第三十七幕
龍馬―side
しかし、あの男...。気になるのぉ。
ナナさんの知り合いのようじゃったが
「未来か、、」
彼がここに居るということは、ナナさんは、、
わしはどうすればえいんじゃ
仕事が終わり、寺田屋に戻る
「ただいま戻ったぜよ~」
「龍馬さん、お帰りなさい」
可愛らしい声が出迎えてくれよる
この声がもう聞けんようになるんは嫌じゃなぁ
「龍馬さん?」
「何でもないぜよ」
広間で夕餉を食べながら何気ない話をする
「そう言えば、お客人はここに泊まるんかの?」
「あ、桃夜なら近くの宿に泊まっていますよ」
「ほうか」
「はい」
「......」
「......」
「...ない」
「え?」
「帰しとうない」
「!」
「薄情すると、今日一日中おまんのことばかり考えちょった」
「未来に帰すのがえいに決まっちょる」
「じゃが、おまんの顔を見たら、そんな気が全部消え去ってしまったぜよ」
「おんしを未来に帰しとうない」
「龍馬さん、、」
「わしのそばに居ってほしい」
「...はい」
頬に右手を添わせて、優しく唇を重ねる
ナナ―side
ぽけぇ~
「ナナ、ナナってば!」
「え、何?モモちゃん」
「何?じゃないよ、さっきから呼んでるのに」
「ごめんってば」
「命がけで過去に来たってのにさ」
「別に頼んでないもん」
「どうしても帰らないつもり?」
「うん、わたしはここで生きていくって決めたの」
龍馬さんの隣で
「仕方ないな、この話はしたくなかったけど」
「?」
「ナナが行方不明になってから、史実が変わりだしたんだ」
「え!」
「結核で死ぬはずだった、高杉晋作と新選組の沖田総司が生き延びてる」
「これってナナが関係してるんだろ?」
「う、うん」
「やっぱり。あと一つ、大きく変わった歴史があるんだ」
「何?」
「...暗殺されるはずだった坂本龍馬が新選組に捕まる」
「え、」
「酷い拷問を受けたのちに幕府へ渡され、大罪人として斬首される」
「...そんな!?どうしてそんなことに!!」
「わからない。でも、ナナがここに存在していること自体が異常事態なんだ」
「それに加えて、病気で死ぬはずだった人達を救ってしまった」
「わたし、どうしたら、、」
「これ以上何もせずに速やかに元の時代に帰ること」
「これが一番の方法なんだよ」
どうしよう、わたしのせいで龍馬さんが酷い目に遭っちゃう
「代償...」
「代償?」
「町で会ったおばあさんに言われたの」
「命には命で償わなければならない」
晋作さん、沖田さんの二人を延命させたから、龍馬さんが大罪人として殺されるってこと?
「そんなことさせない、わたしがその歴史を変えてみせる」
「何言ってるんだ!今以上に悪くなるかも知れないんだぞ!」
「でもっ!今、元の時代に戻っても龍馬さんは…」
龍馬ーside
居間から話し声が聞こえよる
「、元の、戻って、龍馬さんは…」
ん?わしの話かの?
居間の障子を開ける
「わしがどうかしたかの?」
「!龍馬さん!」
「わしの名前が聞こえよった気がしたんじゃが」
「それは…」
「こちらの話です」
桃夜さんは話すつもりはなさそうじゃの
「それじゃあ、そろそろ宿に戻るよ」
「あ、うん」
二人っきりになると、ナナさんがわしの胸に顔を埋めてきよった
「…!?な、ナナさん、どどうしたがぜよ?」
「ん〜」
どうしたと聞いても何も答えようとせん
「わしは死ぬんかのぉ」
バッとナナさんが顔を上げる
「…!!そんなこと…!」
「やっぱりそう言うことじゃったか」
「ナナさん、人間遅かれ早かれみーんな仏さんになるちや」
「誰のせいでものう」
心配そうな顔をしている愛しい女子の髪を優しく撫でる
「だから、おまんは変わらず隣で笑っててくれ」
「の?」
ナナーside
龍馬さんの言いたいことはわかる
でも、これはわたしの責任だ
「わたしだって、龍馬さんに笑っていてほしいです」
「ほんなら…口吸いしてくれたら、なんて…」
もごもごと恥ずかしそうに龍馬さんは顔を逸らした
「龍馬さん」
「ん?なんじゃ…!?」
龍馬さんの唇に軽いキスをする。
みるみるうちに龍馬さんの顔が赤くなっていく
そして、にしし。と満面の笑みを浮かべた
「もう一回えいかの?」
「…はい」
ゆっくりと唇を重ねようと顔を近づけていく…
ドタドタドタドタ!!!!!
バシィーーン!!
