第23話:感知と準備
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「ッ! リ、リリアナ様っ……!」
それは、シャバラから北に百キロ程北にあるガラバという街に、彼女たちが足を踏み入れた直後のことであった。
「……どうやら、当たりを引いたようだね」
十一人目が殺害されてから二日後。
リリアナたちは、シャバラを出てからいくつかの街を訪れ、ターニャの鼻による捜索を続けていた。
そして、それがようやく実を結ぶ。
「間違いなくいます……匂いが新しい」
街の入り口から伸びるセンターストリートは、街を縦断するように真っ直ぐ伸び、人の流れは全てそこへと集約されていた。
ターニャはその中から、正確に二人の匂いを嗅ぎ分け、その新鮮さから、対象がこの街にいることを察知したのである。
「そうかい……距離は?」
「目視出来る範囲にはいません。大きな街ではないので、全力を出せばある程度の位置は分かるでありますが……」
「……やめな。向こうに勘付かれる」
そう言ってターニャを制しながら、リリアナは懐中時計を取り出す。
「今は……正午を少し回ったところか」
犯行が行われるのは決まって深夜。
そして、最後の殺害から既に二日が経っていることを考えれば、その答えは自ずと出た。
「……今夜が勝負だね。少々気になることもあるけど、ひとまず駐屯所に行くよ。ターニャ、あまり警戒し過ぎないようにね。普段通りでいいよ」
「りょ、了解でありますっ」
キョロキョロと当たりを見回す彼女に苦笑しつつ、リリアナは二人を引き連れて駐屯所へと向かった。
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ガラバ駐屯所兵士長室───
「ほ、本当なのですか!?」
「ああ……ほぼ、間違いなくね」
リリアナからその話を聞いたガラバの兵士長は、手で口を押さえながら、それを飲み込もうと必死に頭を働かせていた。
「あのっ……つ、つまり、うちのケラーが狙われていると……そういうことですか?」
「そうだ。この街で条件に合うのは彼しかいない。奴がここにいる以上、狙いはそのケラーくんってことになる。最後の殺害から二日……今夜にでも、奴がここへ現れる可能性は高いね」
兵士長は頭を抱えながら、眉間に皺を寄せる。
ここを管理する彼らがペルシア人たちと良好な関係を築いてきたこともあり、この小さな街では事件と呼べるものすら稀であった。
動揺を隠せない彼ではあったが、それでもなんとか気持ちを切り替え、その責任を果たす為に彼は拳を強く握りしめた。
「わ、分かりました……すぐにこの街の兵士を総動員して迎え撃つ準備を───」
「やめな。奴に勘付かれる」
「えっ? し、しかし、このまま何もしないという訳には……!」
「当然対処はするよ。だけど、こっから先は私らの領分だ。あんたは私の指示に従ってもらう。いいね?」
「そ、それは勿論構いませんが……」
「よろしい。じゃ、あんたにやってもらいたいことは───」
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「分かりました……すぐに手配します」
「ああ、頼んだよ。準備出来次第教えてくれ。それまではここにいるよ」
「了解です。では、また後で」
兵士長が部屋を後にし、リリアナは一つため息をついた後、長椅子の背もたれに両手をかけながら首を後ろへと倒した。
「上手く……いくでありますかね?」
その背後に立っていた部下を逆さまに見ながら、リリアナは片眉を吊り上げ、首を微かに傾ける。
「どうかねぇ……お相手の力量がはっきりしない以上、絶対とは言えないよ。ただ、やれるだけのことはしとかないとねぇ」
「……やはり、待つ気はないんですね?」
「ある訳ないだろう? あのひよっこどもを待ってる間に、人口の半分が拷問された後に殺されちまうよ。そんなことより、あんたは仕込みに集中しな」
「分かってますよ……あとは、奴が来るかどうかです」
「来るさ……必ずね。それだけは断言出来るよ。さ、私らも作戦を詰めておこう。ほれ、二人とも座りな。いい加減、頭に血が上っちまうよ」
二人は笑みを浮かべながら、先程まで兵士長が座っていた長椅子へと腰掛けた。
「ふぅ……危うく頭が破裂しちまうとこだったよ。さて、あんたらに言っとくことがある……よく聞きな」
少し緩まっていた空気を引き締め直すかのように、リリアナの表情は実に真剣であった。
その様子に、二人の顔つきが変わる。
「前に話したかもしれないけど、私は常に……自分の命を最優先にしてる。何故だか分かるかい?」
「いえ……理由までは……」
「ん、よく物語やなんかでは、他人に想いを託して死ぬとか、未来の為に命を投げ出す、なんてもんが美徳になってるけど……そりゃ分かるよ? そいつの犠牲で物語が円滑に進むんだ。必要な要素だってのも理解出来る。でもそれは、そいつが死んでも周りの物語が続くからだ。いいかい? 死んじまったら、そこであんたらの物語は終わるんだ。死んだあとに誰がどう悲しんだとか、仇を討ってくれたかどうかとか、そんな結末を見ることは絶対に出来ない。死の先には……何もないんだよ」
真剣な表情で自身を見つめる二人を交互に見た後、リリアナは微かに笑みを浮かべてみせる。
「だから、あんたらも自分の命を最優先にしな。私が"引け"と言ったら全力で逃げるんだ。誰のことも気にせず、ただ自分のことだけを考えてね……分かったかい?」
「……了解」
「りょ、了解でありますっ」
「よろしい。では、作戦会議といこうかねぇ……と言っても、やることは単純だ。今までは後手ばっかり踏んでいた私らだが、今回初めて先手を取れる……ま、罠かもしんないけどね。だから、こっちはもう一つ……上にいかなきゃなんないのさ」
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深夜二時。
ガラバ駐屯所は、いつも通りの厳戒態勢をとり、いつ来るかも分からない侵入者を防ぐべく警戒にあたっていた。
正門には二名の兵士が立ち、その背後にある監視塔、各建物の屋上にもそれぞれ兵士が配置され、全員が注意深く周囲を見渡している。
しかし、その誰もが気づいていなかった。
もう既に、二人が目の前にいることに。




