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第29話

 ライザ国城下町の北門前でルミ達は門番に制止された。


「この門は現在通行止めである」


 理由を聞くと、レフリ国の軍勢がすぐ近くまで迫っているので城下町の出入口は全て封鎖されたらしい。このままでは町から出られない。

 どうしても町から出たいと食い下がっても、レフリ国の軍勢が撤退するまで北門は通れないと突っぱねられた。


「どうしよう……」


 ルミ達は考え込む。このまま戦闘が終わるのを待つべきなのか。

 そうこうしている内に城下町の雰囲気は、先程までの平和なものから緊張感の漂うものものしい雰囲気へと移行していた。町を歩く市民の姿はいつの間にか消え、武装した兵士が闊歩し、武器を輸送しているとおぼしき馬車が次々と往来し始めた。

 ルミはずっと考えていた。この戦争は自分達には何の関係もない。なので関わらない様にして時が解決するのを待つのがおそらく正解なのだろう。

 しかし、ルミの脳裏に師匠であるバロックの言葉がよぎる。


「今、目の前で苦しんでいる人、生命の危機に瀕している人を助ける為に我々は大きな力を持つのです」


 そう。それこそが魔道士の原点ではないか。魔道士が魔法を研鑽するのは他人に自慢する為でもなければお金や名誉を得る為でもない。

 ルミはバロックの教えを思い出す。

 今戦争が起ころうとしている。戦争が起これば当然多くの無辜の民が命を落とすのだ。そうした時、人は戦争を止めてくれる者を欲する。しかし、戦争を止めるのは非常に難しい。戦争を始めるのは簡単だが、一度始めてしまった戦争を終わらせるのは考えている以上に困難なのだ。

 だが、今そんな事言っててもしょうがない。ルミはバロックの教えを思い出して決心した。戦争がなかなか終わらないなら犠牲者の数は増えるばかりだ。だから自分の力をこの戦争を止める為に使いたいと。例え一時的にでも止めなければ。それこそが魔道士の使命ではないのか。彼女は考えている事を二人に話した。

 しかし、二人の反応はルミが予想していたより淡白だった。ヘイデンは半分ルミに同調している感じだが、ロゼッタはルミの提案に反対した。


「そんな事したら私達がいたずらに消耗するだけよ。確かに犠牲者が出るのは残念だけど……。でも今は風のジュエルを守るために全力を注ぐべきよ」


 つまりロゼッタは、風のジュエルを守るのを優先すべきだと言うのだ。その為に無駄な戦いに身を投じて消耗するのは得策ではないと。ロゼッタは続ける。


「それに、一個人の力で戦争を止めるなんて無理よ……」


 ヘイデンもルミに理解を示しつつも、ロゼッタの意見を支持した。

 ルミは二人が自分に反対したのがショックだった。二人なら分かってくれるはずだと内心思っていたのだ。


「ルミ……、つらいかもしれないけど今は戦争が終わるまでおとなしくしていよう……。大丈夫!何日かしたら終わるさ」


 ヘイデンがルミに優しく諭す。だがルミは納得していなかった。


「じゃあ二人はここで待ってれば! わたし一人で行くから!」


 そう叫んでルミは東門へと走り去っていった。


「ルミっ!」


 ヘイデンが慌ててルミを制止しようとしたが、彼女はもう見えなくなっていた。


「ほっときなさい」


 ロゼッタは半ば呆れた様子でヘイデンの左肩にポンと手を乗せた。


「でも……」


 困惑するヘイデンにロゼッタは言った。


「おそらくあの娘、今まで挫折らしい挫折を味わった事がないのよ。だから全てにおいて何とかすれば何とかなると思ってる……。いい機会だと思うわ。世の中にはどうにもならない問題もあるって学ぶ為のね」


 ロゼッタはきびすを返した。ヘイデンは暗い表情でいつまでもルミが走り去って行った東門の方を眺めていた。

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