勢いよく障子が開く
「ナナ!!無事か!?」
滑り込むように晋作さんが部屋に入ってきた
「晋作さん!?どうしたんですか?」
「どうしたも何も、変な虫が近くにいるんだろう?」
どこにいる!と部屋を見回している
「桃夜のことならもう宿に戻りましたよ」
「そうか!それなら良かった!」
そう言ってぎゅーっと抱きしめてくる
「高杉さん!やめとおせ!」
「うるさい!お前は関係ないだろう?」
「関係あるちや!」
「ほう、?どう関係あるんだ?」
「それは…」
「ナナさんは、わしの…!!」
「おいっ!何騒いでる!?」
以蔵が部屋に怒鳴り込んできた
晋作さんに抱きつかれているわたしを一瞥して
「全く…」
ベリっとわたしから晋作さんを剥がしてくれる
「何するんだ」
晋作さんはムスッとしている
それを無視して以蔵はわたしに話しかける
「先生に使いを頼まれた。お前も一緒に来い」
「あ、うん」
「なんじゃ以蔵、使いくらい一人で行ってこんか」
「そうだぞ!ガキじゃあるまいし」
以蔵は後ろの二人を無視してわたしを連れ出す
「ごめんね、騒がしくしちゃって」
「別に」
「…」
「……」
会話が続かない
「えっと、武市さんに何を頼まれたの?」
「ん?ああ、ちょっとな」
「?」
少し歩いたところにある小さなお店に入る
「おお、いらっしゃい!何をお探しで?」
気の良さそうな店主が声をかけてきた
「懐刀はあるか?」
「もちろんですよ」
さあさあ、と色々な品々を以蔵に見せている
ー 酷い拷問を受けたのちに幕府へ渡され、大罪人として斬首される ー
「龍馬さん…」
「…い、おい!」
「へっ?!あ、何?」
「用が済んだから帰るぞ」
「うん、わかった」
ポッ、ポッ、ポツポツ
「降ってきたな」
「あそこで少し雨宿りしていこう」
「そうだね」
小走りで小屋へ向かう
ガラガラガッシャーーン!!!
「わあぁ!!」
急な雷鳴に驚いてその場に座り込む
「何だ、雷が怖いのか?」
「うん」
以蔵ーside
蹲って震えているナナを見下ろす
こうしているとただの娘なんだがな
隣にしゃがみ込んで左腕で震えている小さな肩を抱える
ピシャーーン!!!
「きゃあぁ!!」
叫び声をあげて俺の胸にしがみついてくる
「…!?おい、」
「っふ、っく…。」
泣いてるのか?
空いた手で落ち着けるように頭を撫でる
少しすると、落ち着いてきたようだった
「大丈夫か?」
ナナーside
以蔵の心配そうな声が聞こえて顔を上げる
「うん、ごめんね!急にしがみついちゃって」
「別に気にするな」
以蔵から離れて座り直す
「そう言えば、武市さんに何を頼まれたの?」
「ああ、先生には何も頼まれていない」
「え?」
「これをお前に」
そう言って以蔵は先ほどのお店で買った懐刀を差し出した。
「わたしに?」
「そうだ、自分の身は自分で守れ」
差し出された懐刀をギュッと握る
「うん、わかった」
皆んなの邪魔になりたくない
せめて、自分のことは自分で何とかしなくちゃ
「ありがとう、以蔵」
「ああ、お前なら大丈夫だ」
雨が止んできたので、小屋の外に出てみる
少し先の方から話し声が聞こえてきた
よく目を凝らして見てみると、鮮やかな浅葱色の羽織がはためいていた
「以蔵、道の先に新撰組がいる」
「何!?」
「わたしが注意を逸らして時間を稼ぐから、そのうちに逃げて」
「な、何馬鹿なことを!」
「これしか方法がないの!早く!!」
髪を纏めていた簪を外し、以蔵に手渡す
「これ、龍馬さんに」
そう言って、着物の襟を少し引っ張り裸させる
「た、助けて!!」
茂みから出て大声を出す
「娘!どうした!?」
新撰組の人に問いかけられる
「さっき、知らない男の人に無理やり…」
「そいつはどこに向かった?」
「む、向こうへ」
寺田屋とは反対方向を指差す
「わかった、よしお前たち行け」
「はっ!」
数人の隊士たちがわたしの指差した方向へ向かって行った
「どうした?」
列の後ろにいたらしい人が騒ぎを聞きつけてやってきた
わたしを見て驚いた声を上げる
「ナナ!?」
「土方さん…」
「何があった?」
「男の人に襲われそうに…」
「何だと?!」
「おい!てめぇら!そいつを見つけるまで戻ってくるんじゃねぇぞ!!」
「はっ!!!」
土方さんは馬に乗り、わたしを前に乗せて屯所に向かった
以蔵…大丈夫だよね?
つづく




