第36話:瓦礫の山
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五月十三日、ガラバ仮駐屯所内───
『ジェスター……何か見つかったか?』
「いえ……成果なしです」
通信機の前で、日課となっているオーガスへの報告をするジェスターの声は、明らかに疲れ切っていた。
彼女たちから二日遅れでガラバへと到着したジェスター隊は、そのまま現地に留まり、瓦礫の山と化した駐屯所の復興作業を手伝う傍ら、リリアナたちの痕跡を探し続けていたのである。
それは、彼らにとって肉体的には勿論、精神的にも実に厳しいものであった。
『……大丈夫か?』
「ええ、問題ありません……と、言いたいところなんですけどね……周りからの目もありますし、結局あの日以降、今日まで何も見つかっていませんから……さすがに堪えてきましたよ」
『そうか……まぁ、あれが唯一の救いだったな……』
あの夜の戦闘から既に一週間。
これ以上の捜索が無意味だと判断するには、もう十分過ぎる程の時間が経過していた。
『それだけ探して駄目なら、もうこれ以上は何も見つからんだろう。ったく、あの馬鹿たれ……最後まで俺の言うことをちっとも聞きやしなかった。だが、まぁ……それが、あいつらしさだったというか……もし願いが叶うなら、頭を悩ませていた頃に戻りたいよ俺は……』
「少佐……」
リリアナは決行の直前、上司であるオーガスにのみその内容を伝えていた。
当然のように止める彼を無視し、彼女はそのまま作戦を決行。
その結果が、今の惨状であった。
『リリアナのことだ……一重二重……いや、三重にでも策を練り、全てを出し尽くした結果がこれだったんだろう。まったく……最後の置き土産がデカすぎるってんだよ……おかげでこっちは上から大目玉だ。うちのトップからも、南方司令部からもな』
「でしょうね……この基地のこともそうですが、その後がさらにまずかったですから……」
『ああ……昨日もまた、分かっているだけで三人消えたそうだ。毎日毎日どんどん増えやがる……最近は、帝都でもその話題で持ちきりだ』
あの夜以降、"軍人殺し"による被害は一気に加速した。
ただ、今までと違ったのは、その全てが"殺害"から"誘拐"へと変わった点である。
元ペルシア領西側の街にいた、これまでの被害者と条件が合致する者たちは、皆次々にその消息を経ち、今日に至るまで遺体すら発見されていない。
その数は、当初殺害された者たちも合わせ、もう百人を超えていた。
『南方司令部は今後一切、我々に協力しないと言ってきている。これからは、独自に動くそうだ』
「まぁ、情報がこちら側から漏れちまった結果ですからね……そうなるのも無理ないか……」
『だな……南方司令部も情報流出を察知し、翌早朝にはリストに載っている者たちを保護しようとしたみたいだが、その時点で既に……大半が失踪していたって話だ。で、運よく助かった者たちや、リストに載っていない中央や東地区にも被害が出ていることを考えれば、攫った者たちから情報を引き出してるってことで間違いないだろう。で、これは希望的観測だが……もしかすると、その中にリリアナたちもいるかもしれん。あいつらの遺体は……まだ、見つかっていないからな』
ため息混じりのその言葉に、ジェスターは一瞬返答に迷った後、通信機のマイクを握り直して口を開いた。
「生きてたら嬉しいですけど……そうなっててほしくもないですね。だって、もしそうだとしたら、どんな目に遭ってるか……分からないじゃないですか」
彼がそう言うと、通信機越しにオーガスが"ふーっ"と息を吐く音が聞こえてきた。
『……ああ、そうだな。とにかく、南方司令部の協力が得られない以上、我々にはどうすることも出来ん。それに、どうやって移動しているかは不明だが……奴は今、縦横無尽に元ペルシア領を飛び回っている。被害があった地域に一貫性もなく、あっちにいったりこっちにいったり……こうなると、補足するのはもうほぼ不可能と言ってもいい。それに、どっちにしろもう手は出せん。俺たちは……任務から外されちまったからな』
それを聞き、ジェスターはため息をついた後、前髪をくしゃりと握りしめた。
「……分かってはいましたけど、正式に決まったんですね」
『ああ……ついさっきな。で、それと同時に、軍上層部は"軍人殺し"専用の対策本部を立ち上げた。そして、そのトップは……あのバルバロス大将だ』
「えぇッ!? な、なんでまた軍のトップが……!」
『分からん。まぁ、バルバロス大将が自ら手を挙げたって話だし……それだけの相手だと考えてるんじゃないか?』
「いや、それにしたって……マジですか……」
『あー……ちなみに、特務課を使いっ走りとしてご所望らしくてな……南部以外ではまだ使い道があるから、さっさと全部隊を帝都に呼び戻せと言われちまった』
「そうですか……けど、今は動けないですよ」
ちらりと、ジェスターは肩越しに背後を見る。
その視線の先には、彼の方を向いて椅子に座るローザとカサンドラがいた。
そして、部屋の隅に置かれたベッドの上には───
『ああ……分かってるよ。まだ目を覚ましそうにないか?』
「身体は治ってるんで、多分そのうち起きると思うんですが、なんせ三日も瓦礫の中にいましたからね……」
『だな……生きていただけで奇跡だ。ひとまず、時間は稼いでみるが……最悪の場合、そのままの状態で彼女を連れて来てもらうしかないな』
「ええ……そうですね」
ジェスターは再び振り返り、眠ったままの彼女の顔をじっと見つめた。
静かに寝息を立てる、ターニャの顔を。




