第十六幕
龍馬―side
今日は会合のため長州藩邸に来ちょる。
話し合いも終わり帰ろうとしちょったら
「まだ帰るには早いだろう」
とお酒に付き合わされている。
「高杉さん飲み過ぎぜよ」
「うるへー!!飲みたい気分なんだ!」
それはいつもじゃろう、などと思いながらお猪口を口に運ぶ。
「ナナは元気か」
「ああ、いっつもニコニコ笑ってみんなを和ませてくれちょる」
「狡いぞ!」
急に胸ぐらを掴まれる。
「俺だってなぁ、寝癖のついたナナの顔が見たいんだ…」
「あと、風呂上りの少し火照ったところ。あとうたた寝してる無防備なところとか…」
「とにかく!いつも一緒にいたい!」
「それは無理な相談ぜよ」
「何故だ!?」
「女将さんも助かっちょるし」
「お前は?」
「え?」
「お前はどうなんだ」
「わしは…」
「あん子はこの時代の人間じゃない。元の時代へ帰してあげないといかんぜよ」
「本心からそう思ってるのか?」
「それは…」
「まあいい!お前がそうしているうちに俺が攫ってやる」
「…!」
「何だ?怖い顔して」
「生まれつきじゃ」
「はははは」
「そろそろ帰るぜよ」
「そうか、ならナナに伝えておいてくれ」
「もう無理やりあんなことはしないから、遊びに来いってな」
「…!ナナさんに何したんじゃ!!」
「本人から聞け」
「~!!」
帰る途中、嫌な想像しか思い付かない。
帰ったら直接聞いてみるかの。
寺田屋に着いてナナさんの部屋に向かう。
コンコン。
「はい」
「わしじゃ、今えいかの?」
「どうぞ」
障子を開けるとニコニコと笑って座っているナナさんがおる。
「どうかしましたか?」
「高杉さんから伝言を預かっての」
高杉さんからの言葉を伝える。
「!」
ナナさんの顔が赤く染まる。
「何か無理やり嫌なことされたんかの?」
「え!?いえ、その」
「言いたくないなら言わなくてもえいが」
「えっと、その…く、口付けされました…」
「な!それは本当がか?」
「はい、でもそれだけで」
「それだけじゃないぜよ!」
嫌な予想が当たったしまった。
なんじゃこのモヤモヤとしたもんは。
「おまんは高杉さんを好いとるんか?」
「お友達としては好きです。でも、それ以上は考えたことありません」
そう言って下を向いてしまう。
きっと優しい子じゃ。突き放せなかったんじゃろう。
「ほうか、これからは気ぃつけや」
部屋を出ようとするが、袖を引っ張られて止まる。
「何じゃ?」
「龍馬さん怒ってます?」
「別に怒っちょらん」
「嘘、怒ってます」
「怒っちょらんち言うてるじゃろ!」
「ほら、怒ってる」
「今のはおまんが」
「ごめんなさい」
「何でおまんが謝るんじゃ?」
「だって、わたしのせいで龍馬さんを怒らせちゃったから」
今にも泣き出しそうな顔をする。
「自分に怒っちょったんじゃ」
「自分に?」
「そうじゃ。ナナさんが高杉さんに無理やり口付けされたち言うておるのに、わしもおまんに口付けしたいと思ってしまったからの」
「龍馬さん」
「…少し頭を冷やしてくる」
後ろを向くと後ろから細い腕で抱き締められる。
「!今言ったこと分かっちょるか?」
「分かってます」
「なら」
「わたし龍馬さんならいいです」
「!!」
振り返ると、大きな目が上目遣いでこちらを見ておる。それだけで理性が飛びそうじゃ。
「若い娘がそがなこと言うたらいかん」
そう言って腕を離す。
寂しそうにわしを見上げる。
そんな顔せんでくれ。今すぐ抱きしめとうなる。
「もう遅い。おやすみ」
「…おやすみなさい」
部屋を出る。
わしはおまんを元の時代に帰すと約束した。今、おまんを抱きしめたらもう手放せなくなる…
これで良かったんじゃ、と己に言い聞かせる。
ナナ―side
一人残された部屋でさっきの出来事を思い返す。
…!!!?
あれ?わたし結構すごいこと言ってない?
龍馬さんならって!
自分から誘ってるようなもんじゃん!
はしたない子だと思われたかな。
自分の言ったことを悔やみ反省する。
「もう寝よ」
眠りにつく。




