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moment  作者: しん
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第二十二章

ナナーside


ぅう。わたしのばか〜

あともうちょっとだったのに、怖気づくなんて…

「…好き、です」

先ほど言えなかった言葉をぽつりと零す。

この一言がどうしても言えない。

鏡の前で何度も練習したのに。

いざ、龍馬さんを目の前にすると思考停止してしまうのだ。

「そうだ、手伝ってもらおう!」

龍馬さんの代わりに練習相手を探しに部屋を出る。

「誰にお願いしようかな」

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、向こうから以蔵が歩いてくる。

よし、以蔵にお願いしよう!と決め、歩いてくる以蔵に声をかける。

「以蔵、ちょっといいかな。お願いしたいことがあるの」

「何だ」


以蔵ーside


自室に戻るところでナナに呼び止められる。

頼みたいことがあるというのに、もじもじとして何も言ってこない。

「用がないなら行くぞ」

そう言って止めていた足を踏み出そうとするも、またもや呼び止められる。

「あの、練習相手になってほしいの!」

「練習相手?」

「そう!ある人にどうしても伝えたいことがあるんだけど、その人を目の前にすると緊張しちゃって言えないの…」

「…龍馬か」

思い当たる人物の名前を言うと、ナナは顔を真っ赤にして小さく頷く。

「全く、少しだけだぞ」

「…!ありがとう以蔵!」

立っているだけでいいと言われたので、その場に立って深呼吸を繰り返しているナナを見る。

意を決したように俺を見上げて


「…好きです」

「これからもずっとあなたのそばにいさせてください」

そう言って満面の笑顔で笑う。


「……!!」

「ど、どうかな?」

「以蔵?」

「…い、いいんじゃないか?」

「本当?よかったー」

「それじゃあ、俺は部屋に戻る」

「うん、ありがとね」


部屋に戻って大きな溜息をつく。

「ったく、何だ。このモヤモヤしたものは」

寝られそうにないので、縁側に出て素振りをする。

(好きです)

先ほどのナナの告白が頭から離れない。


「…わかっていたつもりだったんだがな」


ナナーside


いつも通りに朝餉の支度をする。

今朝から武市さんと慎太さんは仕事で出掛けている。

なので、龍馬さんと以蔵とわたしの3人で朝餉を食べている。

「今日も遅くなるき、夕餉はいらんぜよ」

「わかりました」

龍馬さん、今日も遅くなるのかぁ。

「ナナはん」

女将さんに呼ばれる。

「お客様用の茶菓子買ってきてもらえる?」

「はい、わかりました」

茶菓子を買いにお店に向かう。

お店に着いてどの茶菓子を買おうか迷っていると…


「何してる?」

後ろからの呼びかけに振り返る。

「大久保さん!」

「使いか?」

「あ、はい。女将さんに頼まれて」

「そうか」

大久保さん、また少し痩せた気がする。

「大久保さん、ちゃんとご飯食べてますか?」


大久保ーside


心配そうに私を見上げてくる。

「問題ない」

そう答えるが

「嘘です。目の下に隈がありますよ」

少し不機嫌そうに言う。

「まあ、最近は少し忙しくてな」

「身体が資本ですよ!ちゃんと休んでください」

「そうだな」

「それなら、これから藩邸に来い」

私の提案に驚き、困ったような顔をして

「明日でもいいですか?今日は大事な用があって…」

「ああ、構わん。明日、迎えをよこす」

「わかりました!ではまた明日」

そう言ってナナと別れる。


ナナーside


大久保さんと別れて寺田屋に向かう。

今日こそ龍馬さんに気持ちを伝える。

ぐっと手を握りしめて、意気込む。

「アレ…?」

握りしめた手を見つめる。

その手の向こうにある地面が透けて見える。

「ど、どういうこと?」


ドクン。


心臓が鳴る。


嫌な予感が頭をよぎる。

「ヤダ!ヤダヤダ!」

透けている手を握りしめて走る。

「はぁ、はぁ」

フラフラになりながらおぼつかない足取りで歩いていると

「龍馬さん?」

道の向こうに龍馬さんがいた。

今すぐに龍馬さんに伝えたかった。

走ろうとしたところで他に人がいることに気付く。

可愛らしい女の人だった。

楽しそうに龍馬さんと話し込んでいる。

その様子を見てハッとする。

今、自分の気持ちを伝えてどうなるの?

いつ元の時代に戻るかもわからないのに、それって身勝手なんじゃ。

立ち止まっていると、龍馬さんがこちらに向かって歩いてくる。


龍馬ーside


知り合いの簪屋に頼んでおいたものを受け取り、仕事に戻ろうと歩いていると

「ナナさん?」

道の先にナナさんがいた。

こちらに気付いてはいないようじゃの。

「おーい!ナナさん」

手を振ってみるが気付く様子はない。

自分の手を見つめて立ち止まったままじゃ。

そしてそのまま行ってしまった。

「どうかしたんかのぉ」

寺田屋に戻ったら聞いてみるかの。


ナナーside


寺田屋に戻って夕餉の支度をする。

「ただいまぜよ〜」

龍馬さん?

「おかえりなさい、早かったんですね」

「うん、思ったより早く片付いての」

にししっと笑う。

「お腹空いてますよね?すぐ夕餉持っていきますね」

「助かるぜよ」

広間に向かう龍馬さんの背中を見送る。

夕餉を食べ終えてお風呂に入る。

昼間に透けていた手は今は元通りに戻っている。

「もう時間がないの…?」

不安が押し寄せてくる。


火照った身体を冷まそうと縁側に出ると龍馬さんがいた。

「ナナさん、ちょうど良かった」

トントンっと自分の隣に座るように促す。

「これを渡したくての」

そう言って懐から簪を取り出す。

「わぁ。綺麗…」

桔梗の花がモチーフになっている。

「受け取ってくれるかの?」

「…はい」

龍馬さんが簪をわたしの頭に刺してくれる。

「良く似合っちょる」

照れ臭そうに笑う龍馬さん。


ー好き。

 この人がたまらなく愛おしい。


「龍馬さん、わたし…」

そう言いかけたところで、透けた手を思い出す。


「ナナさん?ど、どうしたぜよ!」


龍馬ーside


大粒の涙を流すナナさん。

「どうしたんじゃ?気分でも悪いんか?」

そう聞いても首を横に振るばかりで何も言わん。

わしが何か傷付けるようなことを言ってしまったんじゃろうか。


少ししてナナさんが顔を上げる。

「ごめんなさい、何でもないです」

真っ赤な目でそう言う。

「じゃが…」

「簪、大切にしますね」

哀しそうに微笑む顔を見ると、それ以上何も言うことができんかった。

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― 新着の感想 ―
私だったら絶対以蔵さんを選ぶのに、、、
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