第39話:リリアナの部下
「ふー……では、お二人とも……ターニャさんの肩を押さえておいてください。出来るだけ強めにお願いします」
「オーケー……」
二人はローザの指示に従い、左右それぞれの肩を強く押さえつけた。
そこでふと、カサンドラは思い浮かんだ問いを口にする。
「あ、あの、今更なんすけど、成功率って……どんなもんなんすか?」
「まぁ……七割といったところでしょうかね」
「え? そ、そんなにあるなら───」
「カサンドラさん」
普段は穏やかで優しいローザが見せる、その強く鋭い眼光に、カサンドラは思わず背筋を伸ばした。
「命が懸かっている状況での七割です。当たり前のことを言いますが、要するに三割の確率で……ターニャさんは死ぬんです」
「う……」
「そう言われると戸惑うでしょう? それで正解です。これはね、簡単な話ではないんですよ。命の選択は、決して甘いものではありません。よく……覚えておくように」
「……すみません。肝に銘じておきます」
カサンドラがそう言って眉を落とすと、ローザはいつものように微笑んだ後、ターニャへと視線を向けた。
「では、よろしいですね……隊長」
「……ああ、頼む」
「了解…………いきます」
直後、彼女の手から放たれていたぼんやりとした光が、白く眩い閃光へと変わる。
それと同時、ターニャの身体がびくんと強く跳ね上がった。
「くッ!?」
「しっかり押さえて! 動くと手元が狂うッ!」
「す、凄い力ッ……もっと……し、静かにやるもんだと思ってたっすよ……!」
「昏睡状態というのは、理由があるからそうなってるんです! それを無理やり起こそうとしてるんだからッ……これが当然の反応なの!」
穏やかな寝顔のまま、ターニャの身体だけが激しく痙攣し続ける。
二人が必死に身体を押さえる中、ローザは目を閉じ、流した魔力から得た情報を脳内で映像へと変換。
尚も慎重に魔力を脳内へと送り続け、損傷部位を特定する為に全神経を集中させた。
「よし……入ったっ……脳幹は…………んん!?」
「ど、どうした!? 何かあったの!?」
「あ、いえっ……! 思ったよりも正常というか……これならなんとかなりそうです!」
「よしッ……!」
「これならすぐに……やった……修復完了! あとは一気にッ……覚醒まで……!」
次の瞬間、一際強い光が部屋中を包み込み、それが消えると同時、ローザの膝がガクンと落ちる。
「ロ、ローザちゃん!」
倒れそうになるローザを、ジェスターが慌てて抱きかかえると、彼女はその汗だくになった顔を彼へと向け、微笑みながら頷いた。
「お二人とも!」
カサンドラの声に反応し、二人は慌てて立ち上がると、そのまま彼女の顔を覗き込んだ。
「…………ん……」
そして、ターニャがゆっくりと目を開いた。
「タ、ターニャちゃん……俺のこと分かる?」
「…………はい……あなたは……ジェスター……さんで……ありますな……」
それを聞いた瞬間、ジェスターは思わずその場に座り込んだ。
「ふー……あー……よかったぁ……」
心の底から安堵する彼の肩に、ローザはそっと手を置いた。
「ジェスターさん……よかったですね」
「うん……ありがとね……ローザちゃん」
そんな二人を見て微笑んだ後、カサンドラはターニャの前に顔を出した。
「ターニャさん……あたしは?」
「えっ……? あ……カサンドラさん……今日もかわいいでありますな……」
「かわいっ……ま、正解っす」
「あら、じゃあ私はどうですか? ターニャさん?」
「ああ……ローザさん……あなたはいつだってお美しいであります……」
「ふふっ……それじゃ、あといくつか簡単な質問をしますので、それに答えてもらっていいですか?」
「はい……分かったでありま───」
瞬間、カサンドラの表情が変わる。
「……待ってください。私は……あ、違う! リリアナ様は!? わ、私なんでっ……何がッ……いッ……た……!」
「タ、ターニャさん落ち着いて!」
「急に起きたらダメっすよ!」
無理に起き上がろうとするターニャを、二人は必死押さえつける。
その隣で、ジェスターは立ち上がりながら、深いため息をついた。
「何が……何があったんでありますか!? 私はなんで寝てッ……教えてくださいッ! リリアナ様はッ!?」
「ターニャちゃん……俺から話す。だから、落ち着いて聞いてくれ」
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「───これが、俺たちの知る全てだ」
「……」
話を聞き終えたターニャちゃんは、黙ったまま呆然と俺を見ていた。
無理もない。
きっと、俺でもそうなる。
でも、俺たちには……時間がない。
「ターニャちゃん……辛いのは分か───」
「すぐに出発しましょう」
「……えっ?」
「ジェスターさん……申し訳ありませんが、話を聞く限り、私の装備はなくなっちゃったみたいですので、新しいものを用意してもらってもいいでありますか?」
こ、この娘は本当に……さすがは、リリアナさんの部下だな。
「……分かった。ローザちゃんはターニャちゃんの装備を見繕ってくれ。カサンドラは馬車の用意を」
「分かりました」
「了解す」
「俺は少佐に話を通す。準備が出来次第出発だ。行き先は……移動しながら考えよう」
さぁて、いい言い訳を……考えないとな。




