第三十六幕
慎太郎―side
ついに言ってしまった...!!
「いや、後悔はしてない...けど、」
「あぁぁ~~~~~~~~」
夕べのことを思い出して、庭で一人悶えていると
「何だ、ご乱心か?」
可笑しなやつだな、と笑いながら以蔵くんが声をかけてくる
「以蔵くん!ちょうどいいや、少し相手をしてよ」
と言いながら、以蔵くんに竹刀を渡す
「お、久しぶりだな」
「お手柔らかに」
「どうかな」
なんて軽口を叩きながら、しっかりと竹刀を握る
仕事の合間を見つけては素振りをしているけれど、
こうやって誰かと稽古するのは久しぶりで、少し緊張する
「いくぞ!」
以蔵くんが掛け声と同時に、庭に降りて技を打ち込んでくる
バキィッ!!!
いやいや、お手柔らかにって言ったのに関係なく打ち込んでくる
一つ一つの技が重たくて、受けるのに精一杯だ
「どうした?防いでばっかりじゃあ勝てないぞ!」
「...!」
それもそうだな
「ははっ、以蔵くんはいいこと言うね!」
「確かに、欲しいなら全力で攻めないと駄目だよね」
渾身の力を込めて打ち返す
バギィッ!!!
凄い音がしたと思ったら、以蔵くんの竹刀の先が折れて地面に突き刺さっていた
「やるな、慎太」
「へへっ。」
少し照れ臭くて、頭の後ろをかきながら竹刀を片付ける
「以蔵くん、また稽古つけてよ」
「ああ、でも今度は竹刀を壊すなよ?」
「わかった。気を付けるよ」
縁側に腰掛けて、素振りをしている以蔵くんを眺めていると、後ろから声がかかる
「おはようございます。慎太さん」
ビクッ
「お、おはようございます。ナナちゃん」
「お茶とおしぼりどうぞ」
ナナちゃんはそう言ってお茶とおしぼりを乗せたお盆を側に置く
「ありがとうございます」
「...」
「...」
会話が続かない...
「あの、ナナちゃん」
「わたし、慎太さんのこと好きだよ」
「...!!!」
「それは、仲間としてですか?それとも...」
「もちろん両方の意味でだよ」
「!」
「それは皆同じ」
「でも一人だけ、特別な人がいるの」
「それは、」
「わかりました」
「でも、俺はあきらめません」
「人は心変わりする生きものですから、これからのことは誰にもわからない」
「そうでしょう?」
「何もしないであきらめるのは嫌です」
ナナ―side
そう言った慎太さんの横顔は、少しだけ龍馬さんを連想させた
「慎太さん」
ガラガラ
「おう、おまんらここに居ったがか」
「あ、龍馬さん。おはようござ...」
がばっ。
と、言いかけたところでそれを遮られる
「へ?」
「んなっ!!?」
「慎太さん?!」
「何もしないのは嫌と言ったでしょう?」
慎太さんは、わたしを抱きしめながら耳元で囁く
「中岡、何しよるが!ナナさんを放さんかっ」
「お断りします」
「なっ!」
「あの、慎太さん?」
慎太さんは、少し腕を緩めたかと思うとわたしの左頬にキスをした
「!?」
「な、中岡あぁ~~~~!!!」
「龍馬さん、宣戦布告です」
「なんじゃと?!」
「もう、遠慮なんかしません」
「...!!望むところじゃっ!」
「ぐぬぬぬ~」
二人ともすっごいバチバチしてる
「お前も大変だな」
以蔵が素振りをしながら、こちらをチラリと見て笑う
「他人事だと思って~」
「他人事だからな」
「そうだけど」
「ごめんくださーい」
玄関の方から声が聞こえる
「お客さんだ、ちょっと行ってくるね」
「ん」
まだ言い合いをしている二人の横を通って玄関へ向かう
「は~い、どちらさ...!!!」
「久しぶりだな。ナナ」
目の前の光景に目を疑う
「モモちゃん!!!」
龍馬―side
ありゃ?ナナさんはどこに行ったかの?
「以蔵、ナナさんは?」
「玄関で客人を迎えてるぞ」
「ほうか」
「抜け駆けは許しませんよ」
「先に抜け駆けしたんはおんしじゃろ!」
中岡の制止を振り切り、玄関へと向かう
「おーい、ナナさん」
「!」
カチャッ、ダン!!
