第7話 100京体と100京体
100京体と100京体の正面衝突が始まった。
「始めようか」
言うと同時に、本体の楸がバフをかけた。
複製体のヒサギを押しつぶした始まりの一撃、100京体の「7つの大罪の魔王」が各種のバフで強化される。
テイマーとしての私の最大火力だ。
「いいだろう。では準備運動として、少しばかり付き合おうかね」
複製体のヒサギたちが一斉に片手を前へ向けた。
直後、100京個のブラックホールが現れた。
しかし、100京体の「7つの大罪の魔王」たちは、強風に耐える程度の仕草でこらえている。
さっき、たった1発のブラックホールで、瞬時に100京体の「7つの大罪の魔王」が吸い込まれて消失したのに、この差は――
「相性ってもんがあるわよね。魔術師にとって神官の相性は『最悪』じゃないの?」
リリーだ。
神官の防御バフは、物理防御と魔法防御で計算式が異なる。つまり「効果が発生する理屈」が違うのだ。
物理防御のバフは、簡単にいえば「対象の物理防御力を倍増する」という計算式。
一方、魔法防御のバフは、「受けるダメージをn%カットする」という計算式。
格上と戦う場合、この違いは大きい。なぜなら、敵の攻撃力が100で自分の防御力が1のとき、防御力を10倍しても90のダメージを受けるが、99ダメージ受けるところを10分の1にカットすれば9.9ダメージで済む。
「間違いないね。
うまく行かない方法を発見した。1歩前進だよ」
ヒサギは涼しい顔で同意した。
余裕を崩すほどではないにせよ、どうやら互角に戦えるらしい。
ならば、あとは攻めるだけだ。
「攻撃開始!」
私の命令で100京体の「7つの大罪の魔王」が100京体のヒサギに襲いかかる。
同時に命令スキルの効果で、攻撃力と攻撃速度が上がるバフもかかった。
「メテオキャノン」
100京体のヒサギが一斉に魔法を放つ。
魔法陣が現れ、雷鳴のごとき轟音が響いた。
直後、100京体の「7つの大罪の魔王」は、その肉体が半壊するほどの大ダメージを受けていた。穴だらけになって死亡した個体も多い。
何が起きた? 背中側にまで広がる穴……貫通攻撃か。なんて速度だ。まったく見えなかった。
「なるほど。メテオをレールガンの弾丸にしたのかね。
そのうちやってみようと思っていた研究だ。期待通りの結果が出て何よりだよ」
「物理攻撃なのか? 通用したってことは」
「その通り。隕石を発射する魔法だからね。原理的には『石を投げた』のと同じだよ」
楸と椿が話し合う横で、マックスとサニーとルナが驚く。
防御バフをあっさり破られたリリーは苦い顔だ。
「投石だと? 速すぎて見えなかったぞ」
「ママ~、悪魔さんたち壊れちゃったよ?」
「あの……その……あれに対抗する手段が思いつかないのですが」
「まいったね……そう簡単に破られるものじゃないはずなんだけど」
極端に強い。対抗手段が思いつかない。
その「結果」に惑わされてしまう。
しかし「原因」を見れば、楸が言った通り、ただの投石だ。
ならば対抗手段も、投石と同じでいい。
「傷跡から見るに、飛ばした隕石はそれほど大きくないし、当たったら爆発するとかでもない。
手数が多いのは厄介だが、対抗手段などシンプルなものだ。当たらなければ、どうということはない。
使え! 眷属召喚!」
100京体の「7つの大罪の魔王」たちが一斉に眷属を召喚する。
100京を数百倍する大軍団が現れた。
「戦闘は『数の暴力』こそ正義だ。
攻撃開始!」
突撃を始めた眷属たちが――
「ヴォイドアウト」
またしても黒い球体に包まれて消えた。
見た目は核熱の極撃と同じだが、いったい……?
「対消滅か。なるほど、そいつは防げないね」
「同じ量の反物質を作って相殺した……?」
「いや、反物質の量はそこまで多くない。
対消滅で発生するガンマ線の効果だよ。ガンマ線は電磁波の一種。つまり光と同じものだ。防御バフを受けても『周りが見える』ということは、光なら『届く』ということだからね……」
「ちょっと何言ってるか分からないわ」
「リリー……分かりやすく言えば、めっちゃ日焼けして、焼け死んだんだよ」
「残念なものを見る目で見るんじゃないの!」
どこかで聞いたことがある。
本当に頭が良い人は、子供にも分かるように説明できるものだ。
楸は、リリーと出会って「本当に頭が良い人」になったのだろう。
「「よくわかった」」
私たちの声は重なった。
「君たちもかね!?」
楸がガビーンとした。
ヒサギがため息をつく。
「なんという生産性の低い会話かね……。
そろそろ準備運動は終わりにしようじゃないか」
ヒサギたちが一斉に動き出す。
しかし突撃してくるのではなく、なぜか整列して多重の球面を作った。
直後、彼らを魔法の光が包む。
見たことのない魔法陣だ。
「教えてあげよう。君たちとは『次元』が違うということを。
これが『我々』の戦い方――攻撃というものだよ」
魔法陣はますます輝きを増していく。
「ワールドハック」
パチン。
ヒサギが指を鳴らした。
同時に、ひとつの気配が消えた。
「……ママ……?」
ザラッ……。
砂に変わる。
崩れていく。
「サニー!」
伸ばした手が、その身に触れるより早く。
――カラン。
消えたサニーの足元に、ペンダントがひとつ落ちた。




