表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/46

第27話:大女

 

 ライリーは上から、リリアナは下からそれを見ていた。

 突如として現れた、その巨大な女の姿を。


「しょ、召喚魔術ッ!? あり得ない……あんたの魔力は封じて……!」


「ああ……こいつは魔術じゃなく、契約の履行だ」


 その言葉の意味を理解出来ぬままに、リリアナは再度視線を上へと向ける。

 目算で約三メートル。

 長いブロンドの髪を靡かせ、恥部を覆う最低限の白い布のみを纏う筋骨隆々のその大女は、異常に隆起した上腕二頭筋を見せつけるかのように、両腕を天へと向けて伸ばしていた。

 そして、その開いた両手から青みがかった円状の幕を展開し、ライリーの放つ致死の一撃を完全に受け止めていたのである。


「な、なんなんだいこいつはッ……!」


「あぁん!?」


 ギロリと、彼女はリリアナの分身体を睨みつける。


「こいつ呼ばわりしてんじゃねぇぞクソ女ァッ! こっちはいきなり呼び出されただけでもイラついてんのに……つーか! なんちゅう状況で呼んでんだてめぇはコラァッ!」


 その美しく、清純で麗らかな印象を受ける容姿とは裏腹に、彼女はまるでスラム街の娼婦が如く、口汚く喚き散らす。

 アストは、そんな彼女を見てクスリと笑うと───


「悪いな……頼れるのが、君しかいなかったんだ」


 じっと彼女の目を見つめながらそう言ったアストに、キョトンとした表情を浮かべる彼女の顔が、次の瞬間みるみると赤く染まっていく。


「お……おん……」


 そのまま恥ずかしそうにそっぽを向くと、ぶつぶつと何かを呟いた後、さらなる魔力を放出しながら、今度はライリーを睨みつけた。


「おい、てめぇ……!」


「ぐッ……うッ!?」


 上から押し込んでいた筈が、逆に下から突き上げられるようなその感覚に、ライリーの口から焦燥が漏れ出る。


「いつまでのしかかってんだ……あぁ!?」


「こ、こんなッ……!」


「いい加減ッ……吹っ飛べオラァァァアァァアッ!!」


 怒りの咆哮とともに、彼女が展開する障壁が一気に広がり、そのままライリーを弾き飛ばした。


「くッ……!」


 空中で身を翻し、自身にかけた魔術を解除しながら、ライリーは大きくひび割れた地面に着地すると、そのまま両の拳を前へと構える。

 その額からは、大粒の汗が滲み出ていた。


「ふん……で? わたくしめは、お次に何をすればよろしいんでしょうか……ご主人様?」


「フッ……じゃ、俺ごとこいつをぶん殴れ」


「ッ!」


「オラァッ!」


 一切の躊躇なく、彼女はその剛腕をアストの腹部目掛けて振り抜いた。

 けたたましい音を奏でたその一撃により、彼を覆っていた黒い影は破裂するように霧散し、アストは血を吹き出しながら空中へと吹き飛んでいく。


「ごふッ……代償を捧げる……」


 空中で静止した彼は、そのまま驚愕の回復者(ブエル)の能力を使用。

 払った代償と、受けたダメージを瞬時に回復すると、そのまま彼女の側へと舞い戻った。


「助かったよ……レヴィア」


「ほー……随分とご無沙汰だったくせに、私の呼び方を覚えてやがったか」


 彼女の名はレヴィアタン。

 ルシファー傘下の一人であり、数多いる悪魔たちの中で、最強の盾を持つ者である。

 今の人間の姿は仮初に過ぎず、彼女が使用する能力は、その元の姿に由来するものであった。

 また、彼女は自身の名があまり好きではなく、他者には自分のことを"レヴィア"と、そう呼ばせている。


「忘れてたら……ブチギレるとこだったぜ?」


「……知ってるよ」


 そして、これを破った場合、彼女は元の姿へと変貌し、見境なく暴れ回る破壊の権化と化す。

 その間の記憶は一切なく、彼女には"キレた"という感覚だけが残る。

 以前、アストが不用意に彼女の本当の名を呼んでしまった時は、ルシファーを含めた複数の悪魔たちでなんとか抑えた程であった。

 そんな彼女の階級は───"公爵"である。


「さて……」


 アストは彼女の前に立つと、険しい表情で拳を構えるライリーを一瞥し、辺りを見回すように視線を流す。

 そして、地面にあった一つの影をじっと見つめた。


「そこにいるんだろ……リリアナさん」


「……バレバレかい」


 その影から声が漏れるのと同時に、リリアナがゆっくりと姿を現した。


「あれだけ精巧な分身体だ。近くにいて、あんた自身が操作してなきゃおかしいからな」


「まったく……本当に厄介な相手だよ……あんたは」


「その言葉、そっくりそのままお返しするよ。俺は、分かっているつもりになっていただけだった。痛感させられたよ……あんたが言う通り、俺は()()()()……だが」


「「ッ!」」


 直後、彼が放った膨大な量の魔力が、その言葉の先を告げていた。


「ふー……」


 リリアナは魔力を練り上げながら、右のこめかみに指を───


「うぉおぉッ!」


「バッ……!」


 "バカ"と、リリアナがたった二文字の言葉を吐く間も与えず、ライリーは大地を蹴った。

 それと同時、アストもまた前へと出る。

 そして、両者は拳を振りかぶると、まるで示し合わせたかのように、右のストレートを同時に繰り出した。


「がッ……あッ……!?」


 金属と金属が激しく衝突するかのような、そんな轟音が鳴り響いた直後、弾き飛ばされたライリーは、右の手首を抑えながら苦悶の表情を浮かべ、地面に膝をつく。

 その震える手の甲からは、皮膚を突き破った白い骨が見えていた。


「バカ……なッ……お、俺がッ……!」


「打ち合いに負けたのは初めてか? 俺は何度もある……あんた、硬化魔術をどれくらい鍛えた? 五年か? 十年か? ……俺は、百年だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