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第38話:窮地の決断

 

「えっ……ジェスターさんまさか、彼女を疑ってるんですか?」


「いや、ターニャちゃんが裏切ってたとか、そういうことじゃない。殺されもせず、攫われてもいないっていう……その事実自体を疑ってるんだ」


 ターニャはあの夜の戦闘から三日後、ジェスターたちがガラバへと辿り着いたその日に、駐屯所本館の瓦礫の中から発見された。


 その際、彼女は頭部に酷い外傷を負っており、また複数箇所を骨折。内臓にもダメージを受け、意識不明の重体という状態であった。


 状況から考えて、彼女は爆発の際、本館内部にいたものと推測され、瓦礫が奇跡的に彼女を押し潰さないように重なり、また頭を打って気絶したことで、三日間飲まず食わずでも生存出来たのだろうと結論づけられていた。


「リリアナさんが使った魔道具は、()()()の力が込められた代物だ。俺は直に本物を見たことがあるから知ってるし、二人もあの瓦礫の山を見れば分かると思うけど、マジでとんでもない威力なんだよ。だから、本当にターニャちゃんがそれに巻き込まれたと奴らが思って、奇跡的に助かった可能性も当然ある。ただ、二人が消えて、ターニャちゃんだけ残ってるってのが……どうしても引っかかるんだよ」


「それってつまり、軍人殺しはターニャさんをわざと見逃して……操ったうえで利用しようとしてるってことっすか? いや、言ってることは分かるっすけど……」


「でも、ターニャさんが魔術の影響下にいる可能性はありませんよ。念の為に解除魔術(ディスペル)もかけましたし、さっきも言ったように隅々まで調べましたから」


「うん……全部理解した上での違和感なんだよ。まぁ、爆発があった時の状況も分かんないし、ただの杞憂ならそれでいいんだ。結局、実際に何があったかを見ていた人間は、ターニャちゃん自身だけなんだからね……で、ここでローザちゃんに質問」


「はい?」


 ジェスターは再びタバコに火をつけ、煙を吐き出した後、いつになく真剣な表情を浮かべ───


「ターニャちゃんを起こす方法……あるよね?」


 そう、彼女に尋ねた。

 その問いに、ローザは戸惑いの表情を浮かべる。


「そ、それは……」


「ローザちゃんは魔術の天才……攻撃も補助も、どっちもいける口だ。特に、回復系の魔術に関しては、うちの中でも一番の使い手……だから、何か知ってると思ってね」


 紫煙を燻らせ、ジェスターは真剣な眼差しでローザを見つめる。

 彼女は少し迷った後───


「……確かに、あるにはあります。けど、かなり危険な方法なんですよ。下手をすると、そのまま意識が戻らないなんてことも……」


「分かってる。言わなかったってことは、つまりそういうことだってこともね。本当はこのまま意識が戻るのを待つべきなんだろう……でも、ターニャちゃんには悪いけど、もう()()()()()


 ジェスターはずっと考えていた。

 感情と現実の板挟みの中で、自分はどうするべきなのかと。

 そして、彼は決断を下した。


「二人に言われて分かったんだよ……俺は隊長として、正しくあるべきだと考えていた。ただそれは、立場が変わったから選んだだけの……楽な選択肢だったのさ。今、特務課はかなりまずい状況にある。解散こそ免れたけど、立ち位置的にはいつそうなってもおかしくないくらいにはね。汚名を晴らし、今の状況を打開する為には……やっぱり、俺たちの手で軍人殺しをやるしかないんだ」


「それは……そうですけど……」


 戸惑うローザの隣で、カサンドラは笑みを浮かべた。


「いいっすね……そうこなくっちゃ。しっかし、ほんとさっきと言ってることが真逆っすねぇ? いや、こっちのがいいんすけど」


「言ったろ……さっきのは、隊長としての俺だ。でも、本来の俺はこっちなんだよ。で、ローザちゃんも……同じっしょ?」


 真剣な顔から一転、今度は悪戯っぽく笑うジェスターに、ローザの頬が緩んだ。


「はぁ……分かりましたよ。やりましょう」


「よっしゃ!」


「なんか手伝うことあるっすか?」


「そうね……まずは、祈っててちょうだい」


「……了解っす」


 ローザはカサンドラに微笑むと、椅子から立ち上がってターニャの枕元へと移動した。


「やること自体は単純なんです。外部から魔力を流して損傷部位を修復。身体を正常な状態へと戻す……ただし、流す場所は───」


 とんとんと、ローザは自身の頭を指でつついて見せた。


「脳か……」


「ええ。例えば骨や内臓に筋肉、血管や神経など……これらは構造や仕組みもよく知られていますから、魔術による治療も比較的容易です。しかし、脳は違います。もちろん、これまで人間が積み重ねてきた様々な研究により、ある程度は解明されていますが、とりわけ謎とされている……魔力に関する部分は未知の領域なんです」


 ローザはターニャの頭の上に回り込み、彼女の頭を挟むように両手を出した。

 そして、その両手から、ぼんやりと淡い光が放出される。


「私たちが普段使う"魔力"と呼ばれるエネルギーが、脳で作られているということまでは分かっています。ですが、それが脳のどの部位で作られているかは解明されていません。これまで、ありとあらゆる様々な実験が行われてきました。それこそ過去の大戦時には、非人道的なものも数多く……それでも解明するには至らなかったんですから、これから行うことがいかに危険なことなのか……分かりますよね?」


 ローザの問いかけに、ジェスターは即座に頷いた。

 それを確認した彼女は、両手でそっとターニャの頭に触れた。


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