第2話 伝説の戦いの終わりと始まり
戦力の拮抗による「両者全滅」という結末。
英雄的に語られるが、実際はそれほど難しいことでもなかった。
「起動したクリア報酬は1つだけですか」
敵国が起動したのは、豚ダンジョンのクリア報酬ひとつだけ。
数万体のオーク(上位種含む)が現れ、人工的なオーク帝国が発生したが、私に言わせれば「たったそれだけ」だ。
「報復攻撃を起動せよ! ただし敵戦力との拮抗を保て!」
こちらもクリア報酬を起動する。
牛ダンジョンの物でいいだろう。ミノタウロスの大軍団だ。
「王国陸軍中佐・柊! 参るッ!」
出撃と同時、ミノタウロスの大軍団にひとつのスキルを放つ。
マスターゲティング・テイム――集団を支配下に置くためのスキルだ。
私はテイマー。魔物を使役する事こそ我が本分。
スキルはすんなりとミノタウロスたちを支配した。
「攻撃開始!」
支配下にある魔物への命令には、その種類に応じてバフがかかる。
攻撃命令によるバフは、攻撃力と攻撃速度の上昇。
陣形が整わないとか武具を用意できないとかの不利は、これで相殺できる。
あとは状況を見ながら、防御命令を出したり回復魔法を飛ばしたりするだけだ。
勝ち切るよりは少し繊細な作業だが、数を削ればいいだけの簡単な作業である。
「……そろそろ数も減ったな。
サモン・サウザンド! ミノタウロス皇帝!」
召喚スキルで、1000体のミノタウロス皇帝を出現させる。
ゲーム時代に培ったスキルのひとつだ。
クリア報酬は魔物を無限に生み出せるが、起動には魔力が必要なので実質的に有限である。そしてそれなら私にも同じことができる。
しかも私の場合は、召喚した魔物を「消す」のも簡単だ。
クリア報酬を起動して現れた魔物――その生き残りを、私が召喚したミノタウロス皇帝1000体で蹂躙。そして事が終われば、召喚したミノタウロス皇帝はスキルを解除して「消す」ことができる。
あとに残るのは、両陣営が残らず全滅した戦場だけだ。
◇
「……ふむ。例の5人組をみつけたか」
偵察を命じた蠅の王ベルゼバブからの報告を受けて、私はターゲットを補足した。
ベルゼバブは眷属召喚のスキルを持ち、ハエを無尽蔵に召喚できる。
そして眷属の動向はベルゼバブが把握でき、もちろん行動を細かく命令もできるので、各地に派遣して「見つけたら8の字に飛べ」とか命じておけば、発見次第すぐ分かるわけだ。
ハエが1匹、天井の隅っこに止まっていたところで、誰が気にするものでもない。うるさく飛び回るのでなければ、わざわざ叩き殺そうとする人は少ないだろう。この偵察は数の暴力で広範囲をカバーでき、ほとんどどこにでも侵入できて、なおかつ見つかっても偵察だとはバレにくいという利点がある。
「現地への移動方法はいかが致しましょうか?
私に乗っていかれますか?」
「羽根にドクロマークがついた巨大なハエに乗って飛んでいくのは、さすがに王国陸軍中佐としてのイメージに不利益だ。お前の姿は、あまりにも『魔王』すぎる。
普通に馬車で行くとしよう」
「申し訳ありません」
「容姿はどうにもなるまい。それに私は嫌いではないぞ。黄色い羽根に黒いドクロマーク、真っ赤な複眼に黄金の顔、鎧のような外骨格……格好いいじゃないか。
お前が速いのは事実だしな」
ベルゼバブは最速の魔王だ。
かつて天使だった彼らが堕天して地獄に封じられることになった際、悪魔たちの中で最も遠くまで逃げたという。
「こんな姿の自分が言うのもアレですが……閣下のそのセンスは、だいぶ厨二病では?」
「ひどっ!? せっかく褒めたのに!」
「申し訳ありません」
「まあ確かに『軍服って格好いいな』と思って王国軍に入ったけどさ……」
「そういう所です、閣下」
「わかってるよ。うるさいな。
ていうか、『そのもの』の姿をしているくせに、お前が言うな」
「申し訳ありません」
「はぁ……」
やれやれ。
「……じゃあ、行くか。
仕事の時間だ」
「その言い回しとか」
「うるさいっての!」
「申し訳ありません」
◇
「いたな! お前がヒサギか!」
「君は誰かね?」
「そっちの男がツバキだな? 竜人の女がマックスで、子供がサニーだったか。ドラゴンはルナ……たしかメスだったな。どうでもいいが」
「だからお前は誰だよ?」
「人に名前を聞くときは、自分から先に名乗るんだよー」
「親にどういう教育受けたんだ、お前?」
「あの……その……揃いも揃って口が悪くてすみません」
「はっはっはっ! ボッコボコに言われるな。いっそ清々しいぞ。
そして地上最強の生物であるはずのドラゴンが一番弱腰とか、どうなってるんだ。実に愉快な奴らだな。こんな状況でなければ仲良くしたいところだ。
改めて名乗ろう。私は王国陸軍中佐・柊だ。
国際安全保障理事会の要請を受け、お前たちを抹殺しに来た」
「ほう? 正面から堂々と来るとは、ずいぶん骨太だね」
「いい『漢』っぷりだ。女だから『漢女』か?」
「それだとオネエになっちゃうだろ」
「オネエはパパだけでいいよー」
「あの……その……失礼ですみません」
「なんでもいいさ。こっちから仕掛けたんだから、一番失礼なのは私だ。
しかし、こっちにはこっちの正義がある。
お前たちのせいで人類は滅びかけた。その罪を精算する時間だ。
サモン・エクサ! セブン・シンズ・アークエネミー!」
100京体の「7つの大罪の魔王」が現れた。
テイマーとしての私の最大火力だ。
「さあ始めようか。クリア報酬をばら撒くのは、もう終わりだ」




