第35話:答え合わせ
『え? そうだったの……ごめんねエリー君……嫌なこと思い出させちゃってさ』
「あ、いえいえ! 同期と言っても、すっごく仲が良かった訳でもなくて……ただ、同い年でしたから、お話はそれなりにしましたけど……あ、それで彼はロッドと言いまして、五人目の被害者です……殺されてしまったのは四月十三日でしたが、うちがそれを知ったのは、その三日後の四月十六日です」
『三日後? ああ……君らの補給は三日に一度だったね……そのズレか』
「はい……その、知ってる人が亡くなったのは初めてで……だから覚えてました」
「閣下、時期は合います」
『そのようだね……ありがとうエリー君。よく思い出してくれた。助かったよ。さて、レイナ君』
「はっ」
『フィオナ君の出番はもう少し先でね……引き続き、彼女をよろしく頼むよ』
「えっ? あ、りょ、了解……このまま任務を継続します……」
『うん。まぁ、いろいろあることないこと話すと思うけど、惑わされちゃダメだよ? 彼女は聡明な狂人だ……決して飲み込まれぬことのないよう、くれぐれも気をつけるように。それじゃみんな……よろしくね』
「「「「はっ!」」」」
通信が切れた瞬間、四人はそれぞれ自分の席へと移動し、そのまま崩れるように椅子へと座り込んだ。
「とりあえず……なんとかなったわね……」
机に突っ伏したまま、レイナはそう言ってため息をつく。
他の三人も、それに同調するようにため息をついた。
「いや、ナイスだったぜレイナ……今思えば、お前が疑問に思わなきゃ、状況だけを伝えるハメになってたとこだ」
「まさしく……レイナ中尉は命の恩人ですな」
「レイナちゃん……ほんとにありがとう……」
「た、たまたまよ……私は、あいつが嫌で嫌でしょうがなかったってだけ。だからこそ、なんで変わったのかが気になったのよ。で、それをアンジュと考えてる最中に、偶然あのお方から───」
レイナはそこで、ふと疑問に思った。
そして、反射的に部屋の中を見回そうとした身体を寸前で止めると、そのまま額に手を当てた。
「ん? どうした?」
「あ、いや……ほんとタイミングがよかったなって……改めてそう思っただけよ」
そう。
偶然にしては、あまりにもタイミングが良過ぎると、彼女はそう思ったのだ。
これではまるで、自分たちが話している様子を、どこかで見ていたかのようではないかと。
「あ、ていうかよ、結局それが正解だとして、なんであいつは"軍人殺し"の話を聞いてまともな状態に戻ったんだ?」
「あ、えーっと……それは……分からないわね。ただ、あのお方は何か考えをお持ちのようだったし……とにかく、私たちは任務に集中しましょう。ほら、二人は夜に備えて休んできなさい。それと、そんな格好じゃ……風邪引くわよ」
「そ、そうでしたっ! どうりで寒いと思ったよぉ……!」
「お、お見苦しい格好で失礼を……では! 我々は自室に戻ります!」
慌てて立ち上がった下着姿の二人は、そう言ってレイナたちに頭を下げると、逃げるように部屋を後にした。
「じゃ、私もあいつの様子を見てくるわ」
「あ、うん……よろしく」
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そうしてアンジュも部屋を去り、一人残された私は、もう冷めてしまったコーヒーを口にする。
そして、視線だけを動かし、見える範囲をゆっくりと眺めてみた。
当然何が見つかる訳もなく、私は背もたれに身体を預けて天井を見上げる。
「うーん……」
もし仮に、閣下の指示で私たちが監視されていたとしても、それはそれで別に構わない。
信頼されているいないではなく、記録というものはいつだって重要だし、何かがあった際の保険にもなる。
それに、私たちの忠誠心は本物だ。
当然、閣下を否定するような発言もしていないし、むしろその証明になるのだから望むところ……これは、必要な措置なのよ。
何を聞かれようが、何を見られようが、そして何をされようが、私の心は変わらない。
それだけの恩が、あのお方にはある。
「んー……」
それよりも気になるのは、今回の件に対する閣下の反応……あれはどう考えても、最初から答えを知っている様子だった。
エリーが話した内容を聞こうともしなかったことからもそれは分かる。
閣下は、あいつが心変わりした原因は、軍人殺しの話題以外にあり得ないといった感じだった。
でも、何故それが分かったの?
あいつの異変に関する報告をしたのは今回が初めて……つまり、事前に考えを巡らせてたということはあり得ない。
ということは、私たちが聞かされていない情報があり、それをもとに閣下は答えを導き───
「……あ」
違う……逆だ。
私が知りたかった答えは、あいつが何故心変わりしたのか……その理由だった。
けど、閣下が探していた答えは、軍人殺しが誰であるかだったんだ。
つまり、閣下はその二人に繋がりがあることを知っていたから、エリーの話自体が答え合わせだった。
ん? ……でも、待って?
あいつが言っていたことが真実なら、生きる理由の全てだったというその恋人は死んでいる。
だからこそ、あいつは死のうとしていた訳で……じゃあ、軍人殺しは誰なの?
その代わりになるものなんて……親? 兄弟?
まさか、死んだ筈の恋人が実は生きていて───
「……まぁ、いいか」
考えても仕方がない。
あいつの過去を私は閣下から聞かされていないし、全てはあの狂人の話したことだ。
何が真実かなどは分からないし、関係もない。
私はただ、閣下の指示に従ってあいつを生かし、隠し続けるだけでいい。
それだけで……いいんだ。
「ん……」
……でも、もしあいつが言ってることが真実なら、あいつは住んでいた村を滅ぼされ、恋人を目の前で惨殺されたことになる。
そして、それを行ったのは……閣下。
しかも、あいつのいた村だけじゃなく、それを何度も繰り返し……なんの罪もない人たちを───
「ふー……」
やめよう。
そんなことはあり得ない。
やっぱり、あれはあいつの妄言だ。
私たちを惑わす為についた嘘。
そうに違いない。
そうでなくても関係ない。
私はただ……バルバロス様の為に生きるだけよ。




