第2話:襲撃とゲーム
「……は? え、な、何……襲撃って……な、何に?」
「軍隊にだ! 全員同じ軍服を着ている……どこの国かは分からないが奴ら端から順に村を……とにかく逃げるぞ! 奴らもの凄い数だ! とてもじゃないが立ち向かえる相手じゃない……さっさと靴を履け!」
「え、あ、ああ……わ、分かった……!」
しゅ、襲撃って……なんだよそれ!?
と、とにかく急がないと───
「あ……フィオナは!?」
「アスト……」
「フィオナ!」
その時、俺の部屋に彼女が入ってきた。
寝巻きのままの彼女はひどく不安げな表情を浮かべており、俺はそれでようやく完全に目が覚める。
急いで靴を履き、薄着の彼女へと駆け寄った。
「お、お前なんでここに……!」
「母さんがさっき起こしに行ったんだよ! さぁ急───」
「うッ!?」
その時、すぐ近くで巨大な爆発音が響き渡り、それと同時に大きな悲鳴が聞こえてくる。
俺は咄嗟に彼女を抱き寄せ、そのまましゃがみ込んだ。
「あなた! もうすぐそこまで……!」
その爆音と衝撃の後すぐ、部屋の入り口に現れた母さんは、やはり怯えた表情を浮かべながらそう言った。
「くそッ……裏口から出るぞ! ついてこい!」
なんなんだいったい……何が起きてるんだ!?
軍隊がなんでこんな村を───
「アスト……」
「だ、大丈夫だフィオナ……お前は俺が守る」
「う、うんっ」
父さんに続いて家の中を移動し、俺たち四人は裏口の扉へと辿り着く。
そして、薪割り用の斧を手に、父さんは慎重に扉を開け───
「ゔッ……!」
「えっ……」
扉を開けた瞬間に何か嫌な音がして、目の前にいた父さんの背中から、剣が生えた。
「あ、あなたぁッ!!」
みるみるうちに白いシャツが赤く染まり、俺は全く理解出来ないままに、それが何を意味するのかを感じ取っていた。
「と、父さ───」
「ごふッ……ぐッ……うぉぉぉおッ!!」
「ッ! こいつッ……うおッ!?」
背中から剣を生やしたまま、父さんは扉を押し開け、外にいた兵士を弾き飛ばす。
周りにはまだ数人の兵士がおり、そいつらが父さんを取り囲むように立ちはだかった。
「早く行げぇッ! あぁぁぁぁあッ!」
父さんは俺たちに向かってそう叫ぶと、斧を振り回して兵士を後退させる。
「行くわよッ!」
母さんの声に反応し、俺はフィオナの手を掴むと、父さんが開けてくれた隙間を抜け、ただ前だけを向いてとにかく走った。
「はぁッ……はぁッ……ア、アストッ! おばさまがぁッ……!」
「ッ! いいから走れッ!」
俺は見ていた。
母さんが俺たちを逃す為に、近くにいた兵士にしがみついていたのを。
そして……刺されるその姿も。
「クソッ……ちくしょうッ! 父さん母さんッ……ざけんなクソぉッ! フィオナ! 森に入るぞッ……足を止めるなッ!」
「うんっ……!」
何がなんだか分からない。
意味が分からない。
なんなんだこれは!
どうしてこんなことになったんだ!?
ふざけんじゃねぇッ!
いったい俺たちが何したって───
「はい、残念でした」
「うッ!?」
森に入ろうとしたその時、その森の中から兵士が何人も現れ、さらに後ろから追ってきていた兵士も合流し、俺たちは完全に囲まれてしまった。
「だから言ったろぉ? 逃げるならこっちだって」
やたらガタイのいい、一人だけ雰囲気の違う男はそう言って、周りにいる兵士たちに笑ってみせる。
「はっ! お見それいたしました」
「ったく、ちょっとは頭を使いなよ頭を」
「閣下」
その時、俺たちの後ろから女が現れ、その男の側へと近づいていく。
「どう? シャンディちゃん首尾は」
「既に制圧完了いたしました。残るはそこの……」
「お二人ちゃんだけって訳だ……捕まえろ」
「フィオナ逃げろッ!」
「あ、このッ……!」
俺は彼女の手を引っ張り、兵士に体当たりして道を作る。
せめて、フィオナだけでも───
「いやっ……アストぉッ!」
「ばっ……!」
フィオナは逃げるどころか俺に抱きつき、その場でしゃがみ込んでしまう。
「何やってッ……うっ!? ……あ…………」
その直後、強い衝撃が頭を───
──────────────────
「う……」
気がつくと、俺は地面にうつ伏せに倒れていた。
眩しいくらいの明るさに目がおかしくなりそうだったが、すぐにそれが俺の近くにある巨大な焚き火によるものだと気づく。
さらに顔を上げて周りを見回すと、そこが村の中心にある広場だということも分かった。
そして───
「お目覚めかい……坊や」
俺とその焚き火を取り囲むように、さっきの偉そうな男と、大勢の兵士がニヤニヤと笑いながらこちらを向いて立っていた。
「て、てめぇ……あっ! フィオナッ……フィオナをどうしたッ!!」
「落ち着きなって……ちゃんといるよ。おい」
「はっ! おら歩けッ!」
「あっ……!」
兵士が道を開ける。
そして、その中から───
「フィ、フィオナッ……!」
手を後ろで縛られ、首輪についた紐で引きずられるように……ぼろぼろになった彼女が現れた。
「アストッ……」
「て、てめぇらぁッ……!」
視界が赤くなる。
怒りで頭がどうにかなりそうだった。
心臓が痛い。
どうしようもないくらいに苦しい。
こいつら……こいつら全員ッ……!
