第十五幕
今日は朝餉を食べて、みんなを仕事へ送り出して庭の掃き掃除をしている。
もう季節は秋で、紅葉の葉っぱが庭を彩っている。
「わたしがここへ来て3ヵ月経つのか…」
自然と帰りたいと思わなくなっていた。
あれから考えたけど、思い当たるのは一つ。
タイムスリップ。
わたしは何故か幕末にタイムスリップしてしまった。
理由は分からない。誰が何のためにしたのか。
帰る方法もまだ見つからない。
そんなことを考えながら箒を動かしていると
「お、いいとこに落ち葉が集まってるぜよ」
龍馬さんが帰ってきていた。
「おかえりなさい」
「おう、ただいま。その落ち葉もらってもええかの?」
「?はい、どうぞ」
庭に下りてきて、落ち葉を山盛りにする。
「芋を焼こうと思っての」
「焼き芋ですか?」
「そうじゃ。焼き芋は好きかの?」
「はい!大好きです」
それは良かったと、落ち葉の上に芋を乗せる。
火をつけてじっと待つ。
その間にみんなが帰って来る。
「お!焼き芋ですか?」
「いい匂いだ」
「久しぶりだな」
出来立ての焼き芋をみんなで頬張る。
「あつっ!でも美味しい」
「まだまだあるぞ」
「食欲の秋だね」
おしゃべりしながら焼き芋を食べる。
その顔を見ながら思う。
みんなに言わなきゃ。
「あ、あの」
「ん?おかわりかの?」
「あ、いえ。みなさんにお話があるんです」
「どうしたんだい?改まって」
「わたし、自分がどこから来たのか分かりました」
「…!それは良かったぜよ!」
「どこから来たんだい?」
大きく息を吸って答える。
「未来です」
シーンと静まり返る。
「信じてもらえないかも知れないけど、わたしは今から百五十年後の未来から来ました」
「こりゃーたまげたぜよ!」
「本当かい?」
「はい、わたしの時代にあってここに無いもの、ここにあってわたしの時代にないものが多すぎます」
「最初にナナちゃんに会ったときに着ていた服は未来の服なんですか?」
「うん」
「じゃ、じゃあこれから起こることが分かるんですね!」
「うん」
「教えてください!坂本龍馬は未来でどう伝わっているんですか?」
「龍馬さんはとても有名ですよ」
「やっぱり!じゃあ日本はこれから」
「中岡!!」
龍馬さんが大声を出す。
「未来のことを聞いてもわしらのやることは変わらん」
「ですが…」
「知ってしまったら未来に安心して怠けてしまうかもしれんぜよ?そしたら、ナナさんの未来も変わってしまう」
「そうですね。すみません、ナナちゃん」
「ううん」
「それじゃあ、帰る方法も分かったのかい?」
「いえ、何故ここへ来たのか分からないので、帰る方法も分かりません」
「ほうか…」
それっきり誰も口を開かなかった。
夕餉のときもみんな思い思いに考えて誰も話をしなかった。
自室に戻ろうと廊下を歩いていると
「龍馬さん」
縁側で龍馬さんが月を見ていた。
「ナナさん」
龍馬さんの横に座る。
「……」
「……」
「すまん」
「え?」
龍馬さんが謝る。
「わしはおまんが毎朝、寺田屋にいることに安心していた」
「おまんを家に帰すと約束したのに」
「龍馬さん…」
「前に、月から来たのかちゆう話をしたの覚えとるがか?」
「はい」
「おまんは月よりも遠いところから来たんじゃな」
龍馬さんが寂しそうに笑う。
「大丈夫じゃ。必ず帰る方法を見つけちゃる」
龍馬さんが言う。
前に言ってくれたときはとても嬉しかったのに、今は全然嬉しくない。
わたし、どうしちゃったんだろ。
自室に戻って布団を敷く。
横になって目を閉じる。
帰る方法が見つかったらわたしは帰るのかな。
前のわたしならきっと迷わず帰っただろう。
でも、今は違う。
帰りたくないよ…




