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第40話:馬車の中で

 

 ──────────────────



「ん、中央街道に入ったっすね」


 現在の時刻は夜の九時過ぎ。

 準備を終えた俺たちは、ガラバの街を後にし、二頭立ての馬車でひとまず東に向かって移動を開始していた。

 当然、多少は考えあってのことだが、まだはっきりと何かを掴んだわけじゃない。

 ひとまず……彼女から話を聞く必要があるな。


「よし……このまましばらく直進だ。暗いから気をつけろよ。なんかあったら呼んで」


「了解す」


 南部の中央街道に入ったところでカサンドラに運転を任せ、俺が馬車の中に入ると、車内にはコンソメのいい香りが広がっていた。


「はい、ターニャさんこれを」


「あ、ありがとうであります……あの、これは?」


「野菜スープですよ。具材は潰してあります。まずは、そのコップ半分から始めましょう。あ、少しずつ飲んでくださいね。でないと、身体がびっくりしておかしくなっちゃいますから」


「分かりました……いただくであります」


 トレードマークのツインテールに髪を結い直した彼女は、やはり以前会った時よりもかなり痩せているように見えた。

 そんな彼女はぺこりと頭を下げた後、マグカップを両手で持ち、ちびちびとそれを飲み始める。

 その姿は、まるで小動物の食事風景のようで、こんな状況ではあるが、なんだかほっこりとしてしまった。


「どう? 飲めそう?」


「わぁ……おいしいでありますっ」


「ふふっ……よかった」


 俺の正面で、美少女二人が微笑み合っている。

 うん……なんて素晴らしい光景なんだ。


「……ジェスターさん?」


「んっ!? な、何!?」


 やばい……どうやら、思いっきり顔に出ていたらしい。

 ローザちゃんが……ものすんごく冷たい眼差しを俺に向けている。


「だいぶ気持ち悪い顔してましたけど……大丈夫ですか?」


「き、気持ち悪い……顔……?」


 は、初めて言われた……。


「あ、あはは……してた? 気持ち悪い顔……」


「ええ、かなり」


 ローザちゃん……結構俺に厳しいんだよなぁ……ガードも固いし。

 まぁ、それは置いといて───


「と、ところでターニャちゃん、ちょっといい?」


「あ、はい。なんでありますか?」


「聞かせてくれないか? 何があったのか……詳しくね」


 俺がそう言うと、ターニャちゃんは少し悲しげな顔をした後、こくんと頷いた。


「……そうでありますな。分かりました。あ、どこから話せば……」


「そうだな……ガラバに着いてからで頼むよ。その前は報告を聞いてるから」


「了解であります……ガラバに到着後、私はすぐに軍人殺しの匂いを察知しました。リリアナ様はガラバ駐屯所の所長さんと話をして、迎え討つ準備を───」


 ターニャちゃんは淡々と、その準備した内容を全て俺たちに話してくれた。

 基地内にあった魔石と爆薬を集め、兵士たちに魔力を込めてもらった後に地中に仕込んだことや、見張りの兵士を残し、そのほかの全員を基地から退避させて周りを固めていたこと。

 また、ターゲットとなっていた兵士を事前に逃していたが……それが無駄になってしまったことも。


「───軍人殺しは、正直に言って……化け物みたいな強さでありました。魔石の爆発も簡単に防いでいましたし、私の雷系魔術も素手で掴んでぐしゃっと……それに、ライリーさんの必殺技すら通用しなかったんであります」


「え? あ、あれを防いだのか……?」


「はい。しかも、リリアナ様の力で魔術が使えない状態だったのに……であります」


「そんな……ライリーさんのあれを魔術なしで防ぐなんて……絶対に不可能です」


「私もそう思っていたのでありますが……あの人は大きな女の人を召喚し、それによってライリーさんの一撃を止めていました」


「え? いや、おかしいだろ。魔術は使えない筈じゃ……」


「私にもそれはよく分からないでありますが、そうやって防がれたのは事実であります」


「うーん……」


 いや、仮に魔術が使えたとしても、あれを防ぐなんて簡単なことじゃない。

 どうやったかは別として、どちらにせよ厄介な力を持っているってことか。


「そして、それが私の思い出せる……最後の記憶であります」


「え? 最後って……まさか記憶が?」


 こくんと、ターニャちゃんは悔しげに頷いた。


「思い出せないんであります……ライリーさんの攻撃が防がれて、リリアナ様とライリーさんが、軍人殺しと大きな女の人と対峙する姿……私はそれを、駐屯所本館の中から窓越しに見ていた……そこまでは思い出せるのですが、その後がまったく……」


「おそらく、頭部を強く打ったことによる記憶の欠落だと思われます。時間が経てば戻ることもありますが……」


「現状は望み薄か……」


「話しているうちに思い出すかもと考えていたのですが、結局何も……で、目を覚ましたら皆さんの顔がそこにあった……という感じであります。ですから、リリアナ様やライリーさんがどうなったのか、私にも分からないのであります……」


「分かった……ありがとう。じゃあ、今度は思い出せるだけでいいから、軍人殺しが使った魔術を教えてくれ」


「えと……最初の爆発を防いだ防御魔術に、多分風系魔術……それから急に手から武器が出たので錬成魔術と、さっきの召喚魔術みたいなもの……あ、浮遊魔術の練度も高かったと思います」


「多いな……見た目は若かったんだよね?」


「はい……おそらく私より年下かと」


 確か、ターニャちゃんはローザちゃんと同じ二十四とかだったかな?

 今のに加えて、当然能力強化魔術も使ってるだろうし、気配や姿も消せる筈……その若さでそれか……化け物だな。

 こっちは四人だけど、向こうも頭数を増やせるなら有利は取れない。

 やっぱり、正面からぶつかるのは避けたいところか……。


「あ、そうでした! 今回はあの人が"手を出すな"と言ったので、戦いには参加していませんが、もう一人女の人もいました。あの人も相当な実力者だと思うであります」


「……分かった。どう戦うかは道中考えるとして、ひとまず行き先を決めよう。まぁ、いろいろ考えてはいたんだけど……これ見て」


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