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第48話:元皇都ペルシア

 

「あー……素の性格からそっちだったか……」


 なるほどな……途中からなんとなく気づいてはいたが、問題児ばっかりあてがわれたって訳だ。

 そんなのはソードだけで十分なんだがな……まぁ、おそらく閣下は"上手く使え"と、そう仰っているのだろう。


「はぁ……そろそろ行くか。準備やら片付けやらをしながら連絡を待とう」


「だな。しっかし、もう一日早けりゃ、ジェスターたちもスムーズに合流出来たのにな。間が悪いというかなんというか……ちょいとズレてる気がするぜ」


「…………確かにな」


 そうだ。

 どうにも……噛み合ってない。

 上手くはまらないというか、変なところだけ上手くいくというか……何かが胸の中に、変に引っかかってるような気持ち悪さが、ここ最近ずっとあった。

 それがなんなのか分からなかったが……ソードが口に出してくれたことでようやく認識出来た。


 これはおそらく、誰かの策略にはめられてる時の違和感だ。

 リリアナも、ジェスターたちも……いや、違うな。そんな単純な話じゃない。

 何か、もっと大きなことを見落としている……いや、忘れているような───


「……まぁ、今さら言っても始まらん。とりあえず、無茶せんことを祈るしかないだろう……さ、行くぞ」


「へいへい」


 そうして、俺たちは会議室を後にした。

 特務課が使っていた部屋へと向かう道中、俺はやはり、その妙な胸騒ぎを抑えられずにいた。

 ソードが言った"ズレてる"という言葉が、何故だか妙に……芯を食っているような気がして。



 ──────────────────



 五月十四日、元皇都ペルシア近郊───


「間違い……ないんだな?」


「は、はいっ……間違いないであります……!」


 それは、元皇都ペルシアを囲っている巨大な城壁が間近へと迫り、()()()()中へ入るかを協議しながら馬車を走らせていた、まさにその最中のことであった。


「わ、微かではありますが、この匂いは……あの女の人の匂いでありますっ!」


 時刻は夜九時過ぎ。

 彼らがガラバを出発してから、ちょうど二十四時間が経過していた。


 カサンドラの魔術により、夜の空を駆け抜けた彼らは、彼女の魔力を回復、温存する為、朝日が昇ると同時に地面へ降り、その後は通常走行へと移行。

 多少の休息と補給を行いつつ、砂と岩が支配する南部の大地を、ただひたすらに馬車で走り続けた。


 やがて陽の光が地平線へと吸い込まれ、再び訪れた暗闇の中で、僅かな道標を頼りに進んでいった彼らは、道中最後にあった巨大な岩山を登りきったところで、どこまでも続く荒野の中に、まるで浮かぶようにして存在する、元皇都ペルシアをその視界に捉えたのであった。


 そして、岩山を下り、街を覆う巨大な城壁がだんだんと彼らの視界に迫っていたところで、ターニャの鼻がその仇敵の匂いを嗅ぎとったのである。


「ジェスターさん……どうします?」


 操縦席にいたジェスターは、ローザの問いかけに答えぬまま馬車を止め、ただじっと、暗闇の中に聳え立つ元皇都の姿を見つめていた。

 本来ならば、オーガスへ連絡を入れることをまず最優先にすべきだと、当然彼も理解はしている。


 しかし、早朝に立ち寄った街では、通信機の使用を許可されるどころか、駐屯所の中にすら入れてもらえないという扱いを受けていた。


「ローザちゃん……とりあえず、カサンドラを起こしてくれ」


「分かりました」


 そこから考えるに、元皇都でも同様の扱いを受ける可能性が高いと、ジェスターはそう判断していた。

 それは、南方司令部直轄の兵士たちから協力を得られず、そもそも街の中に入れてもらえないという可能性すらあると、そう考えていたということである。


 そこに加えて、ターニャが感知した匂いという名の"重り"が、彼の中にある天秤の片方を、ゆっくりと傾け始めていた。


「……ターニャちゃん、追跡は可能か?」


「今なら……なんとか……」


「今なら?」


「ほんとに消えかけてるような……微かな匂いなんであります。今を逃すと多分……」


「追えなくなる……か」


 ターニャはこくんと頷く。

 これにより天秤は、さらに傾いた。


「……あたしは、やれるっすよ」


 乱れた赤髪を手櫛で軽く整えながら、寝起きのカサンドラはジェスターにそう言った。

 その隣にいたローザもまた、言葉ではなく目で彼に告げる。

 "やるべきだ"、と。


「分かった……やろう。ただし、少佐との約束は守る。いいか? 絶対に正面からやりあおうとは考えるな。これはあくまで、奴がいるかどうかを確認するだけの調査だ。もし仮に接敵した場合は、即時撤退を徹底すること……それでいいな?」


 全員が頷いたのを確認し、ジェスターはターニャに指示を出す。

 ターニャは即座に感覚強化(エンセンス)を発動。

 その微かな匂いの先を探り始めた。


「……このまま真っ直ぐ……うん……やっぱり、匂いは裏門側へ向かってるであります」


「分かった……チッチッ」


 舌鼓(ぜつこ)で馬に合図を送りながら、ジェスターは手綱を引いて馬車を動かし始める。

 彼らはもともと、正門を通って中に入ることを半ば諦めており、"軍人殺し"が潜んでいる可能性が高いと踏んでいた、大量の廃墟群がある裏門側へと向かっていた。

 また、それを選んだのにはある理由があった。


「ジェスターさん、あれを使うんですよね?


「ああ、そのつもりだよ」


 元皇都ペルシアは巨大で歪な円形の都市であり、中央には荘厳なペルシア城が聳え立ち、そこを中心として、十字を切るようにメインストリートが通っている。


 メインストリートに繋がる門は全部で四つあり、城の正面に位置する正門を軸に、右門、左門があり、最後に城の背後に位置する裏門が存在していた。


 現状、アレクサンドリア軍が活用出来ているのは都市の約六割程で、残る四割は大量の廃墟が建ち並ぶ、法も秩序もない完全な無法地帯と化していた。


 結局のところ、占領したはよいものの、そのあまりにも巨大過ぎる都市全てを活用するには至らなかった───というより、その必要性がなかったのである。


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