそんなことをしてまで……あのバルバロス大将を使ってまでそれを求める理由がない。お前も知ってると思うが、アレクサンドリアは世界最強の国だ。悪魔の力なんかなくても、おそらくこのままいけば、いずれは世界を───」
「ジェスター……逆なんだよ」
「……逆?」
「これはバルバロスも語っていたことだが、もう何千年も昔……かつてこの世界を全て手に入れた国があった。今で言う、アレクサンドリアみたいな国がな。しかし、そんな超大国は一夜にして滅んだ……彼女たち、悪魔と契約した者の手によってな」
「なっ……」
ジェスターはそんな馬鹿なとは思いつつも、完全にはそれを否定しきれなかった。
実際、彼の左に立つバティンは、もはや魔法の領域と言っても過言ではない空間転移能力を持っている。
右に立つルシファーをはじめ、同じような、あるいはそれ以上の力量を持つ悪魔とやらが他にも複数いるのであれば、決してあり得ない話ではないと、彼は率直にそう感じた。
「アレクサンドリア王はそれを恐れたんだ。確かに……このままいけば、アレクサンドリアが世界を手に入れるのは間違いない。だが、もし誰かがこの悪魔の話を知り、契約の儀式を成功させたら……どうなる?」
「……ッ!」
「もしかしたら、古に存在した超大国のように、悪魔の力を得た何者かによって、アレクサンドリアが滅ぼされてしまうかもしれない……なんせ、世界中から憎まれている国だからな。可能性としては十分にある。じゃあ、これを防ぐにはどうすればいいか……簡単な話だな。誰よりも先に、悪魔の力を手に入れてしまえばいい……そういうことだろうよ」
"筋は通っている"。
ジェスターはそう思った。あり得る話だと。
また同時に、それを王が誰かに命ずるならば、バルバロスが適任だと、そう判断するであろうとも。
それは、ペルシアとの大戦時において、彼に様々な逸話があったからに他ならない。
「まぁ、ただ力を求めただけって可能性もあるが、どちらにせよ俺は……そんなくだらないことの為に全てを奪われた。本来なら、他の奴らと同じようにただ死んで、それで終わりだったんだろうさ。だが、偶然にも奴は正解を引き当てちまった。その結果、俺とルシファーの契約が成立し、俺はこうして今も生きている。そして、復讐する為の力を得たって訳だ……皮肉な話だろ?」
「……ああ、そうだな」
そんなアストの目を見て、ジェスターは思う。
もし仮に、彼と同じことをされ、圧倒的な力を得て復活したならば、果たして自分はどうするだろうかと。
そして、その答えこそ、彼の中にある"正義"を立証するものに他ならなかった。
「お前が生きている理由……それから、そもそも何故そんな……フー…………非道なことが行われたのかも理解した。まだ聞いてもいいのか?」
アストは"どうぞ"と、ジェスターに手を差し出す。
「俺たちをここに連れてきた理由……それを聞いていない」
「ああ、確かに……まだ話していなかったな。まぁ、単刀直入に言おうか。ジェスター、お前たちには俺の……協力者になってもらいたい」
「なッ……協力者!? お、俺たちがお前の!?」
「そうだ。もちろんタダとは言わないし、それなりのメリットも用意しよう。まぁ、そもそも断るなら……」
「……ッ!」
ゆらりと、彼ら三人の背景が歪む。
ただの暗闇が、まるで陽炎の如く揺れ動く様は、そのまま三人が放つ魔力の密度の高さを表していた。
「ま、とりあえず話だけでも聞いておけ。それが……お互いの為だ」
「……分かった。だが、その前にもう一つ……気になってたことがある。お前はさっき、一年前にそれがあったと、そう言ったな?」
「ああ」
「つまり、お前はたった一年で、それだけの強さを身につけたってことになる訳だが、それは悪魔の力によるものという解釈で……間違いないか?」
「まぁ……間接的にはな」
その発言により、ジェスターは確信した。
彼の強さ、その理由を。
「……お前、この一年で……いったい何年を生きたんだ?」