腰の刀を抜き、ナナさんを背に庇いながら相手の男に切っ先を向ける
「何者だ」
「返答次第では斬る」
「その刀...坂本龍馬」
「...!何故、わしの名前を知っている」
「それは、」
「龍馬さん!大丈夫です、この人は、、」
ナナさんが何か言いかけるのを遮り、男が答える
「許嫁です」
「何だと?」
「ナナの許嫁です」
「ふざけたこと言ってると容赦しない」
カチャリ
「おかしいな、史実では坂本龍馬はみだりに刀を抜かないはず」
「それに、標準語...別人か?」
「モモちゃん、変なこと言わないで」
「龍馬さん、この人はわたしの知り合いです」
ナナさんの言葉に刀を納める
「ほうじゃったか、それは失礼しました」
「...いえ」
「ほら、中に入って。聞きたいことがたくさんあるの」
「わかっているよ」
ナナさんに続いて男が廊下を通っていく
「何者じゃ?」
あの殺気、只者ではのう
「そんなことよりも、、」
「許嫁ちどういうことじゃあぁ~~」
小五郎ーside
「なるほど」
「それで、坂本君の機嫌が悪いわけだ」
会合中、珍しく上の空だった坂本君にワケを聞いて納得する
「何だと!!?それじゃあ、その男とナナは今二人っきりってことか!?」
「ほうじゃ」
「こうしてちゃいられねぇ!寺田屋に行くぞっ!」
「何言ってるんだ、お前はまだ仕事が残ってるだろ」
「非常事態だぞ、仕事なんかしてられるか」
こうなったら何が何でも行くと言うだろうな、仕方ない
「では、代わりにわたしが行こう。それなら構わないだろう?」
「うぅ。それはそれでマズイ気もするが、行かないよりはまだマシか」
「頼む」
黙り込んだまま歩く坂本君の背中を見ながら、尋ねる
「何を悩むことがあるんだい?」
「君とナナさんは、思い合っているじゃないか」
「......」
「その男は、未来から来たようなんじゃ」
「...!!?」
「普通の男ならば、ナナさんを渡す気はのう」
「しかし、ナナさんが元の時代に帰れるのならわしは、、」
何て顔をするんだ、坂本君
寺田屋に着くと、坂本君はそのまま他の仕事へ行ってしまった
「お邪魔するよ」
勝手の知った廊下を歩いて、広間に向かう
「ナナさん、居るかい?」
「あ、小五郎さん!こんにちは」
「やあ、久しぶりだね」
「お久しぶりです」
「ナナこちらの方は?」
「こちらは、桂小五郎さん。小五郎さんこの人は桃夜」
「あの桂小五郎さんかぁ。はじめまして桃夜です」
「どうぞよろしく」
「よろしく」
そう言って、差し出された彼の右手を握る
「桃夜殿は、ナナさんと同じところから来たんですか?」
「どうしてそう思うのですか?」
「今、あなたは右手を出して握手を求めた。それは欧米の習慣でしょう」
「以前、ナナさんから教えてもらいました。未来の日本ではその習慣が根付いていると」
「さすが長州の頭脳」
「その通りです。私はナナと同じ未来の日本から来ました」
「あなたがここにいるということは、未来と過去を行き来できる術があるということですか?」
「その答えは半分正解で、半分間違いです」
どういうことだ?
「結論から言うと、未来に戻ることはできます。しかし、それは自由自在ではありません」
「戻るには、時空の歪みが必要なんです」
「時空の歪み?」
「はい、ある一定の条件を満たすと時空に歪みができます」
「それはいつ頃かわかるのですか?」
「わかりません。わかるのは、満月の夜に起きるということだけです」
「満月の夜ですか」
「ええ、ロマンチックでしょう?」
「そうですね」
「わたしは、戻らないからね」
横を見るとナナさんが少しムッとした顔をしていた
「まだ言ってる。桂さんからも何か言ってくださいよ」
「というと?」
「ナナが未来に帰らないと言うんですよ」
「そうなのかい?」
「はい、わたしはここに残ります」
「ふふっ。そうか」
「ちょっと桂さんまで」
「そういうことだから、モモちゃんは次の満月で一人で帰ってね」
「ひどいなぁ。それに、必ず満月の日に帰れるとは限らないんだって」
「はいはい」
「まったく。まあ、せっかくだし外でも散歩して来ようかな」
「わかった。気をつけてね」
桃夜殿を見送って、ナナさんと話をする
「安心したよ」
「え?」
「もし、君が帰ると言ったらどうしようかと思ったよ」
「帰るって言ったらどうしてましたか?」
「それはもちろん、引き留めていたよ」
「ふふっ。ありがとうございます」
照れて恥ずかしそうに微笑むナナさん
「晋作さんはお元気ですか?」
「ああ、今日も君に会うと言って聞かなくてね」
「もう、晋作さんってば」
「近いうちに、会いに来てくれるかな」
「もちろんです!」
その後、少し世間話をしてから寺田屋を出る。
「満月の夜か...」
困ったな、晋作に伝えるべきかどうか、、
つづく




