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「客人、ね」
セダスタは、ザイオーロの言葉を鼻で笑った。
「あんたがとんでもないことをやったおかげで、これから地上と地下は全面戦争だろう。そんな状況で、のんきに客人気分でいられるかよ」
そのもっともな反論に、しかしザイオーロは動じない。彼は、まるで出来の悪い生徒に教えを説くかのように、楽しげに
首を横に振った。
「ハッ、だからお前は素人なんだよ。戦争?だったら渡らねえよ、そんな危ない橋。こっちも、とっくに手は打ってある」
「……どういうことだ?」
「この地下から、何人も駒を送り込んであるんだよ。政界にな。今回の件は、俺たち地下世界とは無関係の、どこぞの狂信者が『個
人的な信条』でやったって筋書きよ。用意した身代わりが何人か出頭すりゃ、それで終わりだ。公安がしゃしゃり出てきて
も、こっちのスパイが適当にあしらって終わり。……どうだ、地上はすぐに元通りさ」
ザイオーロの用意周到さに、セダスタは思わず感嘆の声を漏らした。
「……なるほどな。マフィアのやり口だ」
「褒め言葉と受け取っとくぜ」
ザイオーロは不敵に笑うと、そこでふと、真顔に戻った。
「……だがな、そいつはあくまで、俺たちの計画通りの場合だ。ドゥアピーズの連中が絡んでくるなんてのは、完全に計算外でな」
彼は立ち上がると、一行を促した。
「地下出身の議員で、俺たちの味方でもあるドニショって男に、この突発的な事態を報告しなきゃならねえ」
「じゃあ俺もそれは行くよ、当事者だしな」
これまで黙って話を聞いていたセダスタが、静かに、しかし有無を言わさぬ口調で言った。その提案に、ザイオーロは心
底面倒くさそうに顔をしかめる。
「あ?なんでお前が来るんだよ。これはこっちの内部の問題だ」
「その『問題』の原因は俺たちだろう。俺たちの今後の身の振り方について話す場に、俺がいないでどうする。それに、
ドゥアピーズが絡むなら、奴らのことを一番知っている俺がいた方が、話が早いはずだ」
「……?ドゥアピーズを知ってる?」
ザイオーロの問いに、セダスタは一瞬、自らの発言を重大な失言だったかと内省した。だが、目の前の男が、一介のバンガリャン
を自称する男の口から出たその言葉の裏に、故国を滅ぼされたという遠大な理由まで思い至るはずもないことに気が付き、
内心で安堵する。
「……ああ、知ってる。一番ってのは言葉の綾だけど。こっちは星をまたぐ傭兵稼業だ。向こうの内部事情にもそれなりに明るいって話だよ」
そこでのセダスタの瞳には、交渉の余地を一切与えない、強い意志の光が宿っていた。ザイオーロはしばらくの間、その目をじっ
と見つめていたが、やがてその理屈を受け入れたように頷くと、しかし意外な言葉を口にした。
「……ほう。そいつは頼もしいが、今は駄目だ」
「どうしてだ?」
「どうしてってそりゃお前……もう、今回の事件は公になってるだろうが。だったら議員のドニショも対応
に駆り出されて、身動きが取れなくなる。そんな時に俺たちみたいな連中とこそこそ会っているのがバレたらどうなるかって話だよ。
……少なくとも、ヒッパトレグの野郎――ああ、ビエノの葬儀が終わって、世間が少し落ち着くまでは、こっちから連絡するのは得策じゃねえ。
向こうから連絡してくるか、こっちから行くってことになった日にはまた教えてやる」
「――それでどうだ?」
(まずいな……)
セダスタは内心で焦りを募らせた。ザイオーロへの同行を強く望むのは、単に自分たちの処遇を知るためだけではない。
この地下組織がドゥアピーズと裏で結託し、自分たちの身柄を売り渡す。その最悪の事態だけは、絶対に防がな
ければならないからだ。
しかし、それはそうとしてザイオーロの話には筋が通っているし、
「とりあえず、俺は今から幹部連と協議だ……」
当の彼は、この場はすでにお開きにするつもりでいる。
ここで下手に食い下がれば、こちらの焦りを悟らせ、余計な疑念を抱かせるだけだろう。
八方ふさがりとなったセダスタは、内心の焦燥を押し殺し、無表情を装って短く応じる。
「……わかった。その言葉、信じさせてもらうぞ」
「ああ、任せとけ」
ザイオーロは軽く手を上げると、部屋の外で待機していたブクエツに荒々しく声をかけた。
「おい、ブック!客人たちに、一番下の部屋を貸してやれ。しばらく滞在される」
「それはもっと下っ端の仕事じゃねぇのかよ?――」
と、けだるそうな声がくぐもって返ってきたが、
「うるせぇ、お前が一番近いところにいんのが悪ぃんだよ!」
「幹部会議は!?」
「後から来い!話の流れは全部わかったフリしてなァ!」
「ムチャクチャだ!」
「うるせ!」
ザイオーロは相変わらずのぶっきらぼうな口ぶりで押し切った。
…………。
「……あーあー。これボーナス出んのかな~?どう思う、あんたら?」
ぶつくさ文句を言いながらも、結局ブクエツは一行を先導している。こうしてセダスタたちは、反論のすべてを封じられ、ひとま
ず引き下がるよりほかなかった。
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