第44話:いい話
「いや、そんな……買い被り過ぎですよ。あの、私からも一つお聞きしたいのですが……よろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「実は、このバカの言うことにも一理ありまして、何故アレクサンドリアで十三人……世界でも、たった十九人しか存在しない貴重な魔法使いたちを……この場に三人もお集めに?」
その至極もっともな質問に、シャンディは笑みを浮かべながら頷いた。
「それを今から説明いたします。顔合わせは済みましたしね。さて、それではまず、結論から申し上げます。あなたに……新設部隊の指揮をお願いしたいのです」
「えっ!? い、いや、何故そうなるのか……シャンディ中佐が指揮をされるのでは?」
「私は閣下のお側にいる必要がありますので、現場には出られません。それに、これは閣下がお決めになられたことです」
「バ、バルバロス閣下が? あ、いや、しかし……我々は雑用……じゃなかった……補助要員との名目で呼び出しを受けた筈ですが……」
「それは、表向きの話です」
「表向き……?」
「ええ。閣下は特務課を……特に、あなた個人を高く評価しておられます。それは、今までの功績はもちろんのこと、人材発掘や育成も含めた全てを、です」
これはシャンディとて同様で、彼女もまたオーガスを高く評価していた。
しかし、彼の部下が失敗したこともまた事実であり、つまり先程の皮肉には、本気と冗談の両方が込められていたのである。
「今回の軍人殺しの一件についても、あなたが育てたリリアナ大尉は、見事に彼の元へと辿り着き、結果はどうあれ……多くの情報を手に入れることに成功しています。その点については、やはり優秀だったと言わざるを得ないでしょう」
「で、ですが……その結果のせいで甚大な被害が───」
「オーガス少佐……閣下は、その件については一切触れられておりませんでした。意味は、分かりますね?」
「む……」
つまり、バルバロスはこう言っているのだ。
"そんなことはどうでもいい"、と。
それを察したオーガスは、ただ沈黙することを選択した。
「……ご理解いただけたようですね。つまり、こういうことです。軍内部において特務課は今、非常にまずい立場にあります。もし仮に、特務課として軍人殺しを捜査しようとした場合、行動する中で様々な障害が出てくることでしょう。それこそ、どこに行っても何の協力も得られない、なんてことになりかねない程にはね。あなた方は軍人殺しの一端を担がされ、厳しい立場に置かれてしまった……これを元の状態にまで戻すというのは、いかに閣下ほどのお方といえども難しいこと……ここまではよろしいですか?」
「え、ええ」
「であれば、特務課はほとぼりが冷めるまで休止状態とし、あなたを別部隊へと出向させ、改めて軍人殺しの捜査に専念させればいい……これが、閣下のお考えです」
「お、お考えは理解しましたが……いや、しかし……周りは納得するでしょうか?」
「ですので、表向きは失敗の責任をとらされての出向……閣下が新設された部隊で、いいように使われているという形をとるのです。書類上、正式な部隊の責任者は私ですが、実質的な指揮官はあなたのままです。そして、私がいるということは、必然的に閣下がその後ろ盾として存在していることになる。少なくとも、周りはそう見ます。いろいろと融通が利くと思いますので、その点は上手く活用してください」
それを聞き、ソードは笑みを浮かべた。
「……いい話だ。今までと同じようにやらせてもらえるし……いや、むしろやりやすくなるか。おまけに、魔法使いが二人も加入……戦力は大増強だ。屋号だけは変わっちまうが、そんなことは別に構いやしねぇ……俺たちの手で、軍人殺しを追えりゃあそれでいい。そうだろ? ……おっさん」
オーガスは戸惑いつつも、ソードに小さく頷くと、小首を傾げたまま、彼女をじっと見つめた。
「あの……何故そこまで? 私以外にも、適任はいくらでもいるでしょう」
「……そうかもしれません。てすが、閣下はあくまであなたにと、そう申されておりました」
「それは……その、間違っていたら恥ずかしいのですが、閣下はどうあっても私に指揮を執らせたい……それが、軍人殺しを捕縛する一番確率が高い方法だから……と、いうことですか?」
「ええ、おそらくその通りです。閣下はこう話されておりました。あなたはいくら失敗を重ねようが、必ず最後には正解へと辿り着く男……それ故に"大戦の英雄"と、そう呼ばれるに至ったのだと」
「そ、それはまた随分と過分な……」
「しかし、実際にあなたはそう呼ばれておりますし、記録と記憶がそれを証明しています。あなたの行動が、あの大戦を終わらせるきっかけになったことは事実なのですから。おそらく……閣下はそこに期待されているのだと思います。彼女たち二人を呼び寄せたのは、その期待の表れでしょう。ちなみに、これはここだけの話ですが……正直なところ、かなりの無茶をされておいででした」
小声でそう言った後、彼女は悪戯っぽく笑って見せる。
それを見たオーガスもまた笑みを浮かべ、ゆっくりと椅子から立ち上がり、シャンディの前へと立った。
そして、右手を前に差し出す。
「……分かりました。やらせていただきます」
「よろしくお願いします……オーガス少佐」
二人は握手を交わし、互いに頷き合う。
「あの、早速ですが中佐、顔合わせが終わり次第お伝えしようと思っていたのですが……一つ、ご報告があります」




