ポートの街と駆け出し冒険者6
「ゴート!取り敢えずここで飯にしようぜ!」
カンナに手を引かれ案内された店は門からそう遠くない所に有る小さな店だった。
「おっちゃんいつもの二つね!」
そのまま勢いよく店に入ると慣れたように注文するカンナ。
手を繋いだまま店に入っているのだが、こちらからなにか言うのも気が引けるな。
「おっ!カンナ、恋人でも出来たのか?」
馴染みの店というのは注文の時の雰囲気わかっていた。そんな店に異性と手を繋いで入ったらなにか言われるのは当然だ。
「は!?なに言って…あっ!」
しっかりと握られた2人の手。真っ赤になるカンナ。なんとも言えない俺。
「来てくれるのは嬉しいがよ、デートならもう少し洒落た店の方が良いんじゃねーか?」
「うっさい!デートじゃないし!ゴートここ座ろ!」
カンナから手を離し二人で席に座る。いざ手を離すと少し残念な気がする。俺だって男、可愛い女の子と手を繋げるのは嬉しいに決まってる。
改めて店内を見るとカウンター席と机の席が二つとそこま広いわけではない。メニューは今日の定食のみ。凄い店だ。
「おまち!若いんだからたらふく食えよ!」
暫く二人で変に気まずい時間を過ごしていると、店長が料理を持ってきてくれた。大きい皿に米と焼いた魚、そして大きく切られた野菜が乗っている。なんとも豪快だ。
「きたきた。さ、ゴート食べよう!頂きます!」
さっきまでの微妙な空気は何処へやら。笑顔で食べ始めるカンナ。
「…だな。頂きます」
この定食の最大の魅力はなんと言ってもこの焼き魚だろう。川の魚ではなかなか見ることの出来ない重量感と油の乗り、そしてホクホクの身。それをおもむろに口に運ぶ。
「美味い…」
川魚では味わったことの無い美味しさに一人感動する。
正面のカンナは普段から食べていたからだろう美味しそうに食べてはいるものの、俺ほど感動してはいない。
「どうしたゴート?あんまり食べて無いけど美味しくなかった?」
「いやいや、その逆。美味しくて驚いちゃってさ。川魚は何度も食べて来たけど、全く違う味で…本当に美味しいよ」
「ならいいけど。ほらほら、冷めないうちにたべなよ!」
それからは夢中で食べた。ご飯がお代わりできたのは凄く嬉しかった。
「ご馳走さまでした」
各々支払いを済ませ店を出る。
「さて、ここから海に向かいながら、重要な場所とか旨い店を教えて行くから着いて来いよ!」
こうして威勢良く進み始めるカノンの背中を追いながら、ポートの街の案内が始まった。
冒険者組合、商業組合、鍛冶屋、雑貨屋、そしてこの街特有の組織である漁業組合と、カンナに連れられて次々と街の重要な施設の場所を確認していく。朝食がゆっくりだったため昼食は屋台で貝の串焼きをかって食べたのだが物凄く美味しかった。
散策しながら解ったが基本的に行政機関や各組合、鍛冶屋等は海から離れた北側に建てられている。しかし漁業組合だけはだいぶ海に近いところにあり、建物こそ大きいものの作りはかなり質素なものであった。
そのまま海の近くまで降りていき綺麗な海を眺める。ほどよい風と塩の香りが感じられ気持ちがいい。
ふと疑問が浮かぶ。さっきの漁業組合の建物だがこの街の主要産業を取りまとめているにしては余りにも簡素すぎる気がしたのだ。折角だから隣で石を海に投げているカンナになにか知っているか聞いてみた。
「あぁ、それは津波のせいさ。ここら辺では何十年かに一度大津波が来るんだけど、北にある冒険者組合とかならとにかく、仕事の関係で海の近くじゃないといけない漁業組合はどうしてもその時被害を受けるからね。どうせ壊れたりするならそんなに凝った建物作る必要がないのさ。この街では昔からそうしてるみたい。良くも悪くも海と共に暮らしてるから」
「海と共にか…」
今まで命の危険と言えば獣や兵士、野盗といった生き物相手だったが、この街では大自然の脅威も考えなければならないようだ。その反面この街に漁業という大きな恵みを与えてもいる。
流石と言っていいものか解らないが、なんとも自然というものはスケールが段違い過ぎる。
「カンナ、今日は楽しかったよ。本当にありがとな。約束通り俺で良ければ力を貸すよ」
「えっとさ…案内のお礼についてなんだけど一つお願いがあるんだ…。あ、勿論無理なら無理で構わないんだけど…」
珍しく歯切れが悪い物言いをするカンナ。
「ん?良く解らないけど取り敢えず話を聞かせてくれないか?」
やや赤みがかってきた空の元、カンナが事情を話し出すがとても不安げで、昼間の笑顔からは想像できない表情をしていた。
そしてその表情を見て、俺自身得も言われぬ感情が沸き上がってくるのだった。




