第二十四幕
大久保ーside
全く、気に食わん。
目の前で高杉君とナナが楽しそうに夕餉を食べている。
黙って夕餉を食べていると
「お口に合いませんか?」
心配そうにナナが聞いてくる。
「いや」
「そうですか」
「大久保さんは妬いてるのさ」
「妬いてる?」
「俺が居るせいでナナと二人っきりになれないからな」
「んんっ。そんなことはない」
「そうですよ、晋作さん。そんな訳ないじゃないですか」
「ナナは鈍感だからな」
「鈍感?」
「ん、んんっ。わたしは少し仕事をしてそのまま休むから、君たちも勝手に休んでくれ。」
「はい、わかりました」
部屋を出て自室に戻り仕事を片付ける。
風呂に入り、縁側を歩いているとナナが自分の手を見つめていた。
「どうかしたのか?」
「!あ、いえ何でも」
そう言って両手を後ろに隠す。
「何故隠す?」
「別に何も隠してなんか…」
「ほう?」
「何ですか?」
「別に?」
そう言いながら顔を寄せると、焦って隠していた手で抑えてくる。
「!?何だコレは?」
手が半透明に透けている。
「…わからないんです」
「いつからだ?」
「昨日のお昼に一度だけ」
「痛みは?」
「何も…」
「坂本君たちは知っているのか?」
「…誰にも言ってません」
俯いたまま黙り込んでしまった。
「そうか」
坂本君からナナは未来から来たと聞いていた。
聞いたときは信じられなかったが、彼女の考え方や立ち居振る舞いを見ていれば納得せざるを得ない。
だが…
「許さん」
「え?」
「わたしの許可なしに勝手に元の時代に帰ることは許さん」
消えそうな手を握り震える小さな体を抱き締める。
「わかったな?」
ナナーside
突然の出来事に驚く。
「わかったのか?」
そう問われてコクコクと頷く。
「こちらに来たときも同じように体が透けたのか?」
「いえ、あのときは急に地面が揺れて…気が付いたらここにいました」
「ふむ」
「あの、大久保さん」
「何だ?」
「このこと、黙っててもらえますか?」
「…わかった」
「ありがとうございます」
「もう遅い。ゆっくり休め」
「はい、おやすみなさい」
用意してもらった部屋に戻る。
晋作ーside
ナナが部屋に戻ったのを確認して声を掛ける。
「一杯どうだ?」
「…ああ」
「珍しいな、断られると思ったんだが」
「今夜は飲みたい気分だ」
「それなら付き合うぞ」
お猪口に日本酒を注ぎ、お互いに黙ったまま杯を傾ける。
「…やらんぞ」
「何のことだ」
「わかってるだろ」
「ふん」
「あんな良い女はいない」
「…そうだな」
そして黙って杯に残っている酒を飲み干す。
大久保さんと別れてナナの部屋に向かう。
まずいな。少し酔いが回ってきた。
「ナナ、起きてるか?」
声を掛けるとすぐ返事が返ってきた。
「起きてますよ」
ガララ。
寝巻きに着替えて髪をおろしている姿は初めてだ。
「晋作さん?」
立ったまま動かない俺に問いかける。
「あ、いや。今夜は月が綺麗だから一緒にどうだ?」
そう言って二人で庭から月を眺める。
「本当。綺麗な満月ですね」
「そうだろう?」
「確か、有名な文豪が”I love you”を”月が綺麗ですね”と訳してました」
「何でそれが愛の告白になるんだ?」
「日本人の奥ゆかしさだと思います」
「奥ゆかしさねぇ。よくわからん」
「ふふっ」
首を傾げている俺を見て可笑しそうに笑う。
「嫁に来い」
ナナが大きな目をさらに見開く。
「…え、あの」
「だからそういうことは大事な人に…」
「わかってるだろ」
「嫁に来い、ナナ」
ナナの手を掴んで引き寄せる。
ナナーside
「晋作さん…」
「ちゃんと考えてみてくれ」
ポンッと頭を撫でてわたしを部屋まで送ってくれる。
「また明日な」
「はい、おやすみなさい」
布団の中で晋作さんの言葉を思い返す。




