第5話 恐るべき相手
「まずは、こいつからだ」
楸が言った。
直後、ヒサギが黒い球体に包まれた。
「核熱の極撃」
ぼふっ、と黒い球体が少しだけ膨らんで、もとに戻った。
直後、黒い球体は切り裂かれて、ヒサギは無傷で現れた。
「さすが本体。似たような事を考えるものだね」
パチンと指を鳴らすヒサギ。
直後、魔王軍団の一角が消し飛んだ。
黒い球体に包まれて、数万体が一瞬で。
核熱の極撃はさっきも見たから、威力には驚かないが……ヒサギはどうやって無傷で耐えたのだ?
その秘密を暴かねば、まともにダメージを与えることはできまい。
「死力を尽くせ! 攻撃開始!」
全力攻撃を命じた。
魔王軍団が、それぞれの得意とする攻撃を開始する。
ある者は突撃を、ある者は魔法を――
「ブラックホール」
黒い点が不規則に動いたかと思うと、魔王軍団はその黒い点に吸い込まれるようにして消えてしまった。
100京体の魔王軍が、一撃で……。
まさか本当にブラックホールを作ったのか? だとすると、あらゆる攻撃がそこへ吸い込まれてしまう。ヒサギには、どんな攻撃も当たらない。
全方位から同時攻撃すれば「上」からブラックホールに「落ちる」攻撃なら、ヒサギに命中するはずだが、ブラックホール自体を自在に動かせる上に、100京体の魔王軍を何もさせずに消し飛ばしてしまう対応力だ。単に囲むだけでは、どうにもならない。
「うーむ……我ながら、やるじゃないか」
「褒めてんじゃねーよ。くそ……こいつは困ったな」
「あの数を相手に無傷とは……」
「ママ、何あれ?」
「何でも吸い込む魔法らしい。殴りに行くとサニーまで吸い込まれてしまうから気をつけろ」
「あの……その……あんな威力で吸い込まれては、ブレスも届きません」
困る私たちを前に、ヒサギは満足そうに頷いた。
こっちの反応を堪能しているようだ。
「楽しいね。実に楽しい。
研究は知的探求心が満たされる充足感があるが、研究成果をこうして自慢できる機会というのは自尊心を満たされる快感に満ちている」
努力が実る瞬間だ。さぞ楽しかろう。
努力の方向が害悪すぎるから問題だが。
これがゲームで、レベルが上がって新しいスキルを覚えたのを喜んでいるだけなら無害なのに――はっ!
「に、逃げろ!」
私はサニーを庇って立ち、逃がそうとした。
これがゲームで、レベルが上がって新しいスキルを覚えたのを喜んでいるだけなら、防御スキルの無敵を堪能したあとは、攻撃スキルの最強を堪能したくなる。
「正しい判断だな。まあ、逃がしはしないがね。
さあ、今度はこちらの番だ」
「「ッ……!?」」
突然、全身に激痛が走った。
体中に無数の針を刺されたような感覚だ。
「がはっ……!」
込み上げたものを吐き出すと、それは血だった。
何が起きた? 攻撃が飛んできたのだろうとは思うが、何も見えなかったし、何も感じなかった。
血を吐いたということは、喉から胃袋にかけてどこかに損傷が……痛みは幻ではなかったわけだ。
「み、見えないほど小さい攻撃か……?」
「大正解。察しが良いじゃないか。
細胞をひとつずつ突き刺すレベルの小さな針を無数にね。ヤスリの嵐みたいなものだよ」
「「ッ……!」」
「く、くそ……」
ヒサギを見ていた5人は、目や呼吸器をやられたようだ。まともに話すこともできない状態になっている。
私はサニーを振り向いていたので、背面ばかりが痛む。
どうやらヒサギから放射状に放たれたのだろう。庇っていたはずのサニーまでやられたのは、風のように障害物を回り込むからか? 微細な針なら、そういうこともあるだろう。チリやホコリのようなものだ。
こ、こんな攻撃を、どうやって防げと……?
次元が違う。こいつ……強すぎる。
たっ、たっ、たっ、たっ、たっ……!
軽快な足音が近づいてくる。
振り向くと、それはひとりの神官だった。
鬼の形相で、メイスを振り上げながら走ってきた女は――
「こらー! ヒサギー! アタシを置いていくなー!」
うずくまってもがく楸に、容赦なくメイスを振り下ろした。
ごすっ! ごすっ! ごすっ!
「えー!? なんだっけー? 『必要ないね。防御や回復のバフが役立つほどの強敵がいたら、君程度の実力では足手まといにしかならん』だっけー!?
ざまァないわね! 格好つけて出かけていって! ぷぷぷ……! やだー! 格好わるーい! ずいぶん格好つかない結果になってるわねぇ? あっはっはっ! 笑ってあげるわ!」
「ま、待ちたまえ……! 先に回復を……!」
「そうでしょうとも! そうだと思って、すでに回復させといたわ。
もう喋れるでしょ?」
「あ、ああ……そういえば……」
「さっさと立ちなさい、この性悪男!
あんた結局あのとき複製体を始末してなかったわね! 随分とまあ、ひん曲がった性格になったじゃないの。凶悪犯の手配書みたいな顔になっちゃったわね!
ほら見なさいってのよ。本当にあんたって、アタシが居ないとダメなんだから!」
「す、すまない、リリー。君が正しかったよ」
ん熟年夫婦か! あのインテリ野郎が、どちゃくそ尻に敷かれまくってる!




