第46話:変わらないものとそうでないもの
「あ、そういえば……」
「いや、別に名前なんざどーでもよくねぇか?」
「そういう訳にもいかないのですよ。特務課という名前に力があったように、人は目に見えないものでなく、形あるものに意味を見出すことが多い……特に、我々のような軍人はね」
「あー…………ま、確かにそりゃ言えてるかもな」
思い当たる節でもあったのか、ソードは天井を見上げた後、そのまま素直に頷いてみせる。
「フッ……では、ソードが納得したところで……これよりあなた方は、"第一軍団長付き特殊作戦群"と、そう名乗ってください」
「特殊作戦群……ですか? 聞いたことのない名称ですね……」
「いや、んなことより"第一軍団長付き"ねぇ……なるほど? こりゃ一目瞭然だなぁ。むしろ、丸見え過ぎて笑っちまうぜ」
「ちなみに、命名者はバルバロス閣下ですので」
「だろうなぁ……ま、いいんだが、ちと長くねぇか?」
「普段は"特殊作戦群"で結構ですよ。それで伝わるように根回し済みですので」
「分かりました。シャンディ中佐、その……ありがとうございます」
「……礼ならば閣下に。あ、それからもう一つ……カサンドラは上手くやれていますか?」
「カサンドラ……ですか? ええ、まぁ……まだ日は浅いですが優秀ですし、特に問題なく……今も、さっき話した部下と一緒に南部におりますが、それが何か?」
「いえ、カサンドラは訓練生時代に、閣下が目をかけられていたうちの一人でしたので、少々気になっただけですよ……さて、こちらは理解されていると思いますが、特務課が本部として使用していた場所は、対外的な部分を考慮していずれ封鎖されますので、今のうちに必要な物を回収しておいてください」
「……了解です。まぁ、大したものもありませんし、ここから先、我々は根無し草……大陸全土を放浪することになりますから、特に問題ありません」
シャンディはそれに頷くと、スッと背筋を伸ばし、オーガスの正面に立った。
「では、今度こそこれで解散といたします。オーガス少佐……ご武運を」
そう言って敬礼する彼女に、オーガスもまた敬礼で応えると、彼女はそのまま部屋を後にした。
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「で、どーするよ?」
彼女が出て行ってから少し間を置いて、ソードが俺にそう問いかけてくる。
まぁ、言いたいことはなんとなく分かるが、今はまだ───
「どうもこうもない。閣下が何を考えられているかは分からんが、やることは一つだ」
「……ま、そうだよな。了解だ」
表面上は言われた通りに、従順な部下として行動する他あるまい。
どこで誰が見てるか……分からんからな。
しかし、いろいろと気になる点はあったが、やはり一番引っかかるのは───
「オーガス先生っ」
「んおっ!?」
顎に手を当てて思案していた俺の視界に、ひょこっと小さな騎士が突然現れたせいで、思わず変な声を出してしまった。
「本当に……久しぶりだね」
にこにこと笑いながら、彼女は上目遣いで俺を見る。
見た目も仕草も……あの頃と変わらないな。
「……ああ、そうだなイーグレット。何年振りだ?」
「魔法使いになる前だから……五年振りくらいかな。ほんとは会いに行きたかったんだけど、私も忙しかったし、先生も忙しそうだったからね……結構我慢してたんだよ?」
彼女はそう話しながら、少しずつ距離を詰めてくる。
実のところ、俺は彼女が少し苦手だった。
俺が自意識過剰でなければ、おそらくあの当時から……まだ家庭があった頃から彼女は俺を───
「そ、そうか……俺も話したいとは思ってたんだ」
「ほんと!? えー……嬉しいな……」
まずい。
なんか勘違いさせたかもしれん。
「あ、いや、まさか魔法使いになるとは思わなかったから、どうやってそこへ至ったのか……それを聞いてみたくてな」
途端に彼女の眉尻が下がる。
相変わらず、よく顔に出る子だ。
「……そうなんだ。ま、いいや……これから暫く一緒なんだしね。なんでも話してあげるよ。それからね……」
「ッ!」
雰囲気が……変わった。
「私ね、魔法使いになって後悔したことが一つだけあるの。それは……"自由"を失ったこと」
なるほど……あの頃とは違うものが一つあった。
相当な修羅場を潜ったな……でなければ、これ程の殺気は纏えまい。
「私が上を目指したのは、特務課に入る為だったの。先生の側にいたかったから。でも、それは叶わなかった……」
ちらりと、彼女はソードを見た。
「……あいつは特殊だ。君とは違う」
「うん……分かってる。それに、もう願いは叶ったからどうでもいいの……今はね。ああ……それにしてもやっと言える! 実はね、何度も何度も想像してたのっ! 先生の部下になって、いろんな敵と戦う想像を……で、ずっと先生に言いたかったセリフがあって……聞いてくれる?」
「……ああ、聞かせてくれ」
「う、うんっ! じゃ、言うね? これから先、あなたの前に立ちはだかるものは───」
目を見開き、彼女は満面の笑みを浮かべる。
そして、その狂気が宿った瞳を、真っ直ぐ俺へと向けながら───
「───私が全部、殺すから」
……凄まじいな。
これ程の殺気は、あの頃の戦場にすらなかった。
おそらくバルバロス閣下は、これを知っていて彼女を……いや、今はよそう。
「ああ……頼りにしてるよ」
「わぁっ……ふふっ! 任せて!」
変わらないものなどない……か。
だが、お前が消えても、世界は相変わらずくそったれのままみたいだぞ……リリアナ。
「いや、怖過ぎだろお前……」
ソードがそう呟いた瞬間、彼女の首が凄まじい速さでそちらを向いた。
「うるさい黙れ。なんなら貴様から……殺してやろうか?」
「愛の力は偉大ってか? ……やってみろよ、雑魚が」
ばっ……こいつら本気の魔力を───
「やめろ二人とも!」
「はい先生っ」
彼女はすぐに魔力を引っ込めてこちらを向くと、にこにこと笑顔を見せる。
これは……だいぶ危ういな。
「あと、その先生もやめてくれ。君は今日から俺の部下になるんだ。隊長……は、まずいか……とりあえず少佐でいい。そう呼んでくれ」
「はいっ! 少佐っ!」
まったく……先が思いやられるな……。




