第十八幕
ナナ―side
「ナナはん、煮立ってるで」
「え?わ、はい」
慌てて鍋を火から下ろす。
「今日は昨日よりうわの空やなぁ」
「すみません」
「ええけど、何かあったん?」
「いえ、あの」
「誰かに好きって言われたん?」
「え!どうして…」
「どう答えたらいいか迷っとるんやな」
「はい…」
「その人のことどう思ってるん?」
「いい人だと思います。優しいし、頼りになります」
「けど?」
「けど、わたしなんかが傍にいていいんでしょうか?」
「それは相手が決めることや、あんさんが決めることやあらへん」
「はい…」
朝餉を持ってみんなのところへ行く。
「おはようございます」
「おはよう」
「ナナちゃん、おはようございます」
「お、おはようさん」
龍馬さんの前に朝餉を持っていく。
「ありがとう」
「いえ」
お茶を手渡すときに手が触れる。
「す、すまんちや!」
「あ、いえ大丈夫です!」
自分の席に戻る。
「何だお前ら、新婚じゃあるまいし」
「!」
以蔵、変なとこ鋭いんだから。
龍馬さんと目が合う。
ニコッとほほ笑みかけられる。
「…!」
うう、今のはずるいよ。
バタバタバタバタバタ!!!
「何だ、騒々しい!」
武市さんが眉間にシワを寄せる。
バタンッ!
「ナナ…!ナナはいるか!」
「晋作さん!どうしたんですか?」
血相を変えた晋作さんが飛び込んでくる。
「小五郎が!」
「え!?」
急いで長州藩邸に向かう。
桂さんが体調を崩して倒れてしまったらしい。
長州藩邸に着いて桂さんの居る部屋に入る。
「失礼します」
中には桂さんが布団で横になっていた。
おでこを触って熱を測る。
「かなり熱がある」
持ってきた解熱剤を飲ませる。
「ん…」
「少ししたら楽になりますからね」
隣に居た晋作さんが心配そうに聞いてくる。
「小五郎は大丈夫なのか?」
「はい、恐らく過労だと思います」
「そうか」
「ゆっくり休めば良くなりますよ」
部屋を出てお粥を作ろうと台所に向かう。
少しすると晋作さんが顔を出す。
「俺も一緒にいいか?」
「どうぞ」
「じゃあ、味付けしてもらえますか?」
「おう、あ…」
「ん?」
何とか出来上がったお粥を桂さんのところへ持っていく。
「失礼します」
障子を開ける。
側に座って身体を起こす。
「お粥食べれますか?」
「…うん」
パクッ。
「甘いね」
「ふふ、晋作さんが味付けしてくれたんですけど、お塩とお砂糖を間違えてしまって」
「晋作は?」
「今は、お部屋でお仕事してます」
「そうか」
少しずつお粥を口元に持っていく。
全部食べ終えて身体を横に寝かせる。
「ゆっくり休んでくださいね」
片付けようと立ち上がろうとしたとき
グイッ。
「え」
袖を引っ張られる。
「もう少しだけ側に居てくれるかい?」
「分かりました」
座り直して桂さんの頭を撫でる。
「何だか子どもに戻ったみたいだ」
「たまには甘えてもいいんですよ」
顔にかかった髪を横に流す。
「じゃあ甘えようかな」
「はい」
「…手を握ってくれる?」
「いいですよ」
出された手を握る。
「君が看病してくれるなら、倒れるのもいいね」
「それは困ります。元気でいてください」
そうだね、と笑う桂さん。
「さ、もう休んでください」
「うん」
少しすると寝息が聞こえてくる。
ゆっくりと手を外して片付けをするために部屋を出る。
片付け終えて、晋作さんの部屋に向かう。
「晋作さん」
「入れ」
「失礼します」
たくさんの書類に囲まれている晋作さん。
「小五郎はどうだ?」
「美味しそうにお粥を召し上がって今は眠っていますよ」
「そうか、ありがとう」
黙々と仕事をする晋作さん。
「あまり根を詰めないで下さいね」
「分かってる」
「晋作さんのせいじゃないですよ」
「分かってる」
「桂さんは大丈夫です」
「分かってる」
後ろを振り向いた晋作さんは、いつもの晋作さんらしくなく暗い顔をしている。
「晋作さん…」
「俺は、あいつが居ないとダメなんだ」
「はい」
「俺がバカが出来るのもあいつが居るからなんだ」
「はい」
「クソッ…」
晋作さんの手を握る。
「お二人は本当に仲が良いんですね」
「羨ましいです。そんな相手に巡り会えたこと」
「桂さんは大丈夫です」
「ナナ…」
手を引かれて抱き締められる。
「…ありがとう」
「はい」
部屋を出て桂さんの様子を見にいく。
「失礼します」
桂さんはぐっすり眠っている。
額の布を取って桶に入った水に入れて絞る。
ゆっくりと額にのせる。
「早く良くなってくださいね」
側に横になる。
桂―side
「ん…」
目を覚ますと横に愛らしい娘が規則正しい寝息をたてている。
「一晩中ついててくれたのか」
頭を優しく撫でる。
「うーん」
閉じていた瞳が開かれてわたしを見つめる。
「桂さん、気分はどうですか?」
「うん、おかげ様で大分良くなったよ。ありがとう」
「いえ」
朝餉の用意をしてきます、と部屋を出ていく。
汗まみれの着物を着替えて広間にいく。
「おう!小五郎、調子はどうだ?」
「晋作特製のお粥を食べたから良くなったよ」
「そうだろう!」
「失礼します」
ナナさんが朝餉を持ってくる。
「ナナが作ったのか」
「はい、桂さんはまだ病み上がりなので消化に良いものを作りました」
「何から何まですまないね」
「いえ、これくらいしか出来ませんから」
いただきます、とそれぞれ朝餉をいただく。
「美味いっ!!やっぱり俺の嫁になれ!」
「何言ってるんですか、なりませんよ」
「それは残念だ、ぜひ嫁に来てほしいんだけれど」
「え!?桂さん?」
「小五郎!コイツは俺のだ!!」
まだ熱があるのかも、と言ってわたしの額に手をおく。
「熱はないですね」
「熱のせいじゃないよ」
額にある手を取って口付けをする。
「!!?」
「お、おい!小五郎!お前っ!!」
「このお礼は是非させてもらうよ」
「は、はい…」
顔を真っ赤にした君が愛しい。その後で同じく顔を真っ赤にしている友に口角を上げる。
「なっ!」
たまには独り占めしてもバチは当たらないだろう。
ナナ―side
晋作さんに送ってもらって寺田屋に帰る。
道中、晋作さんはプリプリしていた。
「全く小五郎のヤツ、俺のナナに気安く触りやがって」
「でも、桂さん治ってよかったですね」
「フンッ。まあな」
「ふふ」
笑うな、と恥ずかしそうにそっぽを向く。
寺田屋に着いてお礼を言う。
「ナナさん、お帰り」
「龍馬さん。ただ今戻りました」
「桂さんはどうじゃ?」
「はい、もう熱も下がって起き上がれるようになりました」
「ほうか、それは良かったぜよ」
「はい」
自室に戻る。
「今度、疲れに効く漢方薬でも持っていこう」
夕餉の支度のため台所に向かう。
「ナナはん、お帰り」
「ただ今戻りました」
「桂さまはどうや?」
「はい、大分良くなりました」
「そうか、そら良かった」
そう言えば、と続ける。
「ナナはんが高杉さまに連れられた後、坂本さんがえろう心配してはりましたえ?」
「龍馬さんが?」
「そや、自分も行く言うて聞かなくてな」
思い出し笑いをする女将さん。
「そうだったんですか」
夕餉を広間に持っていく。
「ナナさんお帰り」
「お帰りなさい」
「ただ今戻りました」
みんなで夕餉を食べる。
「龍馬さん、わたしが晋作さんと行った後心配してくれたんですか?」
「へ?」
「ものすごく心配してましたよ」
「ええ、自分も付いて行くと聞かなくてね」
「餓鬼じゃあるまいし」
「おんしら、いらんこと言うな!」
龍馬さんは顔を真っ赤にして怒っている。
「ありがとうございます」
「礼を言われることじゃあないぜよ」
頭をポリポリと掻く龍馬さん。
夕餉を食べ終えて自室に戻る。
「ふぅ~。色々あったから疲れたな」
早々に眠りにつく。




