第十一幕
「ナナ!待ってたぞ!」
高杉さんが嬉しそうに藩邸の前で手を振っている。
「もう、中で待ってればいいのに」
「少しでも早くお前に会いたかったんだ」
そう言ってわたしの手を握って中に入る。
「今日は何をする?」
ワクワクと目を輝かせて聞いてくる。
「んー、そうですね。ダンスしますか?」
「だんす?何だそれは?」
「踊りです」
「踊りなら踊れるぞ!」
高杉さんはどじょうすくいをする。
「ふふ、それじゃなくて外国の踊りです」
「面白そうだな!教えろ!」
「まず、ここに手をおいて」
「こうか?」
「はい、男性が女性をリード、先導するんです」
ステップを踏む。
「はは、なかなか難しいな」
「外国の社交場で踊るんですよ」
「そうか」
少し踊ると、コツを掴んだようだ。
「上手いです!」
「俺さまは何でも出来るんだ!」
えっへんと胸を張る。
その胸に頭を寄せる。
「ナナ?」
「少しだけこのままでいさせてください」
心臓の音を聞きながら目を瞑る。
高杉さんが足を止める。
「?」
「まだ、元の時代に帰りたいか?」
「わかりません」
そう言われて、前ほど帰りたいと思わなくなったことに気づく。
「もし帰れなかったら、ここで俺の嫁になればいい」
ニッと微笑む。
「もう、そういうことは大事な人に言うんですよ」
「だから言っている」
どこまでが本当なのか分からない。
でも、体調は良さそうだ。
「そろそろ帰りますね」
「もう帰るのか?」
「はい、また来ます」
藩邸を出る。
青い空には太陽が燦々と輝いている。
「暑い~」
額の汗を拭いながら歩く。
「あ、ナナさん!」
元気な声に振り向く。
「沖田さん、こんにちは」
「こんにちは。お買い物ですか?」
「いえ、もう帰るところです」
「良かったら一緒にぜんざいでも食べませんか?」
仲良くしちゃダメなんだろうけどぜんざいは食べたい。
「はい!」
「やった!こっちです!」
沖田さんについていくと小さなお店がある。
「ぜんざい二つください」
「あいよ」
すぐにぜんざいが出てくる。
パクッ。
「ん~!冷たくて美味しい!」
「でしょう?こんな暑い日にはぜんざいが一番です!」
沖田さんも美味しそうにぜんざいを頬張る。
お店を出て、林道を歩く。
「ゴホゴホ」
沖田さんが咳き込む。
「大丈夫ですか?」
「はい、風邪かな」
そう言ってゴホゴホとまた咳き込む。
「ちょっといいですか?」
沖田さんの胸に耳をあてる。
「ナナさん!?」
少し嫌な音がした。
「咳は前から?」
「最近です。微熱も少しあります」
結核特有の症状だ。
持っていた結核の薬を出す。
「これ、良く効く薬です」
「え、もらっていいんですか?」
「はい、食後に飲んでください」
薬を渡す。
「ありがとうございます」
「お大事に」
そう言って別れる。
沖田総司……
彼も結核によって命を落とす。
龍馬さんたちの敵、でも目の前で苦しんでいる人を知らんぷりなんて出来ないよ。
寺田屋に戻るとみんな帰っていた。
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
夕餉を食べながら今日あったことをお互いに話す。
「こっちは順調じゃ。海援隊もだいぶ増えたしの」
「陸援隊も百人を超えました」
みんな上手く事が進んでいる。
「ナナさんは何か変わったことは?」
「わたしですか?あ、甘味友達が出来ました」
「甘味友達?」
「はい、一緒に甘いものを食べる友達です」
「ほうか、それはいいことぜよ」
「俺とも今度甘いもの食べに行きましょう」
「うん!」
「な、中岡!卑怯ぜよ!」
「全く油断もすきもないな」
「何で俺が責められるんですか」
「おんしが抜け駆けするからじゃ」
ワイワイと盛り上がる。
「以蔵は甘いもの苦手?」
「少しなら食べられる」
「じゃあ、今度一緒に食べに行こう!美味しいお店知ってるの」
「ああ」
今日も寺田屋は平和だ。
この時、この幸せがずっと続くと思っていた。




