第二十三幕
ナナーside
「ナナ様、迎えに上がりました」
玄関から薩摩藩邸の使いの人の声がした。
「それじゃあ、行ってきます」
「はい、ナナちゃんお気をつけて」
「明日の朝、迎えに行くぜよ」
「わかりました」
龍馬さんと慎太さんに見送られて薩摩藩邸に向かう。
薩摩藩邸に着いて大久保さんのいる部屋に向かう。
「来たか」
「はい、今日からお世話になります」
「何かお手伝いできることはありますか?」
「いや、今のところは大丈夫だ」
「そうですか…」
とりあえず、藩邸の人にお願いして庭の掃き掃除をさせてもらった。
あれは何だったのだろうか。
モヤモヤと昨日起きた出来事を考えていると、
「ナナ!!」
「きゃああっ!」
後ろから急に抱き締められて大声を出してしまった。
「わはは!相変わらず元気だな!」
「もう、驚かさないでください晋作さん!」
驚かせた犯人を睨みつける。
「すまないね。ナナさん」
「小五郎さん!こんにちは」
「ん?!いつの間に小五郎って呼ぶようになったんだ?」
「あ、それは…」
晋作さんの問いに答えようとすると
「そういう仲だからに決まっているだろう?」
小五郎さんが先に答える。
「!!何だと!?どういう仲だ〜!!」
ジタバタと晋作さんが暴れだす。
「こ、小五郎さん!」
小五郎ーside
少し怒ったように語尾を強くするナナさん。
先ほど玄関先から見た背中は今にも消えてしまいそうだった。
何かあったのだろうか。
いつもの様に晋作と戯れあっているナナさんを見る。
わたしの視線に気付いて振り向く。
「小五郎さん?どうかしましたか?」
心配する眼差しを向けられ
「いや、何でもないよ」
ポンっとナナさんの頭を優しく撫でる。
「後で教えてほしいことがあるんだけど構わないかな?」
「エゲレス語ですか?」
「ああ。忙しいなら後日でも…」
「いえ、今すぐでも大丈夫ですよ」
「それは助かるよ。大久保さんとの話が終わったら呼びに来るよ」
「わかりました」
ナナさんにくっ付いている晋作を引き剥がして大久保さんの待っている部屋に向かう。
大久保ーside
仕事がひと段落したのでナナの様子を見に部屋へ向かう。
「ナナ、いるか?」
部屋の前で声を掛ける。
「おう!大久保さんか、ナナならいるぞ」
何故か中から帰ったはずの高杉君の声が返事をする。
ガララ。
「あ、大久保さん。お仕事お疲れさまです。」
「ああ」
「お茶でも入れてきましょうか?」
「いや、構わん。何してる?」
「えっと、小五郎さんにエゲレス語を教えてます」
ナナのすぐ隣で微笑む桂君。
その後ろでエゲレス語が書かれた紙を見つめている高杉君。
「あ!わかったぞ!」
そう言って紙に何かを書いている。
「ナナ、合ってるか?」
「わあ!晋作さんすごい!大正解ですっ」
「わっはは!そうだろう!」
「ナナさん、こっちも見てくれるかい?」
「はい。…合ってます!小五郎さんばっちりです」
「ふふっ。ありがとう」
何だ、この光景は。
気に食わん。
桂君と反対側のナナの隣に座る。
「大久保さん?」
「わたしにもエゲレス語を教えろ」
「え、でも、わたしが教えることなんて…」
「何でもいい」
「それじゃあ、これを訳してください」
そう言って”I love you”と書いた紙を見せる。
「それくらい知っている」
「はい、直訳すると”あなたを愛しています”になります。でも、大久保さんの言葉で訳してください」
「それはおもしろいね」
「簡単だ。”嫁に来い”だ!」
「ふふっ。晋作さんらしいです」
「小五郎さんはどうですか?」
「そうだね。わたしなら…」
「“いつでも君の味方だよ”かな」
「わあ、素敵です」
「大久保さんはいかがですか」
桂君が挑戦じみた目つきでこちらに話を振る。
「んんっ。そろそろ仕事に戻る」
「あ、ズルイぞ!逃げたな!」
高杉君の言葉を無視して部屋を出る。
ナナーside
「ナナはどう訳すんだ?」
急に話を振られる。
「え?わたしですか?」
「わたしも気になるな」
小五郎さんもわたしの答えを待っている。
“I love you”
龍馬さんの顔がふと思い出される。
「…わたしのことは忘れてください」
「ナナさん?」
「!あ、えっと難しいですね」
「お茶入れてきますね」
そそくさと部屋を出る。
晋作ーside
「…わたしのことは忘れてください」
先ほどのナナの言葉を思い出す。
小五郎も同じことを考えているのだろう。ずっと黙ったままだ。
「今日はここに泊まる」
「何言ってるんだ晋作、ダメに決まっているだろう」
「あいつ、忘れてくださいって言ったんだぞ?きっと何かあるに決まってる!」
「それは…」
ガララ。
お茶を持ってナナが入ってくる。
「お待たせしました」
「今日は俺もここに泊まるぞ!」
「全く…」
「え?お仕事ですか?」
「いや、仕事よりも大事なことだ」
「はぁ」
「それじゃあ、わたしは大久保さんに了承を得てくるよ」
「おう、頼んだぞ!」
不思議そうな顔をしているナナの頭を撫でる。
「どこか行きたいところはあるか?」
ナナーside
晋作さんに行きたいところを聞かれ
「夕餉のお買い物に行きたいです」
と答えると、色気がない。と何故か怒られた。
大久保さんの了承を得た小五郎さんを見送った後、晋作さんと市に向かった。
「晋作さん、体調はどうですか?」
「ん?すこぶる良いぞ!」
そう言って晋作さんはわたしの頭を撫でる。
「ねえ、晋作さん」
「何だ?」
「わたしが居なくなったら寂しい?」
「!!」
ぐいっ!
晋作さんがわたしの手を掴んで林の奥へ向かう。
「晋作さん、どうしたんですか?」
尋ねても何も答えない。
「ゴホッゴホッ」
「晋作さん!」
きっと走ったからだ。急いで薬を出す。
「晋作さん、薬飲んでください」
「ゴホッ、いらん」
「何言ってるんですか!飲まないと発作が治りませんよ!」
「なら、どこにも行くな!ゴホォッ」
「え?」
「行かないって約束するなら、薬をゴホッ」
「わかりました!どこにも行きませんから、薬を飲んでください!」
ようやく晋作さんが薬を飲んでくれた。
「…もう!もう!晋作さんのバカ!」
「こうでもしないと聞かないだろ?」
「だからってこんなことしないで」
涙が止まらない。
「わかった。もうしないから泣くな」
「うぅ、ひっく」
晋作さんはわたしが泣き止むまで背中をさすってくれた。




