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第33話:生きる理由

 

 彼女を初めて見た四人は、正直なところどうしたものかと頭を抱える。

 それはまさに、"死人を生かせ"という無理難題を押し付けられたようなもので、クリア出来なければその寵愛を失い、()()()()()()()()()()()()可能性も十分にあった。


 バルバロスの話し方から、フィオナが彼にとって()()()()()重要な存在であることを彼女たちは察したのだ。

 しかし、そんな重要で理不尽な命令でも、彼女たちに拒否する権利もなければ、そもそも拒否する気すらない。


 つまり、彼女たちが頭を抱えたのは、難題を押し付けられたことに対する不満からではなく、彼の期待に応えられないかもしれないという不安からであった。


 看守役に選ばれた彼女たち四人は、もともとは親に捨てられた孤児であった。

 彼女たちは別の施設にいたが、それぞれが生きる為に軍人となることを決意し、入隊試験や訓練課程の中でバルバロスの目につき、それから様々な恩恵を得ることとなる。


 そして、彼女たちは彼の庇護の下で己の研鑽に励み、医学や薬学、心理学に戦術学といった学問で優秀な成績を収め、さらにはそれに適した魔術を習得し、諜報、分析などの専門家となった。


 無論それは、バルバロスが彼女たちを優秀な手駒とする為に投資した結果であり、その見返りに彼女たちは確かな報酬と、軍における明確な地位を獲得する。


 しかし、彼らの関係は、そんな利害関係の外にあった。

 当然ながら恩を感じてはいたが、それよりも彼が持つカリスマ性、人間力、そして男としての圧倒的な魅力に、彼女たちの心は強く惹きつけられ、関係性で言えば、信仰宗教の教祖と狂信者のそれに近いものにまでなっていた。


 要するに、彼女たちは既に、身も心も捧げているということである。

 故に彼女たちは、この一年近くに渡り、外に出ることもなく彼女を監視し続け、ただ粛々と任務をこなしていたのであった。


「一ヶ月前か……今になって思えば、その頃の方が楽だったわね」


 ぽつりと、レイナは頬杖をつきながらそう呟く。


「それが、何故か急に素直になって、食事は勿論、普通に話し始めたし、拘束を緩めても暴れなくなった。今じゃ、日中は新聞や本を読んで穏やかに過ごしてる……たった一ヶ月前まで廃人みたいだった奴がよ? そのせいで、あの狂人と会話しなきゃならなくなった……もう最悪よ」


「私は今の方がマシだけどな。下の世話をしなくて済むし、食事だってそう……あいつ、精神操作系の魔術が全然効かないだろ? おまけに薬もあんまり効果がないから、毎回器具で口をこじ開けて、チューブで直接流し込むの大変だったじゃねぇか。対抗魔術(プロテクト)でもかけられてるのかと思ったけど、そんな痕跡もないんだよな……まぁ、とにかく楽になったし、私は今のままでいいよ」


「あなたはよくても私は嫌なの。それにしても、いったい何があったのかしら……こんないきなり変わるなんて……」


「さぁな……あまりの悲劇に、頭が狂いすぎて正常に戻ったんじゃないか? いや、今でも十分にいかれてるから、半分くらいまともになったのかもな」


「違うわ。あいつはもともとおかしかった。あれがあいつの普通なの。何かがあったのよ……きっと……」


「なぁ、レイナ……なんでそんなにこだわるんだ?」


「気になるからよ……それに、あのお方もきっと知りたがるわ。もうじき定期報告でしょ?」


 緊急事態が起きた際を除き、彼女たちからバルバロス側へ連絡することは固く禁じられていた。

 その為、約一ヶ月に一度の定期連絡で情報共有を行っていたのである。


「直接あのお方とお話しすることになるんだから、何故変わったのか、何があったのか……正解には辿り着けなくても、私たちなりの答えを用意しておかないと、あのお方はきっと落胆されるわ」


「……確かにな。それはそうかもしれねぇ」


「でしょ? いい? 狂人だけど、あいつは頭がいい。多分、私たちよりもね。そんな人間が、死ぬことを急にやめた……必ずある筈なのよ。死のうとしてたあいつが、生きなきゃならないとそう思った理由が」


「でも、恋人は死んだんだろ? しかも、目の前で惨たらしく殺されたんだぜ? 生きる意味の全てがそいつにあったんなら、それ以上の理由ってなんだよ?」


「そ、それは分からないけど……あっ! ねぇ、あいつが素直になり始める前、アンジュはあいつに話しかけたりした? 何かほら……世間話とか」


「……いや、ないな。私はしてない。でも、確かにそれしかないな……あの時はまだ、今みたいに緩い拘束じゃなく、手足をがっちり固定されていた……情報を得るようなものも見てない」


「そう……だから、誰かが何かを話したとしか考えられないの。じゃなきゃ、あいつは今もあのままだった。当然、私でもない。つまり───」


「ッ!?」


 その時、通信機のコール音が部屋の中に鳴り響く。

 二人は慌てて椅子から立ち上がり、レイナが受話器を取った。


「はーい! ル・ドゥヤブルです!」


『すみません。予約をお願いしたいんですが』


「はいっ! ありがとうございますっ! 何名様でお越しになりますか?」


『四名です』


「では、どのコースになさいますか?」


『極上で』


「……お疲れ様です。閣下」


『うん。お疲れ様』


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