「だから落ち着きなって……手は出しちゃいないよぉ。服が破けてんのはこの子が暴れたからで、こっちがやった訳じゃないし……ってかほら! ギリギリ大事なとこは隠れてるじゃ……あ、いや、ちょっと見えてるか」
「てめぇッ……!」
「あのねぇ……おじさんだってほんとはこんなことしたかないの。でも、やらなきゃ駄目なんだよねぇ……大人の世界ってのはさ」
「知るかこのクソ───」
「んっんー!」
「うッ……!」
立ち上がって走り出そうとした瞬間、フィオナの首に剣が突き付けられる。
「だからぁ、状況をよく見なって。こっちは一千人いんの。で、君は一人。おまけに人質までいる……状況は理解出来たかな?」
「ちく……しょ……!」
どうしたらいい!?
俺には何も……何もない……!
力も剣も魔術も何も……どうやったらフィオナを助けられる!?
やめてくれ頼む……俺はどうなってもいい。
やっと想いが繋がったんだ!
だから……だからフィオナだけは……!
「つかさー、フィオナフィオナ言ってるけど、気になんないの?」
「な、何がッ……何がだッ!」
兵士たちがさらにニヤニヤと笑い始める。
それが本当に気持ち悪くて、頭がどうにかなりそうだった。
「いやほら、村の人とかぁ……あとぉ、お父さんとお母さんがぁ……どうなったかとか?」
「ッ!」
「見たい? オッケー! 見せてあげて」
その時、さっきシャンディと呼ばれていた女が、何かをポンと放り投げ、それが俺の足元へと転がってくる。
「……………………ざけんなって」
もう、分かってた。
どうなってるかってことくらい。
そんなの分かってるに決まってるじゃねぇか。
けど、けどよぉ……!
「なんッ……で……ここまでッ……!」
そこに、二人の首が……転がっていた。
「いや、見たいかなと思って……肉親の死に様を」
足がガクガクと震えて止まらなかった。
それを必死に叩いて崩れないように踏ん張る。
今倒れたら……もう、起き上がれない気がしたから。
「なんでッ……俺たち…………はぁッ……はぁッ……何もッ…………」
「……まぁ、運が悪かったね。あ、ちなみに村の人は全員死にました。あ、違うわ。殺しました」
「みんなッ……ぜ、全員……?」
「うん。君ら二人以外は全部殺した。老若男女分け隔てなく……おじさん、差別とかしない主義だからさ」
「こ、子供もいた……だろ……!」
「いたねぇ。目の前でお父さんを殺してさ、お母さんをちょっとアレしてたら……泣いちゃってさぁ。うるさいからすぐ殺したよ」
い、意味が……分からない。
なんでそんなことが出来る!?
なんで……なんで……!
「で、なんで君らを生かしたかというと……ちょっと、ゲームでもしようかと思ってね」
「なん……ゲ、ゲーム……?」
「そう……ゲーム。僕ね、ある噂を確かめにここに来たんだけど、君ら知ってるかなぁ……悪魔の話」
「あく……ま……?」
「あ、知らないか。簡単に説明すると……えー、昔々あるところに、世界を全て征服した国がありました。三大陸全部ね。その国はとんでもなく強くて、世界はその国の王様の言いなりでした。もう誰にもどうすることも出来ません。しかし、ある時その国は、突然この世界から消えてしまいます。そして、それをやったのが、悪魔と呼ばれる存在でした……とさ」
聞いたことのない話だった。
悪魔という言葉も初めて聞いたし───
「……知らなそうだねぇ。ま、いいや。で、ゲームの内容なんだけど、今からここにいる兵士全員が、一回ずつ君を攻撃する。で、最後まで立っていられたら君の勝ち……どう? やる?」
………………は?
「いや……ぜ、全員……って……」
俺を囲む人の群。
それは、何人も何人も重なっていて、そしてそいつら全員がニヤニヤと俺を───
「そ、さっきも言ったよね? ……一千人いるって」
閣下とか呼ばれているその男も、そう言って笑っていた。
心の底から気持ち悪いと、そう思える醜悪な笑みを浮かべて。
「……迷う必要なんて、ないんじゃない?」
「ッ!」
グッと、フィオナの首に刃が押し付けられる。
そ、そうだ……迷うことなど……ない。
「お、俺が耐えたら……フィ、フィオナはッ……にがっ……はぁッ……に、逃がしてもらえるんだな!?」




