第30話
ライザ国城下町の東門は大勢の兵士や馬車でごった返していた。
ルミはオッドアイの両目に涙を溜めながら解放されている東門を走り抜けた。
「ロゼッタさんもヘイデンもどうして分かってくれないの……?」
ヘイデン達と一緒に旅をして意見が対立したのはこれが初めてだった。それまで自分の提案に二人は快く賛成してくれてたのに……。
しかしルミは、折れそうになる決意をどうにか支えていた。尊敬するバロック先生の教えが彼女を勇気付けた。
この戦争を止めてみせる。ルミは根拠もなく妙に自信があった。ロゼッタが指摘した通り、彼女はその溢れんばかりの才能でアカデミーに入学してから魔法を次々と習得し、何かにつまずいた経験がなかった。
ルミは見晴らしのいい平原の丘に一人たたずむ。遠くの方にレフリ国の軍勢が確認出来た。このままでは間違いなくライザ国軍とぶつかるだろう。
ルミは神経を集中させてこの戦乱を陰で操る黒幕の気配を追う。その黒幕を倒せば戦乱は収まるのではないかと考えたのだ。そして、微かに邪悪な気配を感じた。ルミは気配のした方へと走った。
そこは洞窟であった。地獄へと続いているかの様なその洞窟に、ルミはためらわず突入した。
洞窟を進んで行くと、開けた場所に出た。そこにいたのは、
「やっぱりあなただったのね」
ルミは鋭い眼つきでその人物を見つめる。その人物はプロパの街のアンドリュー市長だった。
「ほう……。よくここが分かったな。お嬢さん」
アンドリューの口調には余裕が溢れていた。
「あなたがライザ国とレフリ国の戦争をあおってたんだ」
ルミは問い詰めた。アンドリューはごまかそうとしなかった。
「ああ、そうとも。あの忌々しいライザ国とレフリ国をまとめて世界地図から消してやるのだ」
アンドリューは語る。プロパの街とレフリ国は長らく友好関係にあった。しかしある時、レフリ国はライザ国と同盟を結び、親密な関係になっていった。アンドリューは孤立感を感じ、次第に両国を憎む様になったと言う。
「そして私は力を得たのだ! 光栄に思うがいい。この力を見せるのはお前が初めてだ!」
アンドリューはそう言うと頭を両手で抱えた。彼の全身に禍々しいオーラが満ちていくのをルミはひしひしと感じていた。次の瞬間、アンドリューの全身が真っ暗なオーラで覆われ、全身がみるみる変形していった。真っ暗なオーラが消えるとその姿がくっきりと顕現した。
「どうだこの姿! 美しいだろう!?」
その姿はとても美しいとは言えなかった。巨大な球形に口だけの異形の魔獣だった。全てを飲み込まんばかりの大口から異常に長い二枚の舌が伸びている。
あっけに取られるルミを見下ろす様に、少年が佇んでいた。少年はその様子を冷たい笑みを浮かべながら眺めている。少年はポツリと呟く。
「きたね、舌王エヴィアタン……。さあ、天の竜よ。君はこいつに勝てるかな?存分に舞ってくれよ。死の舞踏を……」
舌王エヴィアタンは蛇のような舌を鞭の如くルミへと振り下ろした。ルミはその攻撃を回避し、素早く火炎魔法を連発した。しかし大口の化け物は舌を高速で振り回してルミが放った火炎魔法をかき消した。
ならば大火炎魔法で!と思い魔力を集中させたルミはもう一本の舌への注意を怠っていた。突然ルミの身体は舌に巻き付けられた。
「わあっ!!」
ルミは一瞬何が起きたか把握出来なかった。舌王はルミの身体を縛っている舌を空中高く持ち上げた。
「きゃああああ!!!」
苦悶の表情で悲鳴を上げるルミ。舌王の凶暴そうな声が響き渡る。
「ぐはははは!!このまま喰ってやろう!!」
舌王の口が大きく開いた。ルミと舌王の距離がみるみる縮まっていく。
「わたし、このまま喰われて死ぬの……?」
ルミは絶望の表情で舌王のなすがままに大口へと吸い込まれていく。




