第63話:続々・二つの回想
やはりというべきか、そこもまた山奥にある小さな村だった。
日中に行った偵察により、村人は百人程度と予想され、これまでの中では一番人数が多かったのだが、当然我々の戦力であれば、制圧にはなんら支障なしと判断された。
「台に固定された俺の指の肉を、ノミとハンマーで少しずつ削っていくんだ。ありゃ痛いなんてもんじゃないぜ……さすがに叫んだよ。打たれる度に"ぎゃあッ!"……ってな。でも、やめてくれとは言わなかった。言っても意味ないし、好きな女の命が懸かってるからな……ただひたすら、耐えるしかなかった」
三回目ともなれば、皆もう慣れてきており、準備も滞りなく進行していったのだが、今までと違うことが一つだけあった。
それは、いつも通り偵察部隊が若い男女を選定しようとしたところ、バルバロス閣下が"もう選定は済んでいる"と、そう言われたのだ。
そんなことは今までなかったし、閣下は直接村を見てもいないので皆不思議そうにしていたが、結局我々は言われるがまま、日中仲睦まじく釣りをしていた長い黒髪の美しい女と、同じく黒髪で同年代の男を対象とすることにした。
「そうして、全ての指がなくなって、手の甲だけが残った。ああ、簡単に言ったが、当時は本当に発狂しかけていたよ。もう死ぬのは分かっていたが、それでもやっぱり……指がなくなっていくのを見せつけられるってのは、痛みもそうだが……精神的にきつかった。二度と戻らないものを壊されていくあの感覚は……今思い出しても嫌な気分になるね」
そして、いつものように夜を待ち、作戦は決行された。
対象が住む家が村の端にあった為、反対側から侵攻を開始。
寝入っていた村人たちを、少しずつ、そして静かに殺していった。
半分程進んだところで、まだ起きていた村人が我々に気づいて騒ぎだし、周りの家に次々と明かりが灯り始めた。
なので、そこからは攻撃魔術を解禁。
誰も逃げられぬように村を包囲し、全軍でひたすらに殺し続けた。
「まぁ、とにかくそうやって指が全部削られたところで、今度はバルバロスの傍にいた赤髪の男が、剣を抜きながら俺の横に立った。そいつの指示で拘束が解かれ、台がどけられると、赤髪の男は俺に顔を近づけてこう言った。"もうあの女を抱けないな。まぁ、代わりに抱いてやるから安心しろよ"……ってな」
途中、別の小隊の奴が女を嬲っているのを見かけたが、いつものことだと放置し、ただひたすら村人を見つけては殺し続けた。
まぁ、我々は千人いる訳で、実際に手にかけたのは五人くらいだったか……正直、よく覚えていない。
もうその時には感覚も麻痺し、特に何も思わなくなっていたから。
そうして殺しながら前に進んでいると、前方から"対象"を確保したと、そう連絡が入った。
後は生き残りを探すだけとなり、適当な家に入って捜索していると、子供が床下の収納に隠れていたのを見つけ……すぐに殺した。
「そういったセリフは、そのあと何回も言われたよ。その度に、胸が締め付けられて、悲しくて悔しくて……もう倒れちまいたくなるんだ。でも、ギリギリのところで踏ん張った。そうするしか……俺にはそれしかなかったからな。そんな俺に、そいつは"両手を前に出せ"と言ってきた。まぁ、何をされるかはだいたいわかっていたが、従うしかない。そうして両手を伸ばして前に出した瞬間、俺の手首から先が……地面に落ちた」
生き残りがいないことを確認した我々は、村の中心にある広場に集まった。
大きな焚き火を作り、その隣に気絶した男を寝かせ、我々はそれを取り囲むようにして輪を作った。
女は首輪をつけられていて、そこから伸びるロープをバルバロス閣下の側近が握っていた。
誰かにやられたのかは分からなかったが、薄手の白いワンピースのような服はところどころ破れており、大きな胸元があらわになっていた。
本当に……綺麗な娘だった。
「それを見て、全員が歓声を上げるんだ。ほんと……うん……言葉に出来ないなぁ……あれは。で、止血していたから、血はほとんど出なかったよ。そこにはただ激痛と、悲しみだけがあった。もう……あいつに触ることが出来ないんだなって……その時、つい幼馴染のことを見ちまった。見ないようにしてたんだ。見たら……折れちまう気がしたから。そしたら……目が合ってな。俺も情けない顔をしていたと思うが、あいつはあいつで凄い顔をしてたよ。あんな……あんな切ない顔は……初めて見た。あれはいろんな感情が混ざった……まぁ、とにかくそんな彼女の顔を見たら、やっぱり死なせたくないって……そう思ったんだ」
男が起きて、ゲームのルールが伝えられる。
そいつは今までの奴らとは違い冷静……いや、あれが虚勢であることは分かっていたが、それでも大したものだと、そう思わせるような振る舞いだった。
おそらく、女のことを……本気で愛していたんだろう。
多分、女も同じだった。
でも結局、そんなことなどお構いなしに、それはいつも通り……始まった。
「まぁ、そっから先は同じようなことの繰り返しだったよ。皮膚を剥いだり、耳を削ぎ落としたり、鼻を少しずつ削っていったり、歯を無理やり抜いたり、髪を切ると言って頭皮ごと削られたり、腕や足や尻の肉を切り取ったり……節目節目でバルバロスの側近が現れて、いろいろ言われたよ。俺の唇を切り取った青い髪の女は、"もうチュッチュ出来ないですねぇ"とか言ってたし、ブロンドの長髪と髭を生やした奴は、俺の肘を落とした時に、"あの子は俺が代わりに抱きしめとくよ"とか……どいつもこいつもセンスないよな。似たり寄ったりの言葉しか言わないから、もうどうでもよくなってたよ」
セオリー通りに足を刺し、三人目の男は少しずつ削られていく。
それでも、彼は耐えていた。
「そういや、いつからかは分からないが、俺は途中から痛みを感じなくなっていてな。ただ立つことだけを考えて、やられた回数を数えていたんだ。ほとんど意識はなかったが、それでも全員の顔はよく見ていたよ。焼きつけようとしたんだ。死んだ後で……呪い殺す為にね。ま、いろんな意味で……それは必要なくなったけどな」
今までの奴らとは違い、泣き叫びながら許しを乞うこともなく、痛みで絶叫しても、その顔は決して醜く崩れはしなかった。
本当に凄い人だと、そう思った。
そして、遂に順番が回ってきた。
今までは、ただ見ているだけだった。
順番が回って来る前に、ゲームは終わっていたから。
だから、どこか他人事というか、目の前で寸劇を見せられているような、そんな感覚でいたのかもしれない。
シャンディ補佐官から指示があり、彼の頬をナイフで抉るようにと、そう言われた。
そうして、初めて彼の前に……その舞台の上に立った。




