第3話 魔王は誰?
「サモン・エクサ! セブン・シンズ・アークエネミー!」
100京体の「7つの大罪の魔王」が現れた。
テイマーとしての私の最大火力だ。
「さあ始めようか。クリア報酬をばら撒くのは、もう終わりだ」
空を埋め尽くす悪魔の大軍団。
しかし、彼らは怯まなかった。
「ふーん……エクサという事は、10の18乗かね。
最初に使ったときの『核熱の極撃』が、10の18乗ジュールだったから、それに合わせてくれたのかね?」
「1ジュールで1体倒す計算か? 絶対無理だぞ」
「とんでもなく強い敵が、とんでもなく大勢で現れたことしか分からないが……さて、何体殴れるかな?」
「みんな、サニーの分も残してよねー?」
「あの……その……だいぶ絶望的な状況では?」
いや、1匹だけ怯んでいたか。
まあ、誤差だな。
「攻撃開始!」
バフが乗る。
突撃が始まった。
「合わせたまえよ、ツバキ! 核熱の極撃!」
「おうっ! 核撃の第七罠!」
片っ端から爆発に飲み込まれ、悪魔の大軍勢が一気に崩壊していく。
なんという強さだ。
「抜けてきた奴もいるな! ふんっ!」
「ママ、サニーの分はー?」
「ほら、あっちに居るぞ」
「やったー! えーい!」
「あの……その……ギャオオオン!」
わずかに生き残った魔王も、マックスとサニーとルナに滅ぼされていく。
なるほど、強い。たった5人で世界を敵に回すわけだ。
しかし、いつまで続くかな?
「使え! 眷属召喚!」
特技命令――使役する魔物が、それぞれの特技を使う。
残っている悪魔たちが、それぞれの眷属を召喚して、数は再び100京体に戻った。
「続けて、生贄の儀式!」
眷属3体を生贄にして、魔王1体を召喚する。
100京体の悪魔が33京体に減って、代わりに眷属から魔王に格上げ。
「眷属召喚! 生贄の儀式!」
もう1回くりかえせば、100京体の魔王軍団の復活だ。
これが私の最大火力、その正体。
これをたちまち殲滅していく強力な攻撃を放った5人は、すぐに同じ攻撃を繰り返すことはできず、魔王軍団の復活を阻止できない。強い攻撃ほど、隙も大きいものだ。
「きりがないね」
「面倒だな」
「また増えた……」
「えー? ずるいー」
「あの……その……彼女は命令しているだけで、実際に召喚しているのは魔王自身のようです。再召喚された魔王は別個体あつかいで……つまり、あれは無限に繰り返せるっぽいです。魔力切れとかの心配もなく」
「はっはっはっ! その通りだ。
さあ、どうする? いや、どうもしないで討ち取られてくれると助かるがね。
個人的には、せいぜい抵抗してほしいところだ。お前たちがクリア報酬をばら撒いたせいで人類は滅びかけたが、そのおかげで今や『お前たちを倒すために』と人類は団結している。
すべての国が戦争をやめて、手を取り合った。これは人類史上『初めて』のことだ。誰にもできなかった大偉業と言っていい。
軍人として命令は遂行するが、個人的には私は中立だ。お前たちは功罪あるぞ。どちらもデカい。片面だけを切り取って『お前たちは害悪だ』と言うのは不公平。お前たちはお前達の正義を示す機会を与えられるべきだ」
「ふん……つまり我々の目的は達成されたわけだ。別に与えられんでも構わんよ」
うん……?
「良い方向にも、悪い方向にも、極限まで大きく振れたわけだ。
もう間違うこともあるまい。人類はそこまでバカじゃないはずだ」
……おや?
「冗談じゃない。
正義を示すってのは、機会を与えられておこなうものじゃないだろ」
ふむ……?
「やらなきゃいけないから、やるだけなんだよー?」
……なるほど。
「あの……その……『機会が与えられなければ示さない正義』という背理法を考えてみると、それはもう『正義』ではないのでは?」
それは確かに……。
「もしかして、世界はお前たちを誤解しているのか?
混乱をばら撒くためではなく、平和のためにあえて……?
……いや、どうも理屈がよく分からんが……」
「相互確証破壊による核抑止だよ」
「お前も、あっちから来たんだろ?」
「なんかよく分からんが、そういう事らしいぞ」
「サニー、難しい話わかんなーい」
「あの……その……よく分からなくてすみません」
ヒサギとツバキは、そうか。「あっち」から来たのか。
つまり、この2人は私と同じ、ゲームのアバターというわけだな。
「認めたくないものだな。
しかし、非常によく分かる話だ」
5人を抹殺することに、意味はあるのか?
彼らはもうすでに、目的を達している。
しかも、国際安全保障理事会は、己が彼らの計画の産物であることに気づいてもいないまま、狭い了見で「正義」を振りかざしている。
なんと滑稽な……。
「……うん? なんだ、この魔力は?」
空間が歪み、そこから男が現れた。
その顔は、ヒサギとそっくりだった。
「ふむ……? 急激な質量の増大を感知したが、召喚によるものだったか。
ダンジョンの『復元』かと思って見に来たが、ハズレだったな。残念だ」
「おや? 複製体かね。
こちらは任せろと言ったはずだが……」
「ああ、失礼したね。本体からさっき『そう言われた』のは、『俺』とは別の複製体だよ」
「ほう? もうそこまで来ているのか。
そろそろ知識を共有したほうが良さそうだね」
「ふっ……『我々』は常に共有しているとも。
複製体はネットワーク魔法で相互につながっているからね」
「なにっ……? 本体を無視してかね? どういう了見だ?」
「お前はあのくだらない連れと遊んでいればいいのさ」
「リリーのことか? 彼女がどうしたと言うんだね?」
「あれは『楸』の思考を妨げ、研究の方向性を制限する。
はっきり言って害悪だよ。影響されるべきではない。
だから本体をネットワークには招待しなかったのだよ。
研究は『我々』に任せておきたまえ」
「……倫理を無視しているわけだな。
なんということだ……どうやら我々は敵対してしまったようだね」
なるほど。
善良なヒサギと、邪悪なヒサギが居るわけだな。
どうしてそうなった?
よく分からんが、邪悪なほうは倒してしまえば良さそうだな。
善良なほうを抹殺するのはどうも気が引けていたから……こう言っては何だが、正直助かる。




