第十二幕
今日は朝から長州藩邸にお邪魔している。
庭では奇兵隊の稽古の真っ最中だ。
「もっと声出せ!!!」
「おーーう!!!!!!」
高杉さんが士気を上げる。
「よし!次は二人一組になれ!」
パシッパシッと竹刀の軋む音が響く。
「うゎわ~」
ドンッと一人が尻餅をつく。
「もう嫌だ!やりたくない!」
「何を言っている!まだ出来る!」
「出来ません!!」
「そうか」
桂さんが間に入る。
「もう出来ないんだね?」
「はい…」
「待て!小五郎!こいつはまだ出来る!」
「荷物をまとめて出て行きなさい」
「え?」
「小五郎!!」
「これくらいの訓練で音を上げるやつに用はない」
そう言って後ろを向く。
「この人でなし!あんたはいつも冷めてて何考えてるかわかりゃしない!気持ち悪いんだよ!」
「おい!お前!」
そう言ってその人は走り去って行く。
「稽古を続けてくれ」
そのまま稽古は続けられる。
夜、桂さんが縁側で一人月を見ていた。
「隣いいですか?」
「君か、ああどうぞ」
隣りに腰を下ろす。
「気持ち悪いか…」
ふっと寂しそうに笑う。
「わたしはそんなこと思いません」
「ありがとう。でもこれでいいんだ。」
「え?」
「晋作がみんなの前に立って、わたしはその後ろでそれを見守る」
「晋作が太陽ならわたしはさしずめ、月と言ったところか」
「…桂さん、知ってますか?」
「月は太陽がないと輝くことが出来ません」
「でも、太陽も月がないと空に輝くことが出来ないんです」
「どちらも欠けてはいけないんです」
「桂さんがいて高杉さんは立ち続けることが出来るんです」
「だから…」
言いかけたところで抱き締められる。
「…ありがとう」
「はい」
「君は月が好きかい?」
「はい!月の優しい光がないと暗い夜道を歩けませんから」
「そうか…」
腕を少し緩めて、手を取られる。
そして、手の甲にキスをされる。
「!?」
「前、君から借りた本に書いてあった。外国の男は好きな女の手の甲にキスをしてその想いを伝えると」
「えっと…」
「君は晋作の想い人だ、この気持ちは隠しておくつもりだった。でも、この溢れ出る愛しさは留めることが出来ない」
「君が愛しい、ナナ」
もう一度、手の甲にキスをされる。
用意された部屋に戻り、ため息をつく。
キスをされた手を握り目を閉じる。
君が愛しい。
胸がドクドクと熱い。
気がつくと眠りに落ちていた。